三階席から歌舞伎・愛 PR

十月大歌舞伎_まるでドリフの面白さ

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歌舞伎をほぼ毎月楽しんでいる50代男性。毎月観るために、座席はいつも三階席。
初心者ならではの目線で、印象に残った場面や役者さんについて書いてみます。

歌舞伎座で「十月大歌舞伎」を観てきました。
毎月楽しみな演目がありますが、今月は猿之助さんが出演する第一部を特に楽しみにしていました。

「天竺徳兵衛新噺 小平次外伝」(てんじくとくべえいまようばなし)
テレビでも大活躍中の市川猿之助さん。彼は化け物系と腹黒い女の役を演じたら天下一品です。この作品は、その二役をやるんだから楽しいったらなかったです。

小平次(猿之助)が巡礼で出かけているあいだに、妻おとわ(猿之助二役)は多九郎(巳之助)といい仲に。まあ、そもそも小平次とおとわも不義を働いた上で夫婦になってるんですけどね。
巳之助さん演じる多九郎が、こういう言い方もなんですけど、安っぽい悪役って感じがいいんですよ。

邪魔になった小平次を多九郎とおとわが殺害するシーンでは、せりを下げて作られた沼から助けを求めて出た小平次の手の指を、おとわが一本ずつ切り落とし、血がしたたり落ちるという……。
あ、お食事中の方、すみません。
殺す女と殺される男を同じ役者が演じる、キャラクターの演じ分け、これだけでももう面白いです。
一場の最後に今川家の重臣、十郎(松也)というのが登場するんですが、だんまりと呼ばれる暗闇のシーンでの攻防はまるでコント、というかまるでドリフ。
笑って一場が終わりました。

二場はその殺された小平次が亡霊になって化けて出ます。
面白かったのは、十郎に小平次の妹おまき(米吉)が一目ぼれするところ。
このシーン、イヤホンガイドでは「おまきは目がハートになってしまいます」なんて解説しています。米吉さんの愛らしさと演技はまさに目がハート、だったので笑ってしまいました。

悪女おとわは、十郎にも色目を使う始末で、亡霊となった小平次は、おとわと多九郎との攻防を繰り広げます。蚊帳を使った早変わりや宙づりもあって、飽きることなく進みます。
最後は小平次の霊が討ち取ったおとわの首を手にして登場。
その首からは血がポタポタと‥‥‥。
あ、お食事中の方、ふたたびすみません。
1時間8分、とにかく楽しかったです。いや、別に私はホラー映画好きとかでは全くありませんよ。

第二部の「太刀盗人」(たちぬすびと)の話もさせてください。
私は松羽目物(まつばめもの)<能狂言を原作とし、舞台の後ろに演奏の方がいて上演される>というスタイルが何故か好きなんです。格好いいんですよねぇ。

お話は、スリのすっぱの黒兵衛(松緑)が、田舎者 万兵衛(鷹之資)の刀を盗んだことによって起きるすったもんだ。それを目代 丁左衛門(彦三郎)が仲裁するのですが、
刀のいわれを目代に聞かれて答えると、田舎者は声が大きいから、それを盗み聞きしてスリが答える。
こういう埒があかないやりとりを踊りでも表現する二人がとてもユニーク。
松緑さんはもう、ずるいスリらしい表情と動きだし、二人の掛け合いが躍りの掛け合いで
見事に表現されていて、これまたドリフ的面白さなんですよね。

目代役の彦三郎さんの声が良すぎて、もう少ししわがれ声の年配の感じだったらよかったかななんて思うのは、以前に観た時の役者さんの印象が強かったせいかもしれません。
こんな風に、同じ演目を何度も観る機会もありますが、
それも自分の好みがわかってきて面白いものですよ。

歌舞伎座は、感染対策も引き続きバッチリおこなわれていいますが、平日ということもあり、全体的にすいていました。
やはり歌舞伎ファンには高齢者のお客様や旅行者が圧倒的に多いので、こうなりますよね。
結構いま、歌舞伎を観るチャンスかもしれないですよ。

三階席はオペラグラスは必携ですが、気楽に観られるという意味でもおすすめです。

CHECK!

舞台写真付きの詳しい歌舞伎レポートは、エンタメターミナルの記事「歌舞伎座「十月大歌舞伎」公演レポート、舞台写真掲載」をご覧ください。

文・片岡巳左衛門
47歳ではじめて歌舞伎を観て、役者の生の声と華やかな衣装、舞踊の足拍子の音に魅せられる。
以来、たくさんの演目に触れたいとほぼ毎月、三階席からの歌舞伎鑑賞を続けている。
特に心躍るのは、猿之助丈の化け物や仁左衛門丈の悪役。