日常の中から、エンタメを整理収納目線、暮らしをエンタメ目線でつづります。栗原のエッセイ、つまりクリッセイ。
私にはいる。
思えばいつの時代も「推し」というか「ファン」がいる人生だ。とはいえ「推し」という言葉のイメージのような、熱狂的というか寝食削って、無条件に全部購入、全通する……みたいなことはない。
それでも取り立てて「好き!」という対象がいないという人からは、うらやましいと言われることもある。
「推し」のいる生活は、私にとってスタンダードで健全、なのだ。加えて「冷める」という現象もほとんどなく、一度好きになったら長い。
「まだ好きなんだね?」とか言われると「は!? 当たり前じゃん……」みたいな謎の強気モードになったこともあったっけ。
そんなこともよーくわかっている学生時代からの友人を誘って、「推し」に会いに行った。
彼女は雑誌などで長年活躍しているモデルさん。整理収納アドバイザーらしくここは彼女の素敵なところを「全部出し」してみよう。
・かわいい&美しい
・瞳が大きい
・涙もろい
・照れ屋さん
・お悩み相談の答えが気持ちいい
・もちろんスタイル抜群
・愛情深い
・愛犬家
・お手紙書くところが素敵
・結婚相手も素敵
・お料理上手
・ファンにやさしい
(順不同)
実はまだまだたくさん出せる、けれど、想像やら印象も入ってきちゃうと収拾がつかなくなるので、とりあえず1ダース分書き出してみた。彼女を知ったのはコロナ禍に見たとある配信番組だった。
何度も何度もリピートして番組を楽しんだし、その番組が終わって以降も彼女のSNSをフォローしたりして応援したい人になった。
彼女のことをもっと前から知っていて、長年ファンでいる人も多く、そのファンの人たちのファンでもあるなぁと感じることがある。
彼女の年齢は、自分の子どもでもおかしくないくらい若い。けれど、私は彼女をとてもリスペクトしている。そうなのよ、私の「好き!」の対象は、それなのよ。
そんな彼女が2年前、自身がディレクターを務めるブランド「ARUMDY」を立ち上げた。
ブランドコンセプトは、
아름답다(アルムダプタ、韓国語で「美しい」という意味)と、Ladyを掛け合わせた造語。
ARUMDYの袖を通した全ての人が自分で自分を愛し、いつも美しく自信に満ち溢れていて欲しい。また、皆さんが幸せな道だけを歩けるようにという願いを込めて。(公式より)
このブランドの特徴は、高身長女性のためのトールサイズ(165㎝~175㎝)展開であること。
ターゲットは彼女と同世代。
身長167cmの私は、トールサイズ(165㎝~175㎝)ここにバッチリハマるうれしさで、「ARUMDY」のお洋服のファンにもなった。
長袖トップスの袖丈とか、ワンピースの丈が、こういうの欲しかった! なサイズなのだ。
(ちなみにトールサイズ以外のサイズも展開している)
私の年代以上を対象にしたブランドは、この丈の部分で圧倒的に残念になってしまうことが多いし、横幅に合わせて探すと、小柄な人が対象のデザインが多かったこともあり、自分がいかに平均的でないかを思い知らされる日々だった。(大袈裟か!?)
シーズンごとにさまざまなデザインが発表されて、彼女が実際に着ているシーンを見るのも毎回眼福。
おしゃれ街道のメインを走れたことはないまま過ごしてきたけれど、おしゃれを楽しむ心はいつでもあって、おしゃれを楽しんでいる人を見るのも好き。
だからブランドディレクタ―になった彼女のこともますます好きになってしまっているのだ。
そんな彼女にいよいよ会える日がやってきた。
これまでも機会はいろいろあったのだ。
でも日程が合わなかったり、何よりちょっと勇気がなかった。
意外に思われるかもしれないが、「推し」に対しては案外奥手なのだ。
遠くから見てます……みたいな。
「お一人で来る方もいますよー」「年齢が上の方もたくさん来てくださってますよー」「年齢とか性別とか関係なく着れるブランドとして作ってますよー」と、彼女はこれまでもメッセージしてくれていた。「よー」と語尾を伸ばしてしゃべってたというわけではないけれど、なんとなくやさしさのニュアンスね。
そうやって誰かの背中を押したり、手をすっと差し出してくれるようなやさしさがあって、
自称奥手の私も会いに行く勇気をもらったのだ。
それは、「ARUMDY」2周年記念で1日だけディレクター立ち合いのもと、POPUPを開催するというお知らせ。
アーカイブアイテムを特別価格で。場所は代官山。
日程含めなんだか全てのタイミングが合ったので、長年の友人に連絡をした。
友人には彼女のことをメロメロしながら話したことがあったから。
洋服を買う時にオススメし合ったりして楽しめる相手だというところも。
前日はしっかりがっつりパックをして、当日はいつもの日曜より早く目が覚めて、
「ARUMDY」のトップスとピアスを着けていくことは決めていた。
この一連の準備や心持ちはまさしく「推し」に会いに行く! 人の行動だ。
あぁ、楽しい。
駅からすぐのPOPUP会場に到着。
そこに彼女、「ARUMDY」のブランドディレクタ―の江野沢愛美さんがいた。
ご主人もお手伝いで同じ会場にいる。
彼女が私にこう言った。「やっと会えた~~!!」
嘘じゃない。こちらのセリフなのよ、それは。けれど、そんなことを言ってくれちゃうのは
もう物語の中の王子級ではないのか!!
それから楽しいお買い物は、もちろんいろいろあって、うれしいお楽しみもいろいろあった。
普通に会話出来た気もするけれど、後になってみれば、2周年おめでとうございますとちゃんと言えてなかったし、建物もショップ入口のサインやら、なんなら代官山の街も何も記念に写真を撮れたりしていなかったところを見ると、やはり相当浮き足立っていたのだろう。
夢のショッピング時間を過ごして、店を出た時に友人がこう言った。
「あの空間の中でくりちゃんがいっちばん嬉しそうだったよ。いい顔してたよ。
その様子を写真に収めておきたかったくらいだったよ」と。
「推し」を尊いと表現した初めの人は一体誰でしょう。
でもその表現は、まさしくだ。
ちなみに、三省堂国語辞典 第八版の「尊い」の欄には、二つ目の意味として「とても魅力があって、大切に感じられる様子だ」とある。まさしくだ。
この日の帰宅途中、まもなく到着というところで私は「アーーーッ、なんてこった!! 失敗したー、私のバカバカバカ!!!」と心の中で大きな声をあげた。
それはなにかと言うと……
「マスカラつけていくの忘れてた~~~~」
推しがいるってどういう気持ち? と聞かれたら、私の辞書ではこう答える。
「(さほど変わらないかも知れないけれど)会えた日にマスカラをつけ忘れていたことを激しく後悔するような気持ち」だと。
楽しかった代官山さんぽのことはつづきで……。