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一切れ問題~京の巻

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日常の中から、エンタメを整理収納目線、暮らしをエンタメ目線でつづります。栗原のエッセイ、つまりクリッセイ。

久しぶりに、本当に久しぶりに仕事で京都へ来た。
いつもと違う場所にいけば、好奇心はムクムクと大きくなり、
視線も琴線も敏感になる。金銭感覚は鈍感になるけれど。

京都の夜、宿泊先のホテルの近くにあるおばんざいやさんに一人で入った。
一人はドキドキする。
ドキドキしながらこじんまりとしたお店を選び、ドキドキしながら暖簾をくぐった。

カウンターに座る。
誰かがレビューで書いていたけれど、女将さんが一人で切り盛りしている感じのお店で
愛想のよい人というより、男前という感じだろうか。
瓶ビールの小瓶を頼んで、予想以上にパンパンに披露した脚と体におつかれビールをしみこませた。
さて、コミュニケーション取りたい病の私だが、カウンターに一人おさまり、しばらく大人しく飲んだり、食べたりする。
明らかにいつもより一口を小さく、明らかにいつもよりよく噛んで。
そして、お店にいる他のお客さまの会話に少し耳を傾け、楽しそうな話なら
なんとなく一緒に微笑んだりもする。
もちろん、話に割って入ったりなどせずに。

ずーっとスマホを見るのも風情がないし!?
かといって考え事をするというのでもない。
そしておばんざいは美味しいので、当たり前に食が進む。
明らかにいつもより一口を小さく、明らかにいつもよりよく噛んでいたとて、
目の前の小皿がカラになるのにさほど時間はかからない。
焼いた万願寺唐辛子に薬味としてつけられていた生姜と鰹節をちびちびつまみながら
ゆっくり指令を自分に課す。

空いたお皿を下げてくれる時、3~4センチ残していた万願寺唐辛子の皿もひょいっと持ち上げられた。
「あ、まだ食べます!」
普段は結構言いそびれて、一緒にいる友人がそれを言ってくれることが多いのだけれど、
この夜は大事なちびちびだから、そんな風に言えた。

常連さんであろう3名客が帰ると、奥の小上がりにいる男性2人組以外は私だけとなった。
さぁ、ここからはコミュニケーション取りたい病の出番だ。

何を話した(聞いた)かといえば、
・注文して食べていた「にしんなす」、ニシンとナスという組み合わせはこちらでは一般的なのか?
・ゴールデンウィークの人出は2年ぶりにすごかったか?
・お店の名物が「からしレンコン」なのは、熊本に所縁があるのか?

こんな感じだ。
これらのお答え、興味がある方が多そうなら、またここで書くことにしよう。
でも、一見不愛想な女将さんとも気持ちよくお話をして、ほろ酔いでホテルに戻った後、
偶然ロビーで仕事の担当さんと一緒になり、そこからまた結構な時間立ち話をした。

一夜明けて、ホテルでまあまあのボリュームの朝食をいただいた。
デザートについていたフルーツのうち、パイナップル一切れを残した。
盆を下げる時、ホテルのスタッフがこう言った。
「こちらは、そのままお下げしてもよろしいですか?」
つまり、残っているけど下げちゃっていいですか?という意味。
「苦手なので」と答えて下げていただいた。
とても気持ちのいい対応だなと思った。

万願寺唐辛子にはちょっと待ったをして、苦手なパイナップルは下げてもらう。
どちらがいいというのではなく、どちらもちゃんと自分の意思だぞということ。
旅先では、こんな小さなことも、「あ!」と思えたりするんだよな。