映画の中にはさまざまな人生や日常がある。さまざまな人生や日常の中には、整理収納の考え方が息づいている。
劇場公開される映画を、整理収納目線を交えて紹介するシネマレビュー。
今年はさまざまな場面で3年ぶりというワードが使われている。
それは2020年に色々なことが止まったあの日々から2年の時を経たことを意味する。
3年ぶりの開催、3年ぶりの有観客、3年ぶりの再会。
待ち望んでいたその「ぶり」は、元の通りではなく、
元の通りになることが最適と考えるべきではないとも刷り込まれてる。
映画「散歩時間~その日を待ちながら~」は2020年11月のしし座流星群がピークを迎える日の、いろいろな人たちの時の迎え方を描いた作品。
亮介(前原滉)とゆかり(大友花恋)の夫婦は、コロナ禍で結婚式も挙げられず、新婚旅行にも行けていない新婚である。
実際、2022年の今年は、2020年に予定していたカップル(夫婦)の式やパーティーがたくさん催されていると聞くから、同じ体験をした人は大勢いるだろう。
一方で、式や旅行にお金を使わない分、予定していた人生設計より少し早めに家を購入したり、やりたかった仕事にチャレンジ出来たという人も結構いるという。
ある方のインタビューで、一斉に止まったことで、自分は安心して動き出せたという、とても前向きなマインドを得たというお話を聞いたこともあった。
で、亮介&ゆかり夫婦はどうだろう?
物語の序盤、夫婦が新生活を送る部屋には、引っ越した時のままの段ボールがあちらこちらにある。
「あとは自分たちでボチボチやるので……」と引越し時に開梱までメニューに含めなかったのだろう。
コロナ禍でサービス自体が制限されていたのかもしれない。
そして二人の現在の関係を示すようなやりとりが映る。
それは一見、幸せな? 夫婦あるあるの関係だろう。
実は整理収納アドバイザーが観たら、即座にダメ出ししたくなる、いや違う、改善方法をご提案したくなる光景だ。
二人は友人に誘われ、内輪での結婚を祝うパーティーに呼ばれた。
場所は真紀子(柳ゆり菜)が暮らす、都会から離れた広い庭もある一軒家。
Google mapで調べても本当にこんなところに家があるの? と思うくらいの場所だった。
さきほど書いたように、コロナ禍はリモートワークを推進し、人と距離を置くことへのハードルを下げた。
のんびりと気楽な田舎暮らしを始めたり、食を見直したり、家の中を片付けたり、メンテナンスする人も増えた。
でも、久しぶりに人を招く真紀子の様子を見れば、やはり人は人とのつながりを求めているよねと鏡に映されたような気がして、ワクワクしたり、ちょっとキュンとしたりするのではないだろうか。
このパーティーには、彼らの友人の秀和(中島歩)や圭吾(篠田諒)、知人のちひろ(めがね)も集まるが、それぞれが抱えた事情とともに、夫婦のちょっとした違和感を臭わす空気に包まれていく。
ゆったりと、しかし生っぽくその状況が進行していく様子を「あーあ」と観るか、「ククク」と観るかは人によって分かれそうだ。
同じしし座流星群がよく見えるこの日、それぞれの場所でそれぞれの事情を抱えながら時間を過ごす人たちがいる。
中学3年生の光輝(山時聡真)と鈴(佐々木悠華)は、たくさんの制限、中止を受け入れて来た若者だ。
クラス替えをしても、昼食の時間のほんのひと時以外マスクを外すことがない生活で、
同級生の顔を覚えられないという声はよく聞こえてきたが、光輝と鈴はお互いを思い合う幼馴染だ。
エモいシチュエーションを生かして、二人は最高の思い出を作れるのか。
世代が近い人には自分事として、親世代なら、どうか……としし座流星群に願いたくなるに違いない。
デリバリーのバイトで食いつなぎながら役者の夢を諦めずにいる片岡(アベラヒデノブ)、タクシードライバーの淡路(高橋努)は、子どもが産まれたものの、里帰りしている妻子とはまだ会えずにいるせつなさを抱えている。
と同時に、物語の2020年11月時点でほのかに抱いていた希望のその先を知っている私たちは、彼らが夜空を見上げるその姿にさえ、チクッと胸が傷む思いがした。
キャッチコピーにある「いつかきっと“今”を懐かしく思えるときがくるから」
は、2022年12月現在では、まだ少し遠い。
映画を観終わった時、このコピーをどんな思いで受け取るのか、自問自答してみよう。
そうだ、一つだけ言えることがある。
「実は整理収納アドバイザーが観たら、即座にダメ出ししたくなる、いや違う、改善方法をご提案したくなる光景」には、ちゃんと続きがあった。
そうだよね、良かったねと思えるはず。
本当を言えば、クローゼット整理に関してはもう少し根本的な改善方法があるのだけれどね。
©︎2022「散歩時間〜その日を待ちながら〜」製作委員会