気になるプロダクトやプロジェクトをエンタメ性や整理収納の考え方に寄り添いながら紹介し、読者の「キニナル」を刺激します。
船橋在住の現代美術家/水墨画家、荒井恵子さんの作品展「荒井恵子 船橋三部作-宝成寺・三番瀬・玉川-」が2021年12月7日(火)~19日(日)、船橋市民ギャラリーで開催されています。
水墨画と聞くと、和室に掛けられた軸をイメージする人も多いかもしれませんが、荒井さんの作品はサイズも展示方法もさまざまです。
躍動感に富み、静と動の両方を感じる作品展の様子をレポートします。
3部に分かれた展示の第1部は、西船橋にある曹洞宗の寺院「宝城寺」に奉納された襖絵の実物を展示。ギャラリーの中央に凜とした佇まいをみせる襖絵「空」と「宙」。
「空」は生きとし生けるもののつながりや鼓動を感じさせ、植物のように見えたり、動物のようにも見えます。
襖絵として、開け閉めした時の見え方にもまた作者の思いが込められているそう。
「宙」は墨に緑青や柿渋を重ねることで生み出される色の世界が浮遊感やじわりと広がる何かを感じさせる神秘的な作品。
実際の寺でこの襖絵を見た時は、どう見えてどう感じるのか。少しでもそれを感じるには、
目線を座った時の高さに合わせるとよさそうです。
次に展示されているのは「玉川旅館」に作品を設置した記録。
「玉川旅館」とは、2020年に惜しまれつつ廃業した老舗割烹旅館。作家・太宰治が宿泊し、執筆活動に勤しんだことでも知られていた場所です。
しかし、船橋に暮らす誰もが知っていて利用したことがあるかと言えば、旅館という場所柄、むしろそれは一部の人であったことも事実です。
今はもう現存しないその場所で、荒井さんの作品がいきいきと展示されていた様子は、写真と映像で見ることが出来ます。
玄関に暖簾のように掛けられた大きな作品、「日々刻々「起」」は実物が展示されており、表から、裏から作品を観ることが出来ます。
和紙に描かれた丸の重なりは、表と裏で色の濃さが異なり、二つの作品のよう。
大広間に無数に並べられた作品の数々は、人が集い、場や時間を共有した人々の息づかいが聞こえてくるよう。岩づくりの風情ある湯場に展示された作品も魅力的です。
100年の歴史を紡ぎ、有形から無形となった建物の存在を、荒井さんの作品を通じて思い返したり、あるいは初めて知るという体験を運んでくれる展示です。
映像が映し出されるスクリーンが和紙であることも付け加えておきたい魅力です。
そして、船橋の干潟・三番瀬での展示。百の墨を用いて生み出された作品「日々刻々」を、三番瀬に竿を立て、吊るしかけた和紙の作品は、風にそよいだり、夕陽を干潟の向こうを背景にして展示されています。
地球を舞台に展示したという言葉の通り、作者にとって所縁のある場所である三番瀬に、呼吸を感じる作品が掛け合わされると、人は何を感じることが出来るのか。
もちろん、作品が展示されていた干潟・三番瀬に訪れてみたいと思う人もいるに違いありません。
墨の濃淡、さまざまな素材の筆の跡、和紙の風合い、デザイン、何に魅せられるかは、観た人に委ねられています。
気になる作品を見つけたとき、
「こうでなくてはならない」ではなく、
「どうありたいか」に向き合うことが出来るような、そんな作品展でした。
(写真・文/栗原晶子)