三階席から歌舞伎・愛 PR

壽 初春大歌舞伎_阿呆の勘九郎さんと初お目見得の陽喜くん

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歌舞伎をほぼ毎月楽しんでいる50代男性。毎月観るために、座席はいつも三階席。
初心者ならではの目線で、印象に残った場面や役者さんについて書いてみます。

歌舞伎座で「壽 初春大歌舞伎」を観てきました。
第一部は「一條大蔵譚 (いちじょうおおくらものがたり)」。
物語の設定は、平治の乱で源氏が敗れ、「平家でなければ人にあらず」という時代。
源氏再興を志す中村獅童さん演じる吉岡鬼次郎と、中村七之助さん演じる妻・お京が、源義朝の元妻・常盤御前に源氏再興の志があるかを確かめるためにやってきます。
この時、常盤御前は、源義朝を死に至らしめた平清盛の寵愛を受け、さらに公家の一條大蔵卿に再嫁していました。
この一條大蔵卿を演じるのが中村勘九郎さん。
登場シーンから見所いっぱいでした。

一條大蔵卿は能しか興味がない阿呆という噂。この阿呆っぷりがとてもおもしろかったです。
この演目は、御父上の故・中村勘三郎さんも得意としていた演目。双眼鏡から除くその顔は、御父上そっくりで見入ってしまいました。
親の得意演目を、時を経て子が演じるというのも、歌舞伎の一つの醍醐味だと思います。

自分がセリフを面白おかしく言うのもそうですが、他の役者がセリフを言っている最中も、身振り手振りで、阿呆っぷりをこれでもかと見せつけてくるのは何とも言えず楽しいです。

例えば、お京との対面シーンでも、
「生まれはどこだ?」
「三重の熊野です。」
「熊にしては白いのぉ」
みたいな阿呆丸出しのやり取りがとても楽しいです。

と、思ったら自分の屋敷へ帰る際、人数を数え、鬼次郎の存在に気づきます。
その時の表情は、能にしか興味のない阿呆ではありません。
花道で、客席に背を向けながらのこの場面は、三階席から双眼鏡でガン見したかいがあって、しっかりその切り替えが確認できました。

この後、常磐御前が吉岡鬼次郎と妻・お京に、本心を打ち明ける場面もふたたびの見所です。
憎き敵である平氏方の一條大蔵卿に媚を売り、暮らしている常磐御前に二人は詰め寄りますが、それは平家の世を生きていく上で、幼子を守るためにやむなく受け入れていたことだと打ち明け、3人は涙するのです。

と、先ほどの一條大蔵卿が実は源氏の血筋で、理由あって作り阿呆をしていたことが判明するのです。

一條大蔵卿が鬼次郎へ名刀を託し、その時が来たら「清盛の首をこのように討ち落とせ」と指示するシーンは見ものでした。
このシーンは、セリフがありません。音楽も止まり、身振り手振りのみで表現しています。
とても緊張感のある素晴らしいシーンで、勘九郎さん、とてもかっこよかったです。

続いての演目「祝春元禄花見踊り」(いわうはるげんろくはなみおどり)もご紹介しましょう。
この演目の関心は、なんといっても中村獅童さんの御子息、小川陽喜君の初お目見得です。

舞台は、武智光秀を破った真柴久吉が催す宴の場。
あ、これ、歌舞伎ではすっかり定番ですが、名前のこと、わかりますよね?
歌舞伎ってこういうつまりパロディ!? がたくさんあるので、実はそんなに難しく考えなくてもよかったりします。

話を戻しましょう。
宴の場では若衆や男伊達、傾城(けいせい)が、皆、鮮やかな色や柄の着物を着て踊り、正月らしくにぎやかに始まります。
若衆の絞める帯は「吉弥(きちや)結び」というそうで、歌舞伎役者の初代 上村吉弥が流行らせたそうです。
検索にかけたら、すぐにYouTubeで結び方の動画がたくさん出てきて驚きました(笑)。
でも、つまり、そんなに難しく考えなくても、これ何?と興味が湧いたら調べられるということでして……。

全員で踊り、少人数に分かれて踊り、そののち、セリから真柴久吉を演じる獅童さん、奴の小川陽喜くん、山三の勘九郎さん、阿国の七之助さんが登場です。
その瞬間から、客席は自分の初めての子や孫の活躍をみるかのような温かい雰囲気に包まれます。

「お目見得」というのも、歌舞伎独特のもので、後に歌舞伎を背負って立つ役者が初めて舞台に立つ場面に立ち会うというのは、何とも興奮するものです。
陽喜くんは奴なので、久吉を守るため、光秀の手下の侍と立ち回りを行います。立ち回りでは、見得を切るかわいい姿が乱発されます。そのたびに沸く客席。
侍を花道に追い込んで、見得を切って、引っ込む姿は、「もう可愛くてたまらん」と誰もが思ったはずです。
私も、すっかり小川陽喜君に心を奪われた一人ですが、
他の役者さんたちの、あでやかで、粋な踊りがあったからこそ、陽喜君の可愛さが引き立ったのではないでしょうか?

新春らしく、明るい気持ちになれる第一部でした。

CHECK!

舞台写真付きの詳しい歌舞伎レポートは、エンタメターミナルの記事「歌舞伎座『壽 初春大歌舞伎』が開幕!公演レポート、舞台写真掲載 」をご覧ください。

文・片岡巳左衛門
47歳ではじめて歌舞伎を観て、役者の生の声と華やかな衣装、舞踊の足拍子の音に魅せられる。
以来、たくさんの演目に触れたいとほぼ毎月、三階席からの歌舞伎鑑賞を続けている。
特に心躍るのは、猿之助丈の化け物や仁左衛門丈の悪役。