気になるプロダクトやプロジェクトをエンタメ性や整理収納の考え方に寄り添いながら紹介し、読者の「キニナル」を刺激します。
通し稽古を終えて、作・演出の戸田彬弘さんからのNOTEの時間。
そこにはある種、穏やかな空気が流れていた。実を言えば、作品のテイストや、開幕までのスケジュールを踏まえ、独特の現場の緊張感、もっとわかりやすく言えばピリピリとした雰囲気に包まれるのだと予想していたので、その穏やかに流れる空気は意外な気もした。初めての通し稽古。上演時間に関する微細な記録と共に、そこから本番で目指す時間についての共有がなされた。
劇中には食事を作るシーン、食べるシーンが多く登場するため、食べるタイミングと台詞の確認も行われた。キャスト、スタッフは、それぞれのシーンの振り返りについて耳を傾ける。
稽古場に少しの静けさが流れた。しかしそれは、ピリピリとしたいたたまれないような緊張感ではなく、各自が熟考したり、イメージしながらその場でシミュレーションしていることで生まれている「間」のような静けさであることがわかる。音量やテンポの確認も同様に行われた。
「その台詞は誰を思って言うのか。誰に寄り添ってその台詞を言うのか」
それを演出家が問う場面もあった。
また静けさが流れる。
キャストの顔を遠巻きに見ると、その台詞を実際に発するキャスト以外の面々も自分事として考えている様子に見えた。そうだ、ここにはこの作品を自分事にする人たちしかいないのだなと感じた。本作のテーマは「孤独死」。そして、その事実に向き合う家族の姿が描かれる。
今、まさに作品を自分事にしながら作り上げている現場を目の当たりにすると、舞台『ある風景』を観る私たちも、これを自分事にしなくてはいけないのではないか、させられるのではないか。そんな予感がした。
通し稽古を終えて、少し長めの休憩時間。
先ほどの静けさから一転、キャストの皆さんは談笑しながら、作品に登場する、とある消えもの(食べ物)を、シェアして食べていた。まさに「同じ釜の飯」というやつだ。
キャストの皆さんに話をうかがうことができた。
Q.このカンパニーはどんなカンパニーですか?
※( )内は役名
當山美智子(鈴木 夏)
思っていた以上にアットホーム。皆、やさしいし、笑いが絶えない、心地いいカンパニーです。
蒼大(鈴木 柚)
僕は舞台が大好きなので、たくさん学びたいという気持ちを持って参加しています。いいものを作ろうという気持ちにあふれた、演劇を好きな人たちが集まっているあったかくて心地のいいカンパニーです。皆さんからたくさんアドバイスもいただいています。
みやなおこ(鈴木陽子)
いいものを作ろうという前向きな気持ちに溢れた愛しい人たちの集まりで、誰一人見捨てないという空気に包まれています。
大熊杏優(近藤日向)
皆さん、家族みたいにやさしくて、とても学びが多いです。
池畑暢平(鈴木浩一)
大黒柱であるみやなおこさんの存在が大きいです。みやさんが皆を包んで、皆を受け入れてくれるので、のびのびとやれています。
鷲見友希(配達員)
皆さんとてもやさしいですし、「演劇好き」という共通項でつながってるカンパニーです。
長机に並んで、次々に答えてくれるキャストの皆さんの表情からは、アットホーム感が感じられた。
続いて、鈴木家の長男、肇の恋人、太田 紫役を演じる小島梨里杏さんに聞いた。
小島梨里杏(太田 紫)
皆、役者としてのキャリアも含め抱えているものは違うのですが、作品を作り上げる過程では一緒に探検しているように感じられるカンパニーです。
お稽古では役に対しても、演じる自分に対しても迷いながら、でも皆でいいところに辿り着くために挑んでいます。今は『ある風景』という作品が日常の延長線上にあるような感覚です。この感覚はきっと小屋入りするまで続くのだろうと思います。
私が演じる紫(ゆかり)は、肇くんたち家族の中に入る異物的な存在で、とても精神的に大人な子です。舞台では2019年と2023年の紫が登場しますので、その違いも探りながらこの探検を続けていきたいと思っています。
さらに、劇団チーズtheater所属で、出演はもとよりスタッフとしても舞台製作に大きく携わる鈴木 南役の大浦千佳さんにも同じ質問をぶつけてみた。
大浦千佳(鈴木 南)
とにかく皆がなんでも自主的にやってくれるカンパニーです。それぞれが考えて、行動してくれるのでホンマ私は何もしなくていいので、最高のカンパニーです。
明るく笑い飛ばすようにそう言う彼女だが、稽古場では誰よりもきめ細やかに、右に左に駆け回っている。なおかつ精神的にはどっしり構えて約5年ぶりとなるチーズtheaterの新作公演に挑んでいることは、カンパニーの皆が知るところである。
後編につづく。
(写真提供/劇団チーズtheater)