誰にでも忘れられない味がある。ふとした瞬間に思い出したり、その味と共に記憶がするするとよみがえったり。あなたのunforgettableな味から記憶を整理します。題して私のアンフォゲ飯。
今回アンフォゲ飯を語っていただいたのは、作曲家・ピアニスト・音楽監督として数多くのミュージカル作品を手がける桑原まこさん。子どもの頃からの忘れられない味についてお話いただきました。
-- まこさんのSNSをのぞくと可愛くて美味しそうなスイーツがたくさんアップされているので、スイーツ好き! のイメージがありますが、まこさんにとっての忘れられない味といえばなんですか?
桑原 この仕事を始めた頃、ある公演の全国ツアーに同行していた時に、連れて行っていただいた先で食べたものは美味しいものばかりでした。例えば静岡・由比の桜えびの天ぷら。今でもスマホのカメラロールに残っていて、すぐに情報が取り出せるほどです。
福岡で食べたコースの最後に出てきたデザートのカッサータも忘れられない味です。どちらもそれまで知らなかった“大人がわかる美味しさを知る”みたいなワクワクした味の記憶です。ありがたい経験をさせていただきました。
-- 20代の頃、人生の先輩から出会わせてもらう味って、特別感がありますね。アンフォゲ飯では、過去に由比の桜えびをご紹介いただいたことがありました!
桑原 やっぱり由比の桜えびって特別なんですね。その特別な味と迷ったのですが、ここでは子どもの頃の忘れられない味のお話をさせていただきますね。それは「フォルクス」の「和風おろしハンバーグ」です。
-- おっ、意外にもよく知るステーキハウスチェーンの名前が出てきました。理由を教えてください。
桑原 幼い頃、発表会の後に家族5人で食べに行くのは決まって「フォルクス」だったんです。わが家は三姉妹で小学生の頃からエレクトーンを習っていました。発表会は年に3、4回くらいあったかなぁ。帰りは必ず父が運転してくれる車で「フォルクス」に寄って食事をして帰るというのが定番コースでした。
-- まこさんが「フォルクス」で好んで食べていたのは、ステーキではなくハンバーグだったんですね。
桑原 両親や姉はステーキを注文していましたけど、私は断然ハンバーグがいいと思っていました。値段がどうこうというより、皆とは違うメニューを頼んで優越感に浸りたいタイプだったんです。ハンバーグもいろいろな味がありましたけど、子どもの頃からこってり系よりさっぱり系の「和風おろしハンバーグ」が好きでした。ハンバーグの上にシソが一枚、その上に大根おろしが乗っている、シンプルな和風おろし一択でした。
-- 家族そろって外食って楽しい思い出ですよね。メニューを見ながら「私はこれ!」と得意気だった少女・まこちゃんを想像しちゃいます。
桑原 なぜかドヤ顔してました(笑)。ハンバーグ以外に「フォルクス」で楽しみといえばサラダバー。ポテトサラダを丸くすくって枝豆で目を、ヤングコーンで鼻を飾って雪だるまに見立てたり、コーンやニンジンで彩りを良くしたり、そのまわりはワカメで埋めよう……みたいな感じで、いかにサラダの器の上を芸術的にできるか! にこだわって、きれいに盛り付けたサラダを姉と妹と見せ合うのが楽しみでした。
-- お姉さん、妹さんともに音楽の道で活躍されている桑原三姉妹。やはり小さい頃から食にも芸術を求めていたのでしょうか!?
桑原 姉は私みたいな盛り付けには興味なかったかも。 どちらかといえば、いかに効率よくきれいに盛るかという方に長けていた気がします。妹は私の真似をしていましたけど、まだ小さかったので、そんなに器用に盛り付けるのは難しかったはず。
幼い頃から私は三姉妹の中ではいつも、こうしよう、ああしようと提案するタイプでした。わがままと思われていたかもしれませんが、お姉ちゃんの真似もしたいし、妹のことも思いっきり可愛がりたいしで、次女は次女で結構忙しかったんです(笑)。
今でもとても仲の良い三姉妹なので、二人にも発表会の後の家族との食事といえば何? と訊いたら、絶対に「フォルクス」と答えると思いますよ。 それくらい桑原家にとっては、発表会の後の「フォルクス」で食べるステーキ&ハンバーグが定番コースでしたから。
-- エレクトーンの発表会での思い出も伺いたいです。
桑原 発表会の思い出は本当にたくさんありますけど、良かったことより悔しかった記憶の方が色濃く残ってますね。エレクトーンのコンクールでは、自分でアレンジを組んで作ったものを演奏していました。小学5年生のコンクール出場の際、絶対に勝ちたくて自分を追い込んで、複雑なアレンジを作って頑張っていました。コンクール当日、いざ演奏となった時にリズムとメロディーがズレてしまってひどく失敗してしまったんです。普通、自分の演奏が終わった後は客席でほかの人の演奏を聴くものなんですが、その時は本当に悔しくて、すぐには戻れなくて。トイレで5曲分くらい泣いてから客席に戻ったんですよね。
-- ちょっぴりビターな思い出ですね。ちなみに、エレクトーンは自分でアレンジを作るというのは一般的なんですか?
桑原 私が習っていた先生はすごく良い先生で、自分で考えられる人になって欲しいという方針で教えてくださっていたので、曲選びからアレンジまで基本的には自分でしていました。ラヴェルやチャイコフスキーなど、自分の好きな作曲家のCDをたくさん聴いて、この曲ならコンクールで栄えるか、勝てるか、自分で弾けるかという点を考えて、決められた時間にまとめるんです。13分の曲を5分にまとめるみたいなアレンジが必要で、それを練習で見てもらって直してを繰り返してコンクールに挑みます。
今思えば、あの失敗してしまった時は、勝つことに躍起になっていました。頭のどこかで「失敗するかも……」と不安もよぎっていた中で、その通りになってしまったので余計に悔しかったというか、凹んだんですよね。
-- 悔しい結果だったその時には「フォルクス」には?
桑原 たぶん行きました。お姉ちゃんが優しくて、「食べて元気だしな!」みたいに励ましてくれて、いつも通りの「和風おろしハンバーグ」を食べたはず。
話しているうちに思い出したんですけど、私、昔からひき肉料理が好きみたいです。ハンバーグはもちろんミートソースとか麻婆豆腐とか。だからステーキじゃなくてハンバーグを選んでたのかもしれない。
大人になってお肉の美味しさを知ってからは、ステーキを注文するようになりましたが、「和風おろしハンバーグ」は忘れられない味。あの牛の形の鉄板に乗った熱々のハンバーグと楽しかったサラダバーはセットで記憶しています。
-- 調べてみたら、「フォルクス」はサラダバーのさきがけ、1972年に日本のチェーン店では初めて採用されたらしいです。
桑原 そうなんですね! 今は、パンの食べ放題、ブレッドバーも人気ですよね。よもぎブレッドがイチ押しです。
なんか「フォルクス」大好きな人……みたいになってますけど大丈夫ですか?(笑)
-- まこさんのスイーツ好きの始まりも気になります。
桑原 やっぱり子どもの頃に買ってもらえるケーキが始まりじゃないかなぁ。それこそ「フォルクス」の帰りにケーキ屋さんに寄って買ってもらったりしていましたね。私は今はもうないんですけど、当時は絶対「メロンスペシャル」でした! 中にメロンのゼリーも入っていて、クリームに酸味があって美味しいんですよ。姉や妹は「ホワイトチョコ生」など、その日の気分で選んでいたような。小さなケーキの詰め合わせ「プチフール」をたまに買ってもらえた時は、三姉妹で争奪戦でした! じゃんけんで一番気合が入っていたのは、私かもしれないです。
-- 三姉妹がケーキを前にキャッキャと選んでいる姿、想像しちゃいました。ちなみに「プチフール」って「モンブラン」が余りがちでしたよね(笑)。
桑原 たしかに! 「モンブラン」はお母さん担当だったかも。
まこさんの忘れられない味の記憶は、桑原三姉妹の楽しい食の思い出とつながっていましたね。私、ふだんはデミソースを選びがちですが、次にハンバーグを食べる時は絶対和風おろしハンバーグを頼みたくなると思います。楽しいお話をありがとうございました!!
イラスト/Miho Nagai
2025年6月9日(月)~6月30日(月)
東京建物 Brillia HALL
2025年7月6日(日)~7月11日(金)
箕面市立文化芸術劇場 大ホール
2025年7月18日(金)~7月21日(月祝)
愛知・アイプラザ豊橋
出演:小瀧望、和希そら/sara(Wキャスト)、梅澤美波/川口ゆりな(Wキャスト)、新原泰佑、土井ケイト、吉田広大、秋沢健太朗、浅野雅博、佐戸井けん太 ほか
原作:チョ・グァンジン「梨泰院クラス」(KAKAO WEBTOON Studio)
脚本: 坂口理子
歌詞・構成: イ・ヒジュン
音楽:ヘレン・パーク
演出:小山ゆうな
振付:カイル・ハナガミ
音楽監督・編曲: 桑原まこ
2025年8月20日(水)~22日(金)
タクトホームこもれびGRAFAREホール
※全5回を予定
演出: 西川大貴
脚本: 高橋亜子
作曲: 甲斐正人
音楽監督/編曲: 桑原まこ、桑原あい
振付: 吉元美里衣
主催:合同会社黒猫

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