日常の中から、エンタメを整理収納目線、暮らしをエンタメ目線でつづります。栗原のエッセイ、つまりクリッセイ。
高校生からのつきあいの友人との山梨旅を短期集中連載。大人の宝探しに熱中したという話が前回。
根を詰めて宝探しを楽しんだ私たちはすっかりお腹がペコペコ。
基本に忠実に、ほうとうなど食べたいね! ということになった。
今いた場所のすぐ向かいが有名なほうとうのチェーン店だったが、開店前から行列していて、ランチのピーク時間を過ぎても店から人が溢れている状況だった。
じゃあ次の目的地へ移動して、その近くで店を探そうということにした。
次なる目的地は、恵林寺。武田信玄の菩提寺として有名だ。
電車で4駅の塩山駅で下車するとここからはタクシー。
待ち時間と移動の間に、恵林寺近くのほうとうが食べられる食堂をリサーチしていた。
タクシーに乗り込み、店の名を告げると特に大きなリアクションもなく運転手さんは車を走らせた。
食堂の名を口にして、「有名ですか?」と聞くと。
「お客さん、焼肉食べにいきたいの?」と言われた。
「いや、ほうとうとか……」
なぜそんなことを聞かれたかといえば、その食堂はもとはと言えば焼肉屋さんで、昼は食堂として人気らしい。
なにせかなり腹ぺこだったので、その会話だけでお腹が鳴りそうだった。
朝からなんとか降らずに持ちこたえていた天気は、いよいよ怪しくなり、今にも雨粒が落ちてきそうな空の色だ。
駅から15分くらいしたところでその店らしきものが見えてきた。
……と、次の瞬間。
「あー、やってないわ」という非情な運転手さんの声。
店の扉の前には「本日臨時休業」とあった。
む、無念……。
すると、恵林寺に行くと伝えていた私たちの声にこたえて、「あそこならほうとうやってるから」と、恵林寺に併設するみやげ店「一休庵」の店前までタクシーを着けてくれた。
運転手さんは窓を開けて、お店の方に
「ほうとう食べたいんだって!」とオーダー未遂までしてくれた。
ランチ時を過ぎたそのみやげ店は、天気がぐずついてきたこともあって、ひっそりと暗かった。でも、連携抜群に私たちを迎え入れてくれて、店内に案内してくれる。
ほうとうは決まっているものの、メニューを吟味していると、
友人が「ねえ、ビール飲まない?」と一言。
お寺を参拝する前だけど、ジャム買って重い荷物持って歩いたし、宝探ししたし、
そりゃあ飲むよね、とその提案に同意。
そしてもう一つ気になるメニューをオーダーした。
それは、枯露柿の天ぷら。
この店の軒には、大きなサイズの柿がずらーっと吊るされていた。
前日に勝沼でも数多く見たが、この店でもこの季節の名物らしい。とにかく直径10センチくらいある大きな柿だった。(甲州百目柿というらしい)
皮を剥いた柿は、熱湯にくぐらせた後、吊るして干される。数日(一週間程度)経過するとオレンジの柿色から茶褐色になり柔らかく、甘くなる。これがあんぽ柿という。手焼きのおせんべいみたいな大きさのあんぽ柿は、とにかく人気だそうで、
地元の人がこの時期になると何パックもまとめ買いしていくのだという。
さらに干して水分が減り、糖分が白い粉をふいたようになった状態、これが枯露柿だ。
そもそも大きな品種の柿を使用しているので、枯露柿になっても大きい。
天ぷらは、これをカットして衣をつけて揚げたものだった。
塩が添えられていた。
そして、大根おろしと天つゆもついた。
結論から言えば、枯露柿の天ぷらは塩一択でいいと思う。
機会がある人は、どうぞ塩一択で。
すばらしき和のデザートだったが、酒のつまみにもなるから不思議だ。
季節の一品をいただけて、満足度が急上昇した。
そうしてしばらくするとほうとうも一人用の鍋に入って運ばれてきた。
前日の夜に鴨肉をたくさんいただいたので、昼は野菜ほうとうでちょうどよかった。
写真がないところを見ると、相当お腹がすいていたのだろうが、食べ終わる頃には、
すっかり体があたたまり、気持ちがふわっと落ち着いた。
さあ、ではゆっくりと恵林寺を拝観するとしよう。
見事な紅葉が待っていた。
(つづく)