歌舞伎をほぼ毎月楽しんでいる60代男性。毎月観るために、座席はいつも三階席。
印象に残った場面や役者さんについて書いています。
月をまたいでしまいましたが、どうしても團菊祭五月大歌舞伎の夜の部についてもご紹介させてください。
「二、口上」
襲名披露名物の口上。夜の部では、お芝居以外にこの口上目当てにお越しになった方も大勢いらっしゃったかと思います。
口上は大抵、幹部の大御所が、最初に挨拶をして進行していきますが、今回は、襲名披露を行う八代目尾上菊五郎さん、六代目尾上菊之助さんの御父上、お爺様である七代目尾上菊五郎さんが担当されました。
前列には大物の役者さんたちが一列に並び、次々と口上を述べていきます。
その中でも、やはり八代目尾上菊五郎さんと同い年、同じ学校、同じ歌舞伎界の名門の家に生まれた市川團十郎さんの口上を楽しみにしていました。小さいころの話も、若いころには、舞台上で話せないようなことも一緒にしたとか笑いも取りながら、歌舞伎界を共に背負っていくこと、息子の市川新之助さんが尾上菊之助さんとともに大きく成長していってもらうことを期待していることなど襲名披露にふさわしい内容で素晴らしかったと思います。
「三、弁天娘女男白浪」
初めてこの演目を観たのは、平成25年4月の歌舞伎座で、弁天小僧を七代目尾上菊五郎さん、日本駄右衛門を二世中村吉右衛門さんで演じられた舞台でした。当時は、歌舞伎を観始めて時間があまりたっていなかったので、よく理解できていませんでした。
次に見たのは、平成30年5月の團菊祭、十二世市川團十郎五年際の時に、弁天小僧を七代目尾上菊五郎さん、日本駄右衛門を当代市川團十郎さん(当時海老蔵)が演じられていました。
稲瀬川勢ぞろいの場では、他に南郷力丸役で市川左團次さん、忠信利平役で、尾上松緑さん、赤星十三郎役で八代目尾上菊五郎さん(当時菊之助)で、看板俳優が、勢ぞろいした迫力やかっこよさに圧倒された記憶を思い起こしました。
「浜松屋見世先の場」
白浪ものというのは、簡単に言うと泥棒の話になります。武家の娘に扮した弁天小僧が、南郷力丸とともに、他の店で買った小布を使って、浜松屋から金をゆすり取ろうという話です。番頭が、他の店で買った小布を、浜松屋のもので、それを万引きしたと勘違いし、算盤で殴って、弁天小僧の額に傷を作ってしまいます。それを理由に、大金を強請り取ろうとします。玉島逸当に扮する日本駄右衛門から、正体を明かされ、武家の娘から盗賊の弁天小僧菊之助に変貌する様、ふてぶてしい大盗賊への変身の様、「知らざぁ言って聞かせやしょう」から始まる有名なセリフを言う場面は、プリンスというイメージを脱した菊五郎さんが大悪党を貫禄たっぷりに演じてたまりません。その後に、役所に突き出せと居直る様も貫禄十分です。七代目に負けず劣らず、チケット代が安く感じる素晴らしいお芝居でした。
「稲瀬川勢ぞろいの場」
追い詰められた盗賊五人が、お縄になるところです。揚幕(花道の奥にある幕)から五人が登場し、花道でいったん止まり、渡り台詞をいうところから始まり、舞台上で立ち廻りを行います。なんと、今回、この場面だけ看板役者のご子息らが担当します。
日本駄右衛門を市川新之助さん、弁天小僧菊之助を尾上菊之助さん、南郷力丸を尾上眞秀さん、忠信利平を坂東彦三郎さん、赤星十三郎を中村梅枝さんが演じます。
10歳前後の次世代を背負う方々です。口上で、市川團十郎さんが、尾上菊之助さんに対し、息子の市川新之助さんとともに次世代の團菊を背負ってほしい意味のことを話していたのを思い出しました。襲名披露の團菊祭という大舞台で、前後の場面では、父親たち看板役者が演じている中で、大役を演じるのはかなりのプレッシャーでしょうが、みなさん立派に演じておられました。
「極楽寺屋根立腹の場」
弁天小僧菊之助が、極楽寺に追い詰められ、大立ち回りを繰り広げ、最後には立腹(立ったまま切腹すること)を切り、壮絶な最後を遂げます。最後に見栄を切ると同時に、有名ながんどう返し(大道具を後ろに90度倒し、床面を垂直に立てる)で場面転換となります。がんどう返しの際も、八代目尾上菊五郎さんは、三階席まで見えるようにしっかり見栄をしていました。さすがです。七代目に負けていないと感じました。
「極楽寺山門の場」「滑川土橋の場」
弁天小僧菊之助に代わり登場するのが、日本駄右衛門です。衣装は、山門五三桐の石川五右衛門そっくりです。日本駄右衛門を捕えようとする川越三郎と大須賀五郎の二人を追いやります。山門がせりあがり、一段高いところに日本駄右衛門がいることになります。(山門五三桐で、石川五右衛門が、「絶景かな、絶景かな」という有名なセリフを言った後に、真柴久吉が登場する場面のようです。)
山門の傍らの滑川の土橋の上で、青砥左衛門藤綱が、日本駄右衛門と対峙します。青砥の脇には、伊皿子七郎が松明片手に控えます。青砥は、七代目尾上菊五郎、日本駄右衛門は市川團十郎、伊皿子七郎は八代目尾上菊五郎と團菊が勢ぞろいとなりました。
もうThis Is Dankikusaiというメンツで終了します。
何という演出でしょう。歌舞伎でなければスタンディングオベーションをしているところです。拍手喝采の嵐です。お話的には、山門五三桐と登場人物は違いますが、内容はほぼ同じなので、親しみやすい演目でよかったと思います。
市川團十郎さんお得意の石川五右衛門と同じような衣装で、よく似合っていました。カッコよかったです。
昼の部に続き、夜の部も楽しすぎて、興奮冷めやらぬ1日でした。
襲名披露公演は6月も続きます。
