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れんげ荘 / 群 ようこ

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アトリエM_こばやしいちこによるオリジナルブックレビュー。たくさん読んだ本の中かにおら、読者すすめの一冊をご紹介します。

れんげ荘 / 群 ようこ

45歳になったキョウコは、給料は高いが激務の広告代理店をやめて、無職になることにした。きっかけは、数年前に観たあるテレビ番組。同じような境遇のアメリカ人女性が、日々の生活に嫌気がさし、月10万円で30数年間暮らせるだけの貯金をしたら、あるときすっぱり会社をやめてしまったのだ。これだ!と思ったキョウコの目標は、いつか会社を辞めること、になった。仕事が忙しくて使う暇もないお金を、ひたすら切り詰めて貯金をする。自宅にいるし、なんせ高給取りだ。そう難しいことでもない。今までポンポンと買っていた新しい靴、服、バッグを買わなければいいこと。もう、必要じゃなくなるし。

学校を卒業して2、3年しかたっていない小娘である自分に、会社から何十万もの交際費を遣う権利が与えられ、毎日のように高い店で接待の毎日。忙しすぎて考える暇がないほどの日々に疑問を覚え、会社を辞めよう、と決めたが、もう一つの理由は父のことだ。

ローンを早く返すために、父のお尻を叩き、アルバイトまでさせていた母。優しい父は、言われたとおりに必死に働き、たぶんそのせいか、55歳で死んでしまった。心筋梗塞。ローン完済とほぼ同時期だった。そんな母に思うところもあるし、思い通りにならないキョウコにも何かと口うるさい母。決して相性がいいとは言えない母娘だった。そんな母に会社を辞めるなどと言ったらどうなるか、火を見るよりも明らかだ……と言うわけで優しい兄家族に母を任せて、キョウコは家を出ることにした。初めての1人暮らしである。

ぜ~んぶ込みで3万円の、古い昔のアパート。すきま風は吹くし、トイレとシャワー室は共同。名前はれんげ荘。
二階には誰も住んでいない。老朽化しているので大家さんが心配して人に貸すのをやめてしまった、という事情で。夏は蚊の襲来、冬は寒さとの戦い、決して快適とは言えないこの部屋は、キョウコが初めて自分で探して決めた場所だ。

一階に住んでいる個性的な隣人たちと交流を持ちながら、いい距離感で助け合う毎日。年齢不詳の女性おしゃれな女性クマガイさんとは、母と一緒にいた時には感じられない安らぎを感じる。暴力割烹に勤めている若い男子サイトウくんは、他人なのに、心から応援したくなってしまう頑張り屋だ。職業が旅人のコナツさんは謎すぎて、興味が尽きない。みんなワケアリそうな1人暮らしだ。しかし、そもそもワケナシの人なんていないよね?多かれ少なかれ、人にはそれぞれワケがある。

急に激務の仕事と、煩わしかった母と距離を取ることが出来て、のんびりを楽しめばいいのに、これでいいのだろうか?と疑問を感じながら、真面目に『無職』をやろうとするキョウコ。快適にするために試行錯誤していろいろと手をかけたこの小さな城で、時には訪ねて来てくれた友人や姪をもてなしたり、だんだんとこの自分だけの城と愛しい日々に愛着を感じて行く。

私の仕事は激務でもない。嫌なこともそんなには、ない。そして忙しい日々でもないのだが、1日に1回くらいは、仕事辞めたいな……と軽く思う。辞めたら、寂しがり屋のウチのワンコとぴったり一緒にいられる。昼間のお散歩に行ったり、毎日ゴロゴロ過ごそう。それからたくさん旅行にも行こう。温泉でのんびり、いや、海外にも行きたいな。友達にもしょっちゅう会いに行こう。習い事もしちゃったりして。あと、時間がかかる、手の込んだ料理にもチャレンジ出来るな。

月10万円で30年を計算してみた。3,600万円だった……
キョウコ、すごいな……
私が仕事を辞めるのは、なかなか難しそうだ。

文と写真・こばやしいちこ

小さな頃から本が好き
映画が好き
美味しいものが好き
おせっかいに人に勧めたがり
愛犬・さくら(黒のトイプードル)を溺愛しながら、
毎日なにかしら本を読んでいます。

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