日常の中から、エンタメを整理収納目線、暮らしをエンタメ目線でつづります。栗原のエッセイ、つまりクリッセイ。
文化庁子供文化芸術活動支援事業に当選して、帝国劇場で『マイ・フェア・レディ』を小6の姪と観た。
親族同士で会うことも含め、いろんなことを我慢してきたこの1、2年。姪と会える機会もめっきり減っていた日々に嬉しい企画だった。
今回の文化庁子供文化芸術活動支援事業は18歳以下は無料、同伴者は5,000円で観劇できるという内容。
『マイ・フェア・レディ』再演は、そもそも観たいと思っていたので、これは姪につきあってもらうのがいいぞ!とすぐに打診した。
モノより体験、が私の叔母方針なので。
彼女をミュージカルに誘うのは2回目。
前回は小2の時の『フロッグ&トード』だった。
今度は上演時間も長いし、帝国劇場だ。
むしろ私がわくわくして、少しドキドキしていた。
6時間授業を終えてダッシュで帰宅したという姪の住む最寄り駅に迎えに行き、それから有楽町へ向かった。
チケットを引き換え、終演は夜の9時を過ぎるので小腹を満たすためにファストフードへ。「いつもは選ばないメニューにしようかな」
という姪。叔母との観劇には、少し特別感を感じていたのかな。
さ、いざ帝国劇場へ。
絨毯のフカフカ加減に「こんなところ歩いたことないから歩きづらい」と驚きながら2階席へと向かった。
結構な段差があるので「前の人で見えない問題」の心配がないことがわかりホッとする私の横で、姪は大きな舞台美術に感激した様子。
劇場内は会話禁止。
以後は、周りに迷惑をかけない程度の姪と叔母の小さな会話としてご容赦いただきお読みいただきたい。
(ちなみに隣は適度に空席でディスタンスあり)
プログラムを購入して、あらすじのページを姪に黙読させた。
紳士淑女はわからない、煤と埃は読めない。
それでも早々に投げ出したりせず、懸命に読んでいるようだった。
次に持参したオペラグラスを手渡す。
これがとても役立った。
2階席からは床に石畳の柄が描かれていることがわかり、イギリス国旗が掲げられているから、舞台がイギリスであることもしっかり把握しているようだった。
4年の月日ってすごい。
イライザ役は神田沙也加さん、ヒギンズ教授は寺脇康文さんの組み合わせの日程を選んでいた。
アナの声といえば、ドンピシャな年齢の彼女に合わせた。
ちなみにWキャストのもうお一人は元宝塚男役トップの朝夏まなとさん。
宝塚の存在は知っていたらしい姪に、Wキャストの仕組みや、作品によってはトリプルキャストやクワトロキャストがあることを教えたら、とても驚いていた。
1幕は約90分と少々長め。時折体はくねらせたりするものの、退屈する様子はなかった。
シーンが切り替わったり、衣装が変わったタイミングでオペラグラスを覗きこんでは、心を前のめりにしている感じがした。
幕間。ロビーでも飲食や会話は禁止。
今はそこの部分の楽しさを伝えられないのがちょっと残念ではある。
「あれ、マイクついてるの? わからなかった」と聞かれたので、耳の横や額などに小さなマイクを着けていることを教えた。
「曲が終わる度に拍手をする決まりなんだね」と言うので、
別に必ずという決まりがあるわけではないこと、いいなと思ったら自然に拍手すればいいんだということを伝える。
そして、とってもいい歌の後には、拍手が大きくて鳴りやまないことがあることも教えると、
「そしたら続きがなかなか出来なくなっちゃうじゃん」と姪。
「そうなの、それでも素晴らしいから鳴りやまないんだよ。そういうのをショー・ストップって言ってね……」
姪の素朴な疑問に、まさかのショー・ストップの話までできるとは。
休憩は終わり、再び客席へ。
遅れてお母さんと合流したらしい学生服の男の子が隣に座っていて、ほんの少し緊張したような姪を横目に見つつ、
イライザ役の沙也加さんが再び登場したタイミングで、オペラグラスを渡しながら、「耳の横あたりを見てごらん」と短くジェスチャーした。
目立たないように小さく、しかもベージュになっていることにも気づいたようだ。
イライザの父、ドゥーリトルが歌う有名な曲、「♪教会へは遅れずに」は、会場が一体になる楽しいシーン。演じるのは私も大好きな俳優、今井清隆さん。
一幕のときに一階席では起こっていた手拍子は、二階席ではなかなか鳴らなかったけれど、二幕では鳴りはじめていた。
ふと隣を見ると、私より先に姪が手拍子をしていた。自発的に。
思わず手拍子したくなった、の図だった。
これこそが、だ!と感動しながら、私も手拍子を始めた。
この曲の終わりでは、拍手が大きく、そしてしばらく鳴りやまなかった。
ショー・ストップの話を幕間にしていたから、それに似た経験が出来た。姪はついている。そこに立ち会えた私はもっとついている。
ケラケラとよく笑うお母さんが後ろの列にいたこともあり、リラックスして観れたというのも少しある。
どこかの誰かのお母さまにもありがとう。
『マイ・フェア・レディ』が終わった。
劇場を出て、有楽町駅近くで待つ姪の母(義姉)の元へ向かいながら感想を聞くと、
「後半は特に短く感じた。15分くらいしかたってない気がした」という。
実際には約1時間あった。
これまた最高の感想。いやいや15分は言い過ぎだろうと思ったが、そういうのだからそうなのだ。
実際、姪は自分の母親にもそう報告していた。
帰宅後、姪から一行ずつのLINEの感想が届いた。
「今日はありがとうございました」
「とっても面白かった」
「また機会があればまた行きたいです」
「たまに笑える所があってすっごく面白かった」
「お酒のお店の店員さんがガストンにしか見えなかった」
いい感想だよ、うん、いい感想だ。
姪の目線を通して、感想を通して、感じることいろいろ。
思わず手拍子した彼女をチラと横目で確認した時の感動を
私はこの先もちゃんと覚えていたいなと思う。
そして彼女が大きくなったときに、「あの時嬉しかったんだー」と伝えたい。
劇場って、エンタメっていくつものお土産をくれるんだよね。