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悪の芽 / 貫井徳郎

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アトリエM_こばやしいちこによるオリジナルブックレビュー。たくさん読んだ本の中かにおら、読者すすめの一冊をご紹介します。

悪の芽 / 貫井徳郎

日本最大のコンベンションセンターである東京グランドアリーナで開催されたアニメコンベンションでの無差別大量殺傷事件。何万人もが集まるこの大きなイベントで、1人の男が火炎瓶を、行列に並ぶ人々に、また、逃げ惑う人々の背中に投げつけたのだ。その男の武器は、火炎瓶だけではなかった。刃物をも振り回し、自分を抑えようとする警備員を攻撃した。そして、最後、瓶の液体を自分の頭から浴び、ライターで自分の身体に火をつけて、絶叫しながら絶命したのだ。

安達がそのニュースを聞いたとき、最初は自分との関わりに気付かなかった。大きな事件だから、何度も報道されて、ふと、なんだか、記憶の片隅を刺激するものがあったにはあった。けれど、それが何かはわからなかった。徐々に犯人の素性が明らかになっていく。年齢が自分と同じ41歳、そして無職。痛ましい事件だが、大きな会社の出世コースに乗っているエリートの安達には、こういう事をする人間がまったく理解できなかった。
氏名が明らかになったことで、犯人に関する情報も出始めていた。まさかな……安達の記憶にある名前と一致している気がする。しかし、同姓同名なんていくらでもいるだろう。信じたくない気持ちも手伝って、そんなことを考えたりもする。しかし、同じ小学校出身だということが判明した時に観念した。もうこれは間違いない。あの男だ。
この、無差別大量殺傷事件の犯人は、かつて自分がいじめて不登校にしてしまった少年だったのだ。

自分が小学生の時の行動が、この大事件の遠因となったのではないか・・・という考えに思い至ってから、安達は冷静ではいられなくなった。そんなわけない、俺が悪いわけない、何か他に理由があるはずだ。あると思いたい安達は、この死んでしまった犯人の人生を遡って行くことにした。

私が小学校6年生の時の運動会の話。当時は、運動会の100メートル走の走るメンバーや順番の決め方に決まりがあった。あらかじめ体育の時間に100メートルを走らせて、遅い順に5人くらいずつレースを組んだ。今考えると変な話。誰が速くて、1着になるか、走る前から分かってしまっている。タイム測っちゃってるんだから。でも、学校側の、すごく遅い子とすごく速い子を一緒のレースにして差をつけさせ過ぎないように、という配慮だったのかなあ?誰が何レース目に走る、と言うのも、事前に表で配られていて、見に来る親御さんも、その表を見ながら我が子の雄姿を楽しみにするのだ。

運動会の前日、私の家に、隣のクラスの女ボスみたいな子が、子分を3人くらい引き連れてやって来た。大人は誰もいなかった。
「あのさあ、○〇ちゃん(私のこと)、明日の運動会さあ、100メートル走、力抜いてくんない? 私の親が見に来るんだよね。楽しみにしてんだよね、私が1着になるの。」
当時、私は足が速くて、その運動会の100メートル走は、最終レースに決まっていた。女ボスも速くて、同じレースだ。どうやら八百長の依頼にやってきたのだ。
身体が大きくて、小学生ながら、いわゆるやんちゃな言動、行動が目立つ彼女たちグループに、全然ひるまなかったと言えばウソになる。しかし私もそんなに気が弱い方ではなかった。
「でも、私も親が見に来るし、楽しみにしてるんだ。力抜いて走るなんてしたくないよ。」もちろん断った。
「ふぅ~ん……」
大人しく帰って行った女ボス軍団。子分を連れてきた割に、別に脅かすでもなく。
運動会当日、もちろん私は思いっきり走ってやった。むしろ、昨日の出来事があったから、絶対、女ボスにだけは負けるか、と思ってしまい、たぶんいつもよりいいタイムが出たと思う。1着だ!
ちなみに、女ボスは、2着でもなかった。確か4着くらい。なんだよ、私1人が手を抜いたところでどうしようもなかったじゃん。

その後、私はその隣のクラスの女ボスたちの壮絶ないじめにあった。
……と言うわけでもなく、なーんにも起こらなかった。いつも通りの学校生活。本当に、ただ、お願いに来ただけだったのね。

でも……あの時からいじめが起こっていたら……
私が怖くなって、運動会以降、学校に行くことができなくなっていたら……
私の人生は今と違ったものになっていたかもしれない。

文と写真・こばやしいちこ

小さな頃から本が好き
映画が好き
美味しいものが好き
おせっかいに人に勧めたがり
愛犬・さくら(黒のトイプードル)を溺愛しながら、
毎日なにかしら本を読んでいます。

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