映画の中にはさまざまな人生や日常がある。さまざまな人生や日常の中には、整理収納の考え方が息づいている。
劇場公開される映画を、時折、整理収納目線を交えて紹介するシネマレビュー。
公開からだいぶ時間が経過してしまったのだが、ようやく映画『BLUE GIANT』を観た。
漫画もアニメも普段あまり観る機会がないのだが、
この映画は公開前から気になっていた。
音楽がいいという。聴く映画だ……なんて謳い文句も聞こえてきたような気がする。
大都会じゃない地域のレイトショーで観たのだが、それもまたいい感じだった。
この作品でメイン3人の声優を努めていたのは、山田裕貴さん、間宮祥太郎さん、岡山天音さん。
今をときめく、さまざまなドラマや映画にひっぱりだこの3人だ。
……そうなると、役者さん本人の顔が浮かんできてしまいそうだが、
この作品においては、ほぼそう感じることがなかった。
特に玉田俊二役の岡山さんは、個性的なお顔立ちでもあるからふわふわ~と浮かんできてしまいそうなものの、それが全くなかった。
役者ってすごいなぁと思いながら、物語の序盤からもうそんなこと自体も考えなくなっていた。
この映画で私がグッときてしまったのが、3人がJASSというバンドを組んで、ある町のジャズフェスティバルに出たシーンだ。
ジャズ通や先輩ジャズマンたちがお手並み拝見とばかりに彼らの演奏を聞くが、
玉田のドラムの拙さなどにはじめはフフンとバカにする風だ。
それが、大の圧倒的パワーを感じるサックス、沢辺のピアノのテクニック、なにより3人の熱のこもった演奏を聞き進めるうちに、様子が変わっていく。
ステージの上の3人に、照明がガツンと華やかに当たった。
照明さんが思わずそうしたのだろう。そうせずにはいられなかったのだろう。
そんなシーンに見えて、観ているこちらのボルテージも一気に上がってしまった。
本気は本物を動かす、そんなカッコイイシーンに胸が熱くなった。
さらに胸が熱くなり、涙が止まらなかったのは、ストーリーもさることながら、
この映画で流れるJASSの演奏にだった。
この映画の音楽と演奏を担当したのは、世界を舞台に活躍するジャズピアニストの上原ひろみさん。
サックスは1992年生まれの馬場智章さん。サックスの音色は時に動物の鳴き声のように聞こえるほどの躍動感にあふれていて、映画の中の宮本大の未来を強く強く願い、信じられる演奏だった。
ドラムは石若駿さん。この方も1992年北海道生まれだ。
何故かプロフィールを見て生年を記したくなってしまったのは、
自分よりキリが良くだいぶ年下のミュージシャンであることへの敬意だ。
とにかく涙が止まらなかった。
スゲースゲーとビートを打つように心の中で言っていた。
映画が始まる前に、おことわりの文言が映し出された。
上映後、演奏に拍手を贈りたかったという多くの声が届いた。
それを受け、拍手したいと思ったら遠慮なくどうぞという趣旨の案内だった。
私たちが観た回ではわかりやすく拍手はおこらなかったが、
私たちは興奮の演奏が終わると小さく拍手をした。
音にならなくてもしっかり熱を返した気がする。
映画は、JASSという3人のバンドのあの日々を回想する形で展開された。
つまりステージを共にしたあの3人は、あれから時が経過し、それぞれのステージへと進んでいることがうかがえる。
仕事柄、ライフステージという言葉をよく口にするが、
いわゆる節目としてのライフステージではなく、ライフ(人生)とステージをライブ(LIVE)で見せてくれる作品だった。
珠玉のライブを堪能し、映画館を出る時には、雨が降っていた。
アスファルトが濡れて黒くなり、夜の暗さが際立っていたのが
『BLUE GIANT』を観終えた感情に妙に合っていた。