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殺人出産 / 村田沙耶香

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アトリエM_こばやしいちこによるオリジナルブックレビュー。たくさん読んだ本の中かにおら、読者すすめの一冊をご紹介します。

殺人出産 / 村田沙耶香

殺人は、どんな理由があったって、絶対的に悪いことだ。しかし、この本は「今から百年前、殺人は悪だった」という時代の話。

この物語では、子供というのは、人工授精をして産むものになり、セックスは愛情表現と快楽だけの行為になった。初潮を迎えると、子宮に避妊器具を埋め込む、という避妊手術をするのが一般的になり、出来ちゃった結婚や、子供を望まない夫婦に予想外に子供が出来ちゃうなどという、無計画な出産が無くなったのだ。一瞬、お?計画的に人生を進めることができ、これはもしかしていいことなのか? と思ったのもつかの間、偶発的な出産が無くなったことで、人口は極端に減少していった。
そして、そんな世界に、命を生み出すシステムが作られた。

子供を10人産んだら、1人、人を殺してもいい、という、殺人出産制度。

出産というのは命がけだ。だから、正しい手続きをとり、自分の命を危険にさらしてまで子供を10人産むことを宣言した人は、人口が減少していくこの世界の救世主「産み人」として崇められる。もちろん男性も、人工子宮を埋め込み、「産み人」になるのだ。彼ら、彼女らの殺意のおかげで、この世界の人口も持ち直しつつある。そして、この「産み人」が生んだ子供はセンターに預けられ、子供を望む人がそこから引き取って育てる。

人を憎んだりする気持ちというのは、いつの時代にも無くならないようで、「産み人」として10人産んでいないのに殺人を犯す人も中にはいる。人口減少が課題のこの世の中で、大切な人口を減らしてしまう、そういう人は、死刑ではなく、「産刑」という最も厳罰が与えられる。女は病院で埋め込んだ器具を外され、男は人工子宮を埋め込まれ、一生牢獄の中で命を生み続けるのだ、一生、死ぬまで! なるほど、大切な人口を死刑によって減らすのはもったいないから、この刑罰は、知的だ。知的か……?

会社員の育子には、「産み人」となった姉がいた。美しく、優しい姉。幼いころから仲が良かった。どんなことでも一緒にやってきた。どんなことでも。仲の良い姉妹だと思う。でもなぜか、姉が10人産み終えて殺そうとするのは、自分のような気がしてならない。10人目の出産が迫り、どんどん弱っていく姉を見舞いつつ、その考えにとらわれる育子。姉は誰を殺すつもりなのだろう。
10人産み終えるまで継続する殺意、相当な恨みだ。

どんな人だって、いつ、どこで誰の恨みを買っているかわからない。逆恨みだってあるし。学生時代にいじめっ子だった人は、自分のいじめた子が「産み人」になったら、生きた心地がしないだろう。だって、役目を終えたその「産み人」に合法的に殺されてしまうのは、絶対に恨まれているであろう自分なのだから。

ほんとうの百年後、人を憎む気持ちというのは無くなってはいないだろうし、殺意を抱く人もきっといるだろうな。だとしても、こんなシステムが構築されてしまう世の中になっていないことを切に願う。

文と写真・こばやしいちこ

小さな頃から本が好き
映画が好き
美味しいものが好き
おせっかいに人に勧めたがり
愛犬・さくら(黒のトイプードル)を溺愛しながら、
毎日なにかしら本を読んでいます。

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