私のアンフォゲ飯

いつだってこの味! 母の愛ゆえのインスタントラーメン

誰にでも忘れられない味がある。ふとした瞬間に思い出したり、その味と共に記憶がするするとよみがえったり。あなたのunforgettableな味から記憶を整理します。題して私のアンフォゲ飯。

今回アンフォゲ飯を語っていただいたのは、きまぐれ猫ちゃんズのぬりえBOOKなど、数多くの書籍を手がけるイラストレーターの吉沢深雪さん。忘れられない味ならぬ、忘れない味についてお話をうかがいました。

-- 深雪さんの忘れられない味を教えてください。
吉沢 母親が作ってくれた忘れられない味って何かなぁと考えましたが、たくさんあって絞りきれませんでした。
でも味の話で言うと、「最後の晩餐に何を食べる?」ってよくありますよね。
それを自分に問いかけてみたら、最後は静かにお茶一杯とかでもいいのかななんて思っちゃって、なかなか思い浮かびませんでした。
そこからいろいろ考えて自分の料理でもいいですか? それはインスタントラーメンなんです。

-- おっと! それは予想だにしませんでした。ぜひ詳しく教えてください。
吉沢 うちの息子は子どもの頃から好き嫌いが多い子でした。小さい頃は本当に食べられるものが少なくて、子どもはみんな大好き! とよく言われるカレーも初めは食べられませんでした。でもそのうちに保育園のカレーは食べられるようになったと聞いて、レシピを聞いて作ってみたり。そんなに焦ってはいませんでしたけど、成長のために栄養はとって欲しいから、あれこれ手を変え、品を変えするうちに、ちょっとずつ野菜やお肉が食べられるようになりました。
そんな息子はラーメンが大好きで、何かというと「ラーメン作って!」とお願いされるんですね。
ラーメンを作るといっても手打ちから始めるわけじゃないですよ。インスタントラーメンです。

-- いわゆる袋麺ですね。
吉沢 インスタントラーメンを作るときも、母心としてはやっぱり少しでも栄養を取ってもらいたいので、お肉や海のお野菜としてワカメを入れるわけです。最初はそれにも抵抗があったようですが、少しずつ息子が好みそうな具を入れていったら、麺以外もしっかり食べてくれるようになりました。

-- 息子さんはラーメンの麺とかスープが基本的にはお好きなのかな?
吉沢 どうなんだろう? たとえば、旅行先なんかで少しお値段の張る美味しそうなご当地ラーメンを売ってますよね。「ラーメン好きだからお土産に買っていってあげよう!」と買って帰るんです。そして作ると……。
まったく同じ味になるんです。

-- え!? まったく同じ味とは???
吉沢 
なぜかいつものラーメンの味、なんですよね。私が作るとせっかくお高めのいいラーメンを買ってきて作っても、
「これいつものママの味だよね」っていう反応で、実際いつもの味に仕上がるんです。

-- お土産で売っているラーメンって生麵タイプだったりするのもありますが……。
吉沢 
生麺だったり、乾麺だったり、いろいろ試してみたんですけど、ラーメンって全部同じだなって(笑)。そこを超えてしまうくらい私の味になっちゃうみたいなんです。

-- 深雪さん宅で一番登場回数の多い、袋麺のメーカーや商品は決まってますか?
吉沢 
サッ〇〇〇番とかでしたけど、実はそれもこだわりがなくて、最近は大手スーパーのプライベートブランドの袋麺を買ってます。あ、醤油ラーメンです。さすがに味は統一していますけど(笑)、醤油ラーメンであればどこのメーカーのものを使ってもあまり味が変わらないんですよね……。

-- 謎です。そんなことってあるんですね。乾麺と生麺も同じ味になるとは。
吉沢
 なぜなのか私なりに考えて、つまり同じ具材を入れているからなのかなという結論にたどりつきました。だから最近はちょっといいお値段の生麺とか、買わなくなりました(笑)。

-- ……となれば、くわしく具材をうかがっていきましょう。マストで入るものはなんですか?
吉沢 
ワカメです。実はこれが同じ味を引き出す理由かなと推理してます。ワカメは塩蔵タイプではなく便利なカットわかめです。
それからネギとお肉ですね。お肉は豚肉の小間を使います。どうしてもなければひき肉を使う時もありますけど、具はいたってシンプルです。
もちろんその他の野菜があればプラスすることもありますけど、相変わらず野菜はあまり好まないので、結局シンプルにな具材になっちゃいます。
ママの味って何? と聞かれると、イメージ的には肉じゃがとかがよく言われますけど、わが家の場合は「ママの味=ラーメン」です。

-- ラーメンがお好きであれば、外食で召し上がることもありますか?
吉沢 
それがあんまりないんですよね。結局自分で作るインスタントラーメンが一番おいしいなと感じているので、腕組んで頑固一徹みたいな親父さんが作ってるラーメン屋さんとか、チャーシューが丼にいっぱい刺さっているみたいなラーメンの写真を見ても食べたくならないんです。ラーメン好きの方に怒られちゃうかな? でもそれが実のところなんです。あ、でも唯一外で食べたいなと思うラーメンは「佐野ラーメン」。
あ、じゃあ私のアンフォゲ飯は「佐野ラーメン」で!(笑)

-- いやいや、ここまでの流れをうかがったら、深雪さんが作るラーメンを深堀りさせてください。ネギはどんな形状で入りますか?
吉沢 
あまり形がありすぎると食べないので細かくして入れます。タマゴもメンマも入れません。やっぱりワカメの存在がラーメンの垣根を越えるのかしら? ワカメは母として苦肉の策で入れるようになりましたけど、もちろん丼いっぱい表面が全部ワカメで埋まるほど入れるわけではなくて、量はほどほどです。

-- 息子さんはお母さんが作ったラーメンしか召し上がりませんか?
吉沢 
いえいえ、もうすぐ20歳になりますから、最近は自分で作るようにもなりました。これまた不思議なことに!? 味も継いでくれたようで、息子が作るラーメンもほぼ同じ味です。鍋に秘密? ありません。普通の片手鍋で作っていますし、1人分でも2人分でも同じ味になります。
アンフォゲッタブルというより、現在進行形の味の話なので、忘れられない味というより、忘れない味ですね。

-- 母の愛はラーメンの個性を超える!! 意外にも思いましたが、きっといろいろなご家庭でこうやってアンフォゲ飯が生まれているのだなぁと感じました。楽しいお話をありがとうございました。

吉沢深雪(Miyuki Yoshizawa)さん

イラストレーター、エッセイスト。「ぬりえBookきまぐれ猫ちゃんズ」(コスミック出版)シリーズ、イラスト&エッセイ『夢がかなう おとなの絵日記術』(朝日新聞出版)など著書49冊(2023年時点)。銀座伊東屋などで毎年個展開催。雑貨ブランド「CatChips」、マンガ「artistベレーちゃん」、ハウスキーピング協会公認マスコット「ハンス・キーピン王子」などキャラクターも手がける。イラストレーターを目指す人のコンサルや、コミュニティー「イラストレーター倶楽部」運営。コマラジ・こまえFM『吉沢深雪アトリエにようこそ』(毎月第一水曜日19時〜)でパーソナリティー。
吉沢深雪オフィシャルHP

 イラスト/Miho Nagai