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あれから僕たちは……を感じた『ハムレットQ1』

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誰かと一緒に観劇すると、共感が何倍にも膨らんだり、違った目線がプラスされます。
作品をフィーチャーしながら、ゲストと共にさまざまな目線でエンタメを楽しくご紹介します。

今回ご紹介する舞台作品は、5月にPARCO劇場で上演された吉田羊さん主演『ハムレットQ1』です。
ご一緒したのは、整理収納アドバイザー仲間で壁紙のスペシャリストの青山美香さんです。

※以下、作品のネタバレを含みます。

デンマーク王子ハムレットは急死した父の葬儀のために留学先から帰国する。悲しみの涙も乾かぬうちに、母ガ―トルードは叔父のクローディアスと再婚。叔父の陰謀を知り、復讐に燃えるハムレット。
彼を慕っていたオフィーリアにも冷たい態度を取り、その父・ポローニアスを殺してしまう。
父と妹の敵を討つべく、レアティーズはハムレットに剣の試合を申し込む。彼らの運命は……。

モダンな美術や衣裳が伝える
クラシックな世界

栗原 私たちが座ったのはPARCO劇場の後方、上手側の席。ステージ上の美術で印象的だった三角の頂点が対角線上に見える場所でした。
青山 交差しているところにちょうど役者さんの立ち位置が来る感じでしたね。陰影が対比しているところで、スポットライトが透過で当たるか、後ろからクロスして当たるか、上から当たるか、シーン毎でサイドの陰影が出るようになっていたり、影の出方や舞台の奥行がすごくよく見えたのはあの席だったからだなと思いました。
栗原 衣裳もいわゆるシェイクスピアって感じじゃなくて。
青山 スーツだったからモダンで、美術と調和してましたよね。直線が多いとモダンな印象になるし、時代を感じさせるものは使われていないのに、クラシックさはちゃんと伝わるなって思いました。
栗原 幕間にはその衣裳のことや、ギルデンスターン役の永島敬三さんの声が良いね~って話しました。劇中劇で歌われた役者さんたちの歌声も素敵でしたね。
青山 劇中劇もいかにもという感じではないのが新鮮でした。『ハムレット』って台詞劇だと思っていたけれど、今作を見て改めて「エンターテインメントだ!」 って思いました。
栗原 それが今回の『ハムレットQ1』ならではなのかな? 解釈というか演出によってこれだけ違った印象を持つというのが、古典の素晴らしさ、演じ続けられている所以なんでしょうね。今ならわかる!?
ハムレット初体験からはや●年

栗原 私が初めて観た舞台が『ハムレット』なんですけど、とにかくセンセーショナルな体験でした。18歳で、一人で初めてのシェイクスピア、初めての蜷川幸雄演出だったので。その時に観たオフィーリアはもう「狂ってしまった人を間近で見た」というすさまじさ。それから驚くほどの月日が経過して、今日観た飯豊まりえさん演じるオフィーリアは、悲しみを体にまとっていて泣けてしまった……。こっち回りだっからこんなことになってしまった、反対回りだったらこうではなかったはずなのに、みたいな。
青山 実はちょっと気になるシーンがありました。吉田栄作さん演じるクローディアスが懺悔した後に闇落ちしていったところ。反省したんじゃないのか? って、あの気持ちの移り変わりがちょっとよくわからなかったというか。
栗原 あれは反省というより、見えない相手(ハムレット)を見ての命乞いのように私は捉えてました。
青山 あ、やっぱりあれは現実に対峙しているわけではないですよね。それなら納得。遠近法で重なって見えるだけ? とか、ちょっと混乱してたので。
栗原 互いの存在はあのくらいの距離なのだけど、憎しみという意味では近距離、物理的な距離は現実ではないのではないかと勝手に解釈してました。
青山 なるほど。
栗原 闇落ちでしたね。戦乱の世にあって、彼には味方というか信用できる人はいなくて、それ故の……。
青山 そういう部分って今の社会にも通じるところがありそう。よく経営者は孤独とかって聞くし。だからスーツが合うというのもあるかも。
栗原 彼のラストシーン、バッタリと思い切っていってましたねー。

時短や効率化に慣れ過ぎている
自分たちを知る

栗原 ところで、パンフレットにはYes,Noでたどっていく「あなたを縛るものは何?」というチャートテストがありますよ。やってみよ~!!
※この日、このタイミングでは二人とも、言葉に縛られる「ホレイショー」でした。当たっているような、いないような!?

栗原 
主演のハムレットを演じたのは吉田羊さんでした。どうでした?
青山 
今回の演出だと本当にハマリ役だなと思いました。性差を意識しないで演じられるってすごいなって思います。男とか女とかそういう感覚は全くなくてハムレットでした。
栗原 たしかに。
青山 光の演出の効果もあって、しっかり強弱があってダラーっと流れる感じがなかったのが良くて。一か所だけ、剣の準備をするシーンがちょっと長いなぁと思ってしまったんだけど、そう思いながら一方で、時短とか効率化とか、TikTokの数秒間みたいなものに慣れている自分たちの感覚のせいなんじゃないかなと思ったりして、シェイクスピアの時代の演劇っていうのはもっとゆっくり時間が流れていたんじゃないかと思うし。
栗原 丸一日かけて上演されるとかもあったでしょうからね。
青山 そう考えると光や音の使い方や、劇中劇の初めにダイジェストのように見せたのも令和版の『ハムレット』ならではなのかなと思ったりしました。
栗原 たしかに……。劇中劇の初め、サムネが先に出た、みたいな感じにも見えて面白かったですもんね。
青山 そうそうそう。本筋は変えずに、でも時代に合わせた演出なのだとしたらすごいなぁーって。間延びしているって思う感覚は、自分の方にある感覚なんだと気づかされました。

※ハムレットの原本には、Q1、Q2、F1という3種類があり、Q1はシーンの入れ替えやキャラクター造形の変更など、コンパクトにまとめられたバージョンだそうです。

栗原 それに気づけるってすごいかも。もしかして、観ていて長いと思ったりするシーンって、自分の中での優先順位みたいなものがあって、それこそ「ここは早送りしたい」みたいな自分リモコンみたいなものを知らず知らずのうちに持っちゃっているのかもしれない。
青山 間延びと感じるシーンが実は大事だったりするかもしれないのに、概要欄からサッと飛べるとか、トータル何分か確認してから見るみたいなものに慣れてしまっているとか。
栗原 たしかに日常生活の習慣みたいなものが観劇において侵食しているのだとしたら、考えものだなぁ。きっとそういうものに抗ったり、寄り添ったりしながら演出ってものがあったりするのかもしれない。深い……。

青山 日常にはいろいろな型があって、必要な型もある。なんでもかんでも効率化とか無駄を無くすことを優先することに違和感を感じていることに、まさか観劇しながら反対側から気づかされるとは思いませんでした。
栗原 美香さんが必要な無駄を実践していることって何ですか?
青山 壁紙のカタログにある商品概要を、簡略化された日本語(翻訳)で読むのではなくて、一旦英語で読んでます。面倒くさいけれどそうすることで、作品のバックグラウンドを知ることが出来るので、お客様に壁紙を提案するときに説得力が増すんです。見慣れない英単語がたくさん出てくるのだけれど、ヨーロッパ文化が垣間見えたりするし、大事なひと手間だなと思ってます。シェイクスピアが人気、クラシックが人気、古い建物を大切にする……みたいなことが全部つながっていくんですよね。
栗原 古いものって堅苦しいものでなくて、意外と自由だったりすることにも気づけますよね。私がしている必要な無駄はなんだろう? うーん……。

青山 カーテンコールでキャストの皆さんが並んでいるのを見たときに改めて思ったんですけど、吉田栄作さんがこうして舞台に立つ姿、あの頃は想像もしてなかったし、ご本人もされてなかっただろうなって。栗さんも18歳の時に一人で観た『ハムレット』を今、この歳になってまた観ているという未来、想像していなかったんじゃないですか?
栗原 その通り! 当時はそんな未来をまるで想像も妄想もしてなかった。あの頃は『ハムレット』もシェイクスピアも何もわからなかった。観劇体験という部分しか記憶にないけれど(汗)、月日を重ねて『ハムレット』を自分なりに理解できる未来があったとは!!
青山 こんな風に観劇の感想に加えて、重ねてきた時間をシェアするのも面白いですね。
栗原 またご一緒しましょう!

渋谷のカフェでまさかの!? 夜パフェ
今回エンタラクティブしてくださったのは……
青山美香 (Mika Aoyama)さん
インテリアコーディネーター、整理収納アドバイザーとして、壁紙と整理を融合させた心地よい暮らしを提案。 趣味は、読書、美術館巡り、お菓子作りのインドア派。
インテリア青山オフィシャルサイト