私のアンフォゲ飯 PR

津軽の台所からお弁当につながるおばあちゃんの味

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誰にでも忘れられない味がある。ふとした瞬間に思い出したり、その味と共に記憶がするするとよみがえったり。あなたのunforgettableな味から記憶を整理します。題して私のアンフォゲ飯。

今回アンフォゲ飯を語っていただいたのは、料理家・弁当コンサルタントとして数々の著書を発表され、テレビ・ラジオ等メディアでもご活躍の野上優佳子さん。お料理上手のおばあちゃんから引き継いだ明るくて大らかな食へのアプローチと味の記憶をたっぷりうかがいました。

-- 食のプロである野上さんの忘れられない味、気になります。
野上 考えたら次から次へと出てくるので何を取り上げようか迷ってしまいます。思いつくままにお話しますね。
青森の父方の祖母の料理で忘れられないのが「あかめし」です。「すしこ」と呼ぶ人も多い食べ物で、赤じそともち米で漬けたお漬物なんです。

-- お米の漬物???
野上 古漬けのキュウリやキャベツと一緒に赤じそともち米が漬けてあるもので、祖母は「あかめし」と呼んでいました。夏に食欲がない時も食べられる津軽の保存食です。炊いたもち米に赤じその色が染まってきれいなピンク色になっていて、味は酸っぱくてさっぱりしています。
私はこの「あかめし」が子どもの頃とっても好きで、でも津軽地方でしか見たことがなく、同じ青森でも私たちが暮らしていた市内にはない郷土料理でした。
祖母はとても料理上手な人で、母屋の隣にあった小屋の一階には大きな漬物樽がいくつも並んでいました。

-- お祖母さまはどんな方でしたか?
野上 大正15年生まれの祖母は食に対してとてもアグレッシブな人でした。郷土料理を愛しつつも、日々の暮らしに洋食文化が入ってきて、食生活を取り巻く環境にさまざまな変化を見せ始めた時代を生きてきたのだと思います。
たった一度でしたが、私たちが遊びに行った時に、「みかんのケーキ」を作ってくれたことがありました。缶詰のみかんがぎっしり入ったホールケーキを焼いてくれたんです。

-- 缶みかん……デコレーションではなく、中に入っていたのですか?
野上 そう、ぎっしり。私の中で「これは美味しいのかしら?」と疑問が湧き、きっと美味しいと口には出さなかったんでしょうね。作ってくれたのはその1回きりでした。

-- シロップ漬けのドライフルーツを入れて焼くケーキ、みたいなことなのでしょうか……。
野上 そうなんです! たぶんそういうレシピを見て、作ってみてくれたんだと今なら思えるんですよね。たっぷりのシロップに漬かったみかんですから。孫を喜ばせようと試しに作ってくれたのかなぁ。それにしてもアグレッシブですよね。
もう一つ、衝撃的だったのが、祖母が常備菜にしていて、私も大好物だった「金時豆の甘煮」の食べ方です。夏は冷蔵庫でキンキンに冷やしてあるその甘煮に牛乳をかけて食べるんです。和食のおかず、副菜のイメージだった「金時豆の甘煮」に冷たい牛乳!! この組み合わせが衝撃的すぎて、正直言って「気持ち悪っ!」って思っちゃったんですよね。
でも祖母は涼しい顔をして「おいしいのよ、これが」と言いながら食べていたんです。
今思うと「ミルク金時」がスイーツとしてあるのだから、「美味しい」の理屈は祖母の中でしっかりあった上で食べていたんだなと思えます。子ども心におばあちゃんって味覚にアグレッシブだなって思っていたことをとてもよく覚えています。

-- たしかにかき氷とか、台湾スイーツも甘いお豆とミルクの組み合わせありますもんね。料理上手なお祖母さまの、そのほかのお料理の記憶もぜひ教えてください。
野上 お正月には新鮮な真鱈を昆布締めにしてくれたり、どーんと丸ごと届いた荒巻鮭をさばいてくれたりしました。夏はアワビの薄造りとミズの小鉢など、祖母の家に行った時しか食べられないような津軽の郷土料理がいろいろ出てきて、いつも驚きがありました。

-- お祖母さまのお人柄は?
野上 明るい人でした。大学生の頃、免許取りたてで祖父母の家に車で遊びに出かけた時のこと。祖母が買い物に行きたいから車に乗せて欲しいというんです。「おばあちゃん、私免許取り立てだよ、怖くないの?」と聞いたら、「大丈夫、目がよく見えてないから全然怖くないよ」って言うんです。笑っちゃいますよね。
姉や近所の仲良しさん4人組でおしゃべりしたり、ゲラゲラ笑いながら台所仕事をしていたのが楽しくて、私は祖母の家に行くとずっと台所にいました。お盆には笹餅を一緒に作ったのも楽しい思い出です。あれでハチマキの三角折りを覚えました(笑)。

こんなこともありました。幼い頃、私は箸の持ち方が下手だったんです。それを父(祖母にとっては息子)にきちんと箸を持ちなさいと叱られたことがありました。
その時に祖母は「ごはんなんて楽しく美味しく食べればいいんだから、お箸の持ち方なんてそんな風に細かく言わなくていい。いつか持てるようになるんだ」と言ってくれたんです。
とてもおおらかな人でしたね。

-- おおらかであったかいですね。弁当コンサルタントとして活躍する現在の野上さんのルーツもお祖母さまにありそうな気がします。
野上 私が小学生の頃のことです。祖母が一度だけ運動会に来てくれたことがありました。たしか父も母も仕事が忙しくて来られない年で、代わりに祖母が叔父叔母と一緒に来てくれたのだと記憶しています。その時に作ってくれたお弁当が、おいなりさんとのり巻きとそうめんでした。そうめんはお重に笹の葉を敷いて、麺を一口ずつ丸めて詰めてありました。魔法瓶の水筒には冷たい麺つゆ。お弁当にそうめんなんて初めてでしたが、その日はとても暑い日だったこともあって、そのそうめんがすごく美味しかったんです。
夏の「そうめん弁当」は、自分がお弁当を作るようになってから今も作っています。

-- 野上さんの料理本には麺のお弁当もよく掲載されていますよね。幼い頃のそうめん弁当、やはり今につながっている!
野上 
「きれいに詰めてないと美味しくみえない」と祖母はいつも言ってました。私たちが遊びに行くと、帰りにはいつも箱いっぱいにおかずをいろいろと詰めて持たせてくれました。その影響もあるのかな、詰めることについては私も昔からとてもこだわりがありました。レゴとかテトリスとか大好きなんです。
でもお弁当づくりにおいては、あまりロジカルにならないようにお伝えしています。きちんと法則通りに詰めることが大事なのではなく、美味しく食べてもらうことが一番ですから。
お弁当には5色入れることを心がけましょうと提案していますが、黒がなければ胡麻を3粒でもOK、緑がなければ乾燥パセリか青のりをかければいいんですよとお伝えしています。

-- お祖母さまのおおらかさが野上さんのお弁当のやさしさとリンクしているんですね。
野上 
祖母もそうですが、私の父母もとてもおおらかに私を育ててくれました。だから自分の子育てにおいてもあれこれうるさく言いたくないんですよね。うるさく言わない代わりにお弁当で子どもたちの背中を押してきたと思っています。
よく「お弁当はモバイルの食卓なんですよ」とお伝えしています。その日のお弁当は家族皆同じなので、場所と時間が違っても蓋を開けた途端に一回食卓に戻ってくる、そう感じています。ゆっくり話す時間がなかったとしても弁当箱を見れば「あぁ、お弁当は残さず食べれるくらいの元気はあるんだな」と感じられたりしますから。

-- 食を通じて気持ちがつながるというのは幸せですね。ここではご紹介しきれないほどたくさん気になる食べ物のお話もうかがいました。個人的には「あかめし(すしこ)」がとても気になります。モバイルの食卓、、、も久しぶりに復活しようかな。楽しいお話をありがとうございました。

イラスト/Miho Nagai

野上 優佳子(Yukako Nogami)さん

料理家、弁当コンサルタント。
ライターを経て、2011年「食・健康・地域」をキーワードに子どもたちが笑顔で暮らせる未来を目指し、株式会社ホオバル設立。新聞、雑誌、TV、ラジオ、ウェブ、全国各地での講演やワークショップなど多岐に活動中。
最新著書は『学童弁当 月~金の5日間×6週間、30日分のマラソンレシピ』(小学館)、その他『楽しく作って毎日おいしい こどものおべんとう』など、著書多数。お弁当関連の商品開発やアドバイザーなども行う。
35年以上お弁当を作り続け、400個以上のお弁当箱を使用した経験に基づき、実際に日々仕事をしながらお弁当を作り続ける母としての目線から実用性と汎用性の高いレシピと洞察が好評を博している。
2女1男の母。1972年生まれ。青森県出身。

野上優佳子さんの公式サイト


野上優佳子さんの最新著書

『学童弁当学童弁当 月~金の5日間×6週間、30日分のマラソンレシピ』

野上優佳子
小学館/2024年/1,540円(本体1,400円+税)






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