歌舞伎をほぼ毎月楽しんでいる50代男性。毎月観るために、座席はいつも三階席。
初心者ならではの目線で、印象に残った場面や役者さんについて書いてみます。
市川海老蔵改め十三代目市川團十郎白猿襲名披露 十一月吉例顔見世大歌舞伎は、いろいろ解禁された歌舞伎座で上演されました。この公演は八代目 市川新之助初舞台でもあります。
特別感に満ちた歌舞伎座公演から今回は、昼の部の三演目をご紹介します。
一、「祝成田櫓賑(いわうなりたこびきのにぎわい)」は、歌舞伎座で襲名披露興行をしている折、深川不動の境内にさまざまな人がやってきて祝い踊るという、その名の通りのにぎわいあふれる演目。
祝いに訪れるのは鳶や芸者に扮した役者たち。
鳶頭を中村梅玉さん、鴈治郎さん、錦之助さん、芸者松葉を片岡孝太郎さん、梅香を中村梅枝さんなど、ベテラン勢から若手までとにかく次々と登場しては舞い、ずらりと横一列に並んで見栄を切ります。
こうなると忙しいのが大向こう。コロナ禍で長らく中止されていた大向こうもこの十一月から復活しました。
そう、あの「〇〇屋!」という掛け声を客席から掛ける人のことです。
今月は、限られた方のみという条件の上で、この大向こうが復活しました。この演目には、多くの役者が次々登場しますから、「〇〇屋」の声が止まりません。
ご本人たちは大忙しだったと思いますが、やはり華やかな待ってました感があるので、
観客としてもあの声を聞くと盛り上がります。
舞台上からも成田屋の襲名披露公演の華々しさを祝う、オールスター勢ぞろい的演目でした。
二、「外郎売(ういろううり)」は、八代目市川新之助初舞台相勤め申し候とあります。
あの堀越勸玄くんが、歌舞伎役者 市川新之助として立派に曽我五郎時政を勤めました。
今回の歌舞伎座公演では、曽我五郎を主人公にした話が3演目あります。「外郎売」と夜の部の「矢の根」と「助六由縁江戸桜」がそれです。
曽我五郎といえば、有名な曽我兄弟の弟。凛々しい隈取や衣装も見どころの一つです。
五郎は外郎売に化けて父親の仇を討つ機会を狙っています。
市川左團次さん演じる小林朝比奈三郎義秀の呼び込みがあって、いよいよ外郎売の八代目市川新之助さんが登場します。すると、客席は一階席も二階席も三階席も、ざわざわざわ。
今かいまかと彼の登場を待ちます。
シャリーンッと揚幕の音が聞こえると、盛大な拍手が沸き起こりました。それは期待と祝いに満ちた本当にあたたかい拍手でした。
私も思わず拍手の力がこもりました。隣の方はもっとすごかった。
三階席の哀しさとしては、花道に登場してもなかなかその姿は見えないということ。
でもあの分厚い拍手を聞くだけでも十分にテンションがあがりました。
曽我五郎にとっての仇は工藤左衛門祐経。これを尾上菊五郎さんが演じます。
重鎮、人間国宝の菊五郎さんが受けて立つという豪華さがたまりません。
菊五郎さんの貫禄あるいい声が沁みました。
登場の後、芝居が一時止まって、この度襲名することになった旨と決意を語る、市川新之助さんによる口上がありました。
これには、舞台上の重鎮たちも、客席の私たちも目を細めてニタニタしてしまう感じです。
さて、「外郎売」と言えば、その由来や効能を語る早口の場面が最大の見所です。
若干9歳。そのため声がかん高く、聞き取りやすいとは言えませんが
長台詞を一度も止まることなく見事に言い切ると、再び劇場は大きくあたたかい拍手。
昼の部三本目は、
三、「勧進帳」です。
武蔵坊弁慶を團十郎さん、源義経を市川猿之助さん、関所で対峙する富樫左衛門を松本幸四郎さんが演じました。
富樫といえば、幸四郎さんの叔父にあたる故・中村吉右衛門さんの富樫を観たことを思い出し、少しせつなくなったりもしました。
義経、弁慶一行が加賀の安宅の関に現れるシーンは、花道が使われます。
團十郎、猿之助、巳之助、染五郎、左近、一蔵、華のある役者が花道にずらりと並びますが、残念ながら三階席から見えるのは舞台に近い2人だけ。こればっかりは辛いです。
筋書きには舞台写真が掲載されていますので、それを見ながら「あぁ、こういう感じか」と確認することになるのです。
義経と弁慶の二人の間には固い絆があるということは、数々の作品で描かれているところですが、勧進帳では、弁慶と富樫の問答が見どころ、聞きどころです。
弁慶は白紙の巻物を勧進帳に見立てその問答に相対するのですが、のぞき見しようとする富樫、見せまいとする弁慶のキレのある動きは見ていて楽しかった。
二人のやりとりは、徐々にヒートアップし、スピードも速くなっていくので、テンポもよく、見応えがあります。
弁慶の忠義の心に感動した富樫は、最終的に関所の通過を許します。
終わりの場面で富樫が勧める杯で酒を飲み干す弁慶を見て、もっと大きい盃を持ってこいとやりとりするシーンはとてもコミカル。私はこのシーンが大好きなんです。
山伏のなりをした弁慶役の團十郎さんはいかつさのある体型ではありませんが、やはり目力があるので体を張って主人の義経を守る弁慶らしい迫力も感じられます。
今回富樫を演じた幸四郎さんと弁慶を演じた團十郎さんは世代も近く、この先の歌舞伎界を担っていく人たちです。それぞれの息子も歌舞伎役者の道に進んでいますから、
今後も数多く共演して欲しいなと感じました。
夜の部については次回ご紹介します。