三階席から歌舞伎・愛 PR

吉例顔見世大歌舞伎_仔獅子の成長に胸アツ

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歌舞伎をほぼ毎月楽しんでいる50代男性。毎月観るために、座席はいつも三階席。
初心者ならではの目線で、印象に残った場面や役者さんについて書いてみます。

歌舞伎座で「吉例顔見世大歌舞伎」を観てきました。
今月特に楽しみにしていたのは、第二部の「連獅子」(れんじし)です。

歌舞伎を観たことがないという方でも、紅白の毛振りで舞う姿は見たことがあるとか、歌舞伎のイメージとして印象に残っているという人が多いのではないでしょうか。
親獅子が仔獅子を千尋の谷に突き落とし、這い上がってきた仔獅子だけを育てるという故事を、舞いで表現するシーンも有名な見せ場の一つです。

なかなかのスパルタ?ですが、この厳しくも温かい親子の関係に見応えがあり、歌舞伎では実の親子が親獅子、仔獅子を演じることもあります。

私がなぜ今回の「連獅子」を楽しみにしていたかをお話ししましょう。
今月、親獅子を演じるのは、片岡仁左衛門さん、そして仔獅子を演じるのは、片岡千之助さんです。
二人は親子ではなく、祖父と孫の関係です。

実はこの二人が「連獅子」で共演するのは二度目で、前回は7年前の2014年でした。
自慢ではないですが、2014年も私は観てるんです。いや、自慢です。

当時、千之助さんは14歳。
若いというよりは幼くて、親獅子が谷へ蹴落とされる場面などは、もう這い上がって来られないんじゃないかと心配になってしまうような華奢なイメージでした。

あれから7年。千之助さんは21歳。
とても凛々しい青年で、筋書きなどに載っているプロフィール写真は、千葉雄大さんに似ているイケメンです。これ、たぶん方々で言われていることでしょう。

さあ、祖父と孫の連獅子共演です。
いやぁ、若々しく、逞しい仔獅子でした。
後半(後シテという)は仔獅子の荒ぶる様子も見所で、親獅子は雄大に、仔獅子は荒々しく毛振りをします。
因みに、親獅子の毛が白、仔獅子の毛が赤です。
この紅白の毛振りの角度やタイミングが揃っていると気持ちいいのですが、振り方には親と仔の勢いの違いのようなものが表れているのがまたいいんです。
孫の成長をこうやって舞台の上で感じられるとは、仁左衛門さん感激なのではないかと想像して、少し涙腺にきそうでした。
最近めっきりこういうのに弱くなりました。

私は松羽目物(まつばめもの)<能狂言を原作とし、舞台の後ろに演奏の方がいて上演される>が好きだと前回も書きましたが、「連獅子」もそれです。
高さ30㎝くらいの二つの台が左右に並び、親仔は主にその台の上で舞います。
台と台の間にもう一つの台が掛かっているのですが、これは石橋を表しています。
シンプルだけど設定がわかれば、すんなりとそこが谷上だということがわかります。

若さと力強さ溢れる千之助さんの仔獅子はこの台の上に飛び乗る時の勢いが良かった。
「連獅子」の前半では、役者が獅子頭を手に持って頭を動かしながら舞ったり、仔獅子がひらひらと飛ぶ蝶々を追いかけたりする場面もあります。
この時、胡蝶(蝶々)をひらひら動かしたりするのが後見さんという黒子さんたちのお務めです。
ここでのテクニックは、舞台の出来に関わって来るのではないかと思います。今回も踊りに合わせてひらひらする胡蝶の動きが見事でした。
何度か「連獅子」を観ていくと、後見さんの動きも気になってくるんですよね。

また今回は笛の音に魅せられました。
仔獅子を谷へ突き落とした後に流れるなんとも荘厳な笛の音。
哀愁が漂い、情景が浮かぶようです。
祖父と孫の共演、素晴らしかったです。

「連獅子」の感想を書いていたら、すっかり長くなってしまいました。
実はもう一演目、第一部の「神の鳥」(こうのとり)についても少しだけ。
これは平成20年に片岡愛之助さんを中心に「永楽館歌舞伎」として上演された演目だそうです。

神の鳥とされるこうのとりを、生贄にして願いを叶えようとする赤松満祐のところに、
人の姿になったこうのとり(片岡愛之助、中村壱太郎)が、我が子を助けるために現れるも失敗。
そこに助っ人、山中鹿之介が現れて、その鹿之介を演じるのも愛之助さんなんです。

この作品の中には、いわゆる歌舞伎の名シーンの良いところどりみたいなものがたくさんあって、歌舞伎いいところダイジェストみたいに楽しく見ることができました。
愛之助さんが、高い声から地を這うような低い声までさまざま使い分けていて、
うまいなーという感じ。
でも、一番印象に残っているのは、こうのとりとして舞う姿やしぐさでした。
腕を広げると鳥の羽が袖に描かれていて、その袖をパタパタ、パタパタ。
ユーモアのある動きもとてもうまい、愛之助さんでした。

十二月も一月も歌舞伎座は三部制で行われることが発表されています。
初めての方はどれか一部だけをご覧になるのもいいのではないでしょうか。

 

文・片岡巳左衛門
47歳ではじめて歌舞伎を観て、役者の生の声と華やかな衣装、舞踊の足拍子の音に魅せられる。
以来、たくさんの演目に触れたいとほぼ毎月、三階席からの歌舞伎鑑賞を続けている。
特に心躍るのは、猿之助丈の化け物や仁左衛門丈の悪役。