理由あって週イチ義母宅に通っている。
これは、主にその週イチに起こる、今や時空を自由に行き来する義母とその家族の、
ちょっとしたホントの話だ。
W杯予選リーグ、スペインに逆転勝利した日の朝の晴れがましい気持ちを携えて、義母宅に向かった。
そんな日本中が沸いた日であろうと、義母はもちろんマイペース。
例えば、昼に買って行ったお弁当。義母がめずらしく副菜から食べていた。
いつもは白飯に直行なのだが、今日は牛蒡のサラダみたいなものからつついている。
理由は簡単だった。白飯が見えなかったのだ。
それでも文句を言わずに、美味しくなさそうに牛蒡サラダをつまんでいた。
「お義母さん、ご飯はそのおかずの下にあるのよ。掘って食べて。」
私がそう言うと、一瞬なんのことかわからなかったようだが、懲りずに説明したら、あぁ、そうかとなって、白飯にたどり着いた。
その先はもちろん、黙々と、そして私と同じ量の弁当を完食してくれた。
毎週、昼頃義母宅に到着すると、その日の新聞がテーブルの上に置かれていることはほぼない。どこかにしまいこんでいる。
それはいつも同じ場所かといえば、毎回違う場所だ。
心当たりを探してみても、すんなり見つけられないこともよくある。
この日はそれだった。
手持無沙汰なので新聞でも眺めてて! と言いたいところなのだが、
見当たらないのでそれもできない。
一定の場所にまとめるということはもうかなり難しくなってきているので、
家の中のあちらこちらに重ねられていたり、隙間に入っていたりする新聞を見つけては
定位置に移動し、ある程度の量になったら束ねるのも私の週イチルーティンになってきた。
仕方なく11月のとある日の新聞(それもどこからか出て来たもの)を、机の上に置いた。
あまり物騒な見出しが並ぶ日だと、そればかり読み上げてしまうので、
そういう見出しの日付は避ける。
この日置いた11月2日の新聞1面には、
「サッカーW杯代表メンバー決定」の記事が掲載されていた。
全選手の名前、所属、出身などが顔写真とともに書かれている。
「今日は日本がすごーく強いチーム・スペインに買ったんだよ! それでみんな朝から大騒ぎ」
そんなことを言うと、「へぇー、すごいね!」となかなかノりがいい。
調子に乗って、「じゃあさ、そこに載っている人たちの名前読み上げてよ」
とフッてみた。
「私にはわからないよ」と面倒くさそうに言う義母に、
「いやいやいや、出来るよ。お義母さんいつもいい声で読み上げてくれるじゃん。プロじゃん」
この強引さ、毎度思うが他人が見たら閉口するだろうな。
でもそこまでリクエストすると、義母はちゃんと答えてくれるのだ。
「よしだきや」
大きくはっきりした声で読み間違える義母に
「違う違う、よしだきやじゃないよ、よしだ? 何? もう一回!」
読み仮名部分を老眼鏡なしで読む義母は「ま」と「き」を見間違えた。
「よしだきや じゃなくて よしだまや じゃない?」
その後も考えてみるとなかなか耳馴染のない名前が多いため、それなりに苦労していた様子だが、
間違うたびに「ん?」と言っては訂正&言い直しリクエストを繰り返した。
調子が出てくると、名前のあとに「そう、俊足!」とか「そう、安定感抜群!」などと、
まるで茶の間の酔っ払いモードで、義母が読み上げた名前ににわかの私が合いの手を入れた。
途中、飽きて止めそうになった時も、「いやいやいや、全部読んで! 今日この新聞が出て来たのは本当にタイムリーなんだから」
などといって、結局26人、全ての名を読み上げてもらった。
終わると、サッカー選手がピッチから観客席に向かって拍手を返す時のように
「お疲れ様でしたー」と拍手をした。
ちなみに、陸上の選手で、体操部の顧問だった義母は、恐らく球技には全く興味がない。