アトリエM_こばやしいちこによるオリジナルブックレビュー。たくさん読んだ本の中かにおら、読者すすめの一冊をご紹介します。
あれから / 矢口敦子
千幸が高校1年生の時のある朝、昨晩遅くに帰ってきた父親の様子がなんだかおかしかった。おはよう、と声をかけても聞こえないかのように、返事をしない。何かを思い詰めているようだった。緩慢な動きで支度をし、出勤のために玄関に向かったが、そこで、家族の見ている前で倒れたのだ。大慌てで救急車を呼び、搬送された父。
父と一緒に病院に行った母から連絡があり、硬膜外血種だと言うことがわかった。頭を打ったりしたかで、頭の中で出血しているらしい。学校に行く気にもならず、妹と自宅にいた姉妹のもとに、刑事が2人訪ねて来た。そこで姉妹は、衝撃の事実を聞かされる。父が昨晩、電車の中で痴漢行為をし、それをいさめた青年と争いになり、その青年を突き飛ばして逃走したというのだ。おまけにその青年は線路に転落して、ちょうど入ってきた電車に轢かれて死亡したー。
父が痴漢なんてするわけがない。
すっかり父を犯人と決めつけている刑事や、世間。父の汚名を晴らすために、高校生と、中学生の姉妹は独自に調査をするが、どうすることも出来ず、そして家族に次々と舞い落ちてくる不幸。
いつもと同じ朝のはずだったあの朝から、すべてが変わってしまった。
月日は経ち、十年後、看護師として働く千幸のもとにある女性が現れ、衝撃の事実が次々とわかるー
やってもいない痴漢で逮捕された場合、長い期間勾留されて職場にバレるのを懸念した人が、早く釈放してもらうために、とりあえず認めちゃう、なんてこともあるらしい。かつては(と思いたい)。しかし、痴漢冤罪の問題がよく知られるようになった昨今では、被疑者の勾留については、かなり慎重に判断するようになっている(と願う)。
20年近く前、痴漢冤罪を題材にした映画『それでもボクはやってない』が公開された。フリーターの青年が、まったく身に覚えのない痴漢で訴えられてしまう、という映画だ。当時、この映画を観たからか、まだ現役で電車通勤していた父親に、痴漢していないのに、痴漢として捕まったらどうするか?と聞いたことがある。細かく言うと、会社にバレないうちに家に帰れるけれど、やっていないことをやったと言うか、または、どんなに長期間勾留されたって、やっていないものはやっていない、と言うか。
実は答えは聞かなくてもわかっていた。もちろん、 「やっていないのだから、やっていないと言う」だ。いかめしい顔をしてそう言った。そうだろうな、と思った。そうであって欲しい、とも思っていた。
「わかった」
私は深く頷いた。
ここで、娘の父親救出の方針は決まった。あってはならないけれど、もし万が一そんなことが起こったら、その方向で動こうと。
待っていてくれ。娘は、必ず父の名誉を晴らし、早急にそんな場所から救い出す。
……いや、そんなことがあったら、の話よ。
小さな頃から本が好き
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