理由あって週イチ義母宅に通っている。
これは、主にその週イチに起こる、今や時空を自由に行き来する義母とその家族の、
ちょっとしたホントの話だ。
京都みやげで買いたかったのは、阿闍梨餅。
自称おみやげ下手の私は、結局ギリギリまで、何を誰に、だからいくつ買うかを確定できずにいた。
それでも2日後には義母宅に行くことが決まっていたから、賞味期限の短い阿闍梨餅も
義母に食べてもらうことが出来ると、それだけはほぼ確定していた。
しかし、詰めの甘い私は、新幹線の売店で買えばいいと高を括っていた。
そしてまんまと売切れで購入することが出来なかった。
それならそうと、生八ツ橋があるから大丈夫。
最近は5個入りの小さな箱もあって、これならちょっとしたおみやげにぴったりだ。
義母宅訪問を今週は夫婦で曜日を入れ替えた。
朝、夫から、「金曜に持って行こうと思っていて忘れちゃったからこれ、持っていって」と
干し芋を渡された。
そう、義母(別名、さつまいも子)の大好きな干し芋である。
待てよマテ、これがあるなら八ツ橋などもう意味をなさないのではないか?
第一、私が出張だったことを義母は知る由もないだろう。
そう思って5個入りの生八ツ橋を持参せずに義母宅に行った。
いつものように買って行った昼ご飯を一緒に食べていると
「仕事でどこか遠いところに行ったの?」と義母。予想外の質問だった。
「うん、出張で京都に行ってたの」
「あらぁ、いいところに行ったね」
全く予想外の会話が成立した。
夫から聞いていたのだろうか。いや、そうだとしてもこんなにピンポイントに会話が成立するとは驚きだ。
驚くと共に、5個入り生八ツ橋を持参しなかったことをとても後悔した。
なんと薄情なことをしたのだろうと。
八ツ橋のことは言わず、おみやげにも触れず、そのまま平和に時が過ぎた。
おやつは干し芋があるから問題ないし、義母の大好きな柑橘も今日は持参したから、
それを後で剥いてあげればいいもんね。
いつものように買い出しに近所のスーパーへ出かけた。
最近は「買い物に行く?」と聞いても義母は「行かない」と割りとはっきり断る。
そんなわけで一人でスーパーに着くと、お得な商品、目玉商品などのワゴンの一角に
おみやげ系スイーツ(和菓子)が並んでいた。
そこにあったのだ、5個入りの生八ツ橋が。
パッケージを見たらしっかり京都の生八ツ橋だった。
そして私はそれをカゴにすばやく入れた。
そう、私はナマヤツハシを買ったせこいヤツだ。
戻っておやつにしようとやけに元気に声をかけた。
「仕事で京都に行ったから今日のおやつはおみやげの生八ツ橋でーす」
ニッキがかなり効いていると感じたのは、気のせいだったろうか。
ペロリと平らげてくれた義母の満足そうな顔を見て、
心の中でスーパーの方向に手を合わせた。
この日の帰り間際。
持参した干し芋の袋を出し、義母に食べるのは少しずつにしてねと声をかけた。
それを手にした義母は「わぁ~こんなにいっぱい!」と満面の笑み。
生ハツ橋を食べたことはもちろん、もう遠い過去のこととなった。
心の中で干し芋の袋に向かって手を合わせた。