三階席から歌舞伎・愛 PR

壽 初春大歌舞伎__新春らしく人気者勢揃い

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歌舞伎をほぼ毎月楽しんでいる50代男性。毎月観るために、座席はいつも三階席。
初心者ならではの目線で、印象に残った場面や役者さんについて書いてみます。

今年もできるだけ毎月、歌舞伎見物に足を運びたいと思っております。
さっそく、歌舞伎座新開場十周年 壽 初春大歌舞伎をご紹介します。

第一部、一、「卯春歌舞伎草子(うどしのはるかぶきぞうし)」
これは歌舞伎の祖といわれる出雲の阿国と名古屋山三の物語です。
山三を市川猿之助さん、阿国を中村七之助さんが演じました。
ここに片岡愛之助さん演じる佐渡嶋左源太と中村勘九郎さん演じる右源太、二人の「かぶき者」がやってきます。

舞踊を楽しむ初春らしい演目で、入れ替わり立ち替わり、踊り手が出て来て踊りを披露します。
何も持たない手踊りから、扇子を持った踊り、鉦を鳴らしながら踊る念仏踊りなど、10人ほどが列を作って踊ったり、
女歌舞伎 浪花の阿梅の市川門之助さん、男歌舞伎 多門庄衛門の市川猿弥さん、男歌舞伎 坊主小兵衛の市川青虎さんが3人で踊ったり。
そして、女歌舞伎と若衆がずらり出て来て踊るのですが、そのメンバーがいいんです。
あでやかな女歌舞伎の面々は、壱太郎、男寅、千之助、玉太郎、笑也、笑三郎。
イキのいい若衆で踊るのは、廣太郎、中村福之助、寅之助、鷹之資、染五郎、鶴松。
こんなに一度に勢揃いするのはやはり新春らしさがあって素敵ですし、楽しいです。

最後は阿国の一行が勢ぞろいして一列に並んで挨拶をします。
舞台のカーテンコールのような感じで右を向いてお辞儀、左を向いてお辞儀、正面向いてお辞儀のあれです。普通の歌舞伎ではないですから、それもまた楽しい。
日本舞踊をやっていなくても、歌舞伎を観たことがなくても、役者さんを知らなくても、
楽しい気分になるとっても素敵な演目でした。

続いては、二、「弁天娘女男白浪(べんてんむすめめおのしらなみ)」です。
この演目を観るのは三度目になります。
平成30年5月に尾上菊五郎さんが演じた弁天小僧菊之助、この時、日本駄右衛門が当時の市川海老蔵さん。大御所による名台詞、「知らざぁ言って聞かせやしょう」でした。

令和4年5月は、尾上右近さんが弁天小僧、日本駄右衛門は坂東彦三郎さんでした。

そして、今回は、片岡愛之助さんが弁天小僧菊之助、日本駄右衛門を中村芝翫さんが演じます。
「弁天娘女男白浪」の始まりは、弁天小僧が武家の娘になりすましているところから始まります。
普段、女形で出演されることは少ない愛之助さんですが、声の出し方から仕草から
女形の方のそれにすっかり見えました。
ドラマ「半沢直樹」で演じたオネエ言葉の黒崎が世間には印象強いかもしれませんが、
この演目ではまさに娘という感じでした。
その後、正体がバレて、刺青をみせながら言わずとしれた盗賊であることを白状するわけです。
愛之助さんは大阪の方ですから、弁天小僧のべらんめぇな江戸弁まるだしの台詞も
なんだかおもしろいものでした。

この役は、バレる前と後のギャップが肝ですから、愛之助さんの美声で男になった時の台詞回しを聞くと、かなり愉快ですし、盛り上がります。
七五調の心地いいリズムに聞き入りました。

あらすじの肝となる場面、娘が店先で小布を懐にしまう万引きシーンなどは、イヤホンガイドでここに注目! という感じで解説をいれてくれるので、
双眼鏡でジーっとその場面にロックオン出来るのもいいですよね。

ちなみにラストの稲生川勢揃いの場。傘を持って花道で見栄を切るお馴染みの最高に華やかな場面は、こちらもすっかりお馴染みですが、三階席ゆえ、5人のうちの3人までしか見えません……。
愛之助さん、猿之助さん、七之助さんまでは見えまして、勘九郎さん、芝翫さんは残念ながら。
そういえば、劇場で購入できる筋書きには、演目ごとに過去の上演記録が掲載されています。「弁天小僧男女白浪」かなりの上演回数がある人気演目です。
この歴代演じた方の一覧を見るだけでも興味深いですよ。

さて、第二部の二、「人間万事金世中(にんげんばんじかねのよのなか)」をご紹介します。
これは河竹黙阿弥の作品です。実は今ご紹介した第一部の「弁天娘男女白浪」と第三部の通し狂言「十六夜清心」も同じく河竹黙阿弥の作品。今年没後130周年なのだそうです。

「人間万事金世中 強欲勢左衛門始末」すごいタイトルです。
そして主演は、2022年NHK大河ドラマ「鎌倉殿の十三人」で親父殿、北条時政を好演した坂東彌十郎さんが演じました。
作品はイギリスの劇作家リットンの『money』という作品を翻案脚色したもの。
河竹黙阿弥は江戸時代の作家のイメージが強いですが、実は明治時代に入っても26年生きていて、その頃に書いた作品も多いのだそう。
お金の話ですが、歌舞伎だとたいてい十両、百両と両であらわしますが、この作品では円で出てきます。

舞台は横浜、強欲な船問屋の主 辺見勢左衛門(坂東彌十郎)と、守銭奴で強欲な妻おらん(中村扇雀)、娘のおしな(中村虎之介)、
勢左衛門の甥、恵府林之介(中村錦之助)、おらんの姪のおくら(片岡孝太郎)は、肩身の狭い思いをしながら暮らしています。

これ、元の戯曲ではおくらはクララ、恵府林之介はエブリンだそうで、こういう遊び心があるのも河竹黙阿弥らしいです。

勢左衛門の厭味ったらしい感じは、彌十郎さんさすがです。扇雀さんもかなりの嫌みっぷりで、こんな夫婦がいたらたまらんなぁと思わされました。
お話的には、長崎にいる遠い親戚の遺産をきっかけに、あっちを立てたり、こっちで策を講じたり。
林之介のもとに大金が遺産として渡されると知った途端、守銭奴夫婦の態度がコロリ、
文無しになったと知ればまた手のひら返し。

最後は、人間万事金の世の中と言っても、誠実なものが幸せを手にするのだよと思える結末です。林之介が主役のようでもありますが、なんといっても彌十郎さん演じる勢左衛門のがめつさがないと生きてこない作品ですから、大河で人気を得た彌十郎さんの活躍が見どころとなる作品でした。

今月は、歌舞伎座、浅草公会堂、国立劇場と、正月から都内でも3つの劇場で歌舞伎が上演されていました。2023年は客足が順調に戻るといいなと思います。

CHECK!

舞台写真付きの詳しい歌舞伎レポートは、エンタメターミナルの記事「歌舞伎座新開場十周年「壽 初春大歌舞伎」が開幕!公演レポート、舞台写真掲載」をご覧ください。

文・片岡巳左衛門
47歳ではじめて歌舞伎を観て、役者の生の声と華やかな衣装、舞踊の足拍子の音に魅せられる。
以来、たくさんの演目に触れたいとほぼ毎月、三階席からの歌舞伎鑑賞を続けている。
特に心躍るのは、猿之助丈の化け物や仁左衛門丈の悪役。