日常の中から、エンタメを整理収納目線、暮らしをエンタメ目線でつづります。栗原のエッセイ、つまりクリッセイ。
何十年ぶり過ぎてほぼ初、みたいな状況で広島に行ってきたのは昨秋のこと。
宮島・嚴島神社の鳥居を撮り尽くしたのが前回。
宮島行きのフェリー乗り場もほど近い、ホテル「安芸グランドホテル」は、マンモス温泉宿。館内はロビーや大浴場、食事処も浴衣&スリッパで移動可である。
仕事先で宿泊するのはビジネスタイプがほとんどだから、こういうの久しぶりだ。
ちゃーんとお部屋には私でもつんつるてんにならない浴衣がセットされていてよかったよかった。
お部屋は私が「別にこだわらない」と金額を優先したことから、オーシャンビューでなくマウンテンビュー? 側になったのだが、「露天風呂は海に面しているし、いいよね!」なんていいながら、いそいそとまずはひとっ風呂浴びよう! ということになった。
時刻はたしか、午後4時過ぎくらい。
さすが安芸の宮島。インバウンドの影響はこの宿泊先でもしっかり感じられた。
欧米の方もアジア圏の方もかなり宿泊していたようで、ロビーですれ違ったりすることもあった。
でも夕方のこの時間の大浴場はまだ混雑しておらず、貸し切り一歩手前くらいの空き具合だった。
部屋から浴衣にスリッパで大浴場に到着。
下駄箱にはスリッパが2~3組。大浴場によくある、番号のついたクリップや洗濯ばさみのような自分のスリッパの目印になるものはなかった。
自分の履いてきたスリッパを帰りも履いて帰りたい。潔癖症とかでないけれど、温泉を出た後は裸足にスリッパだしね。そう思って自分が忘れないよう、端っこに置いた。
温泉の心地良さにうっとりしながら、Cさんとの話題は、この後のナイトクルーズの時間までに夕食をどこで食べるか……がメインだった。
私は昼にボリューム満点のお好み焼きを完食していたけれど、旅先の食事は大事!
この件はまた次に細かく記すとしよう。
前に書いたように、館内には外国人宿泊客も多く、彼女らが浴衣を着ている姿を見ては「温泉宿の浴衣って、超クール!!」なんて思っているんだろうなと勝手に想像していた。(え、いつの時代の感覚なのって!?)
ただ、超クール!! とかではなく、温泉宿の暗黙のルールはきっと説明がなければ難しいに違いない。フロントで説明があったとて……である。
私たちが説明を受けたのはこうだ。
「大浴場にはタオルがございますので、お部屋からお持ちいただく必要はございません。
ただし、バスタオルは大浴場には備えておりませんので、お使いになる場合はお部屋からお持ちください」
私たちにとってはまあ普通のことだ。大浴場には、黄色いタオルが山と積まれていて、使用後のタオルを入れる場所も備えてあった。
バスタオルを持参していた別の人を見て
「え、それ何? 部屋から持ってこないといけなかったの? しまった!」
みたいな会話をしているらしき欧米の方がいた。
「いやいや、あそこに黄色いタオルがあるからね、ペラッペラの小さいタオルだけどね、なんなら二枚とか使っても大丈夫だからね、お部屋に取りに戻らなくても大丈夫だよ」
みたいなことを言ってあげたかったけど、
……ゴメンナサイ、ワタシ、エイゴデセツメイデキマセン……
と、トホホになっていた。いや、そもそも直接聞かれているわけではなかったのだけれどね。
脱衣所のあたりを見回しても、タオルに関する説明は英語はおろか、日本語でも書かれてはいない。
暗黙のルールってこういうことだ。
なんとなく気持ちの上では、ややオーバーリアクション気味に、タオルの山から新しい黄色いタオルを取って大浴場に向かった。けれど、間違いなく彼女たちは私たちのそんな行動を見てはいなかった。あぁ、無力。
外国からのお客様も多いのだから、そのあたりもう少し手厚くてもいいよねー。
フロントには英語が出来るホテルマンがいたけれど、きっと聞かれなければわざわざ細かく説明しないだろうし、チェックイン時の注意事項って自分の関心事以外、あまり耳に入らなかったりする。
そもそもチェックインはパートナーがして、彼女はそばにいなかったかもしれない。
などと、勝手な妄想で勝手なプチダメ出しをしながら、またすぐに「で、夕飯どうする?」とか言いながらお湯を楽しんだ。
また、ナイトクルーズから戻ったらゆっくり浸かろうということで、30分程度で大浴場を出て、部屋に戻る私たち。
と、ここで私はあることに気づく。
そう、スリッパだ。別の人に履いて帰られたくないと思って端っこに置いた、しかもあえてつま先をこちらに向けて置いておいたスリッパは、見事にそこからなくなっていた。
でーすーよーねーーー!!
それにしたって10足も並んでいたわけではない。ほんの2~3足だったのにだ。
でも反省点はある。私はかがむのが億劫で、最上段に置いたのだ。
昔から背が高く、私のゴールデンゾーンは上段。たった4~5段の下足棚だったが、その一番上の一番端に置いたのだ。
そこは外国人の宿泊客にとっても当たり前のゴールデンゾーンだったに違いない。
あえて一番下の段にかがんで並べて置けば、目に入らなかったかもしれない。
取り出しやすい高さについて考えるのは整理収納アドバイザーならお手の物。
しかし、大浴場に入る入口で自分にとって取り出しやすい高さと、他人のそれを考えるほどの冷静さはなかった。それを冷静さというのかどうかは別として。
そんなわけでは私は仕方なく、誰かが履いてきたスリッパを履いて部屋に戻った。
Cさんが「やっぱり番号クリップかせめて洗濯ばさみを置いておいて欲しいですよね~」とやさしく言った。
うんうんと頷きながら、いや待てよ、その暗黙のルールも外国人宿泊客にはなんだか難しい代物かもしれない。
そう思ったらなんだか少し愉快になった。
ちなみに、その後、2度大浴場に行ったのだが、その時はスリッパを裏返して置いたり、裏合わせに置くという手段に出たところ、間違って履いて帰られることはなくすんだ。
え、風呂上がりに裏返しにしていたスリッパを履くのは嫌ですって!?
じゃあ、今度からマイクリップ持参する!?
(夕飯の巻につづく)
写真/Akiko Kurihara