映画の中にはさまざまな人生や日常がある。さまざまな人生や日常の中には、整理収納の考え方が息づいている。
劇場公開される映画を、時折、整理収納目線を交えて紹介するシネマレビュー。
近所の中学校の校舎から聞こえてくる練習の音や、街中で開催されているイベントで披露される演奏、強豪校の生徒たちが全国大会を目指して練習に熱中するテレビ番組など、
いろいろなシーンでブラスバンドの音色に出くわすたびに、キュンと来る。
映画『ロール・ザ・ドラム!』にもしっかりキュンとさせられた。
時代は1970年。スイス・ヴァレー州の小さな村にはブラスバンドのチームがある。指揮を務めるのは、ワイン醸造家のアロイス。彼は熱心だけど伝統を重んじるばかりで、どうも指導力に欠けている。そのせいで村の音楽祭のオーディションにはなかなか通らない。メンバーたちも愛想を尽かしはじめていた。
そこに、村出身のピエールがやってくる。プロの音楽家である彼は、どうやらアロイスとは犬猿の仲で何やら理由あり? ピエールが立ち上げた楽団には、女性や移民も入り自由な音楽を奏でていい感じ。
彼らの家族を巻き込み、村全体も巻き込まれていく。さあ、小さな村はどうなる!?
アロイスには妻のマリー=テレーズと娘のコリネットがいる。彼女たちは夫の言動、父の考え方に反発する気持ちを抱えている。そういう時代だったんだよ、とか、田舎だから仕方ないんだよ、なんて声も聞こえてきそうだが、どちらの時代もわかる立場の人が見るとキリキリと胃が痛むかもしれない。
案の定、妻は夫の態度に呆れ果て、女性参政権運動に参加するし、娘も陰で自由な恋愛を楽しむ。
マリーやコリネットの言葉に耳を傾けないアロイスは、自分のルールを押し付けていることになんの違和感も感じていないのだ。
整理収納で言えば、家族の使い勝手は無視して、収納場所(モノの住所)を一人で決めて強制している……みたいな感じだろうか。
良かれと思ってしているという点がまた、なんとも歯がゆいわけだ。
一方、パリから村に戻ってきたピエールも父親ロベールとの関係がスッキリしない。
年老いて病がちな父との間には、なにかわだかまりがありそうだ。性別や国籍を問わず自由な音を愛する人なのに、父とは心の距離を空けているようで、いくつになっても親子ってちょっと面倒くさいし、せつない。
物語の後半、ピエールは父の部屋であるものを目にする。それが何かは映画を観て欲しいのだが、一つ言えるのは、ピエールの父が思い出を「見せる収納」していたことが鍵になるということ。
そう、思い出はしまい込んでいてはもったいない。いつでも目に入るところに置いてこそ、生きるのだ。
全編を通して流れる音楽が、登場人物たちの心と村に起こっている出来事を表していて、キュンと来る。
音が重なりあったり、リズムを正確に刻んだり、一人では出せない音に、当たり前に大切なことが詰まっている気がするから。
ちなみにこの映画、ヴァレー州で実際にあった出来事をベースに作られた作品。
結末を見届けて、エンドロールが流れる頃には、きっと手拍子したくなる気持ちが抑えられなくなるはず。
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