三階席から歌舞伎・愛 PR

壽 初春大歌舞伎_猿之助さんの狐らしさ、それ以上の心情

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歌舞伎をほぼ毎月楽しんでいる50代男性。毎月観るために、座席はいつも三階席。
初心者ならではの目線で、印象に残った場面や役者さんについて書いてみます。

歌舞伎座での「壽 初春大歌舞伎」夜の部となる第三部も観てきました。
実は第三部は、三階席ではなく、一階席後方からの観劇でした。
チケット発売開始当時、仕事が忙しく購入を失念していたため、三階席は早々に売り切れてしまったのです。
まあ、新春ですから自分へのお年玉ということにします。

第三部は「義経千本桜 川連法眼館 (よしつねせんぼんざくら かわつらほうげんやかた)」。
人気の演目で、人気者の市川猿之助さんが侍の佐藤忠信と狐忠信を演じ分けるのが見所です。
最近ですと、「伊達の十役」という演目で、これでもかこれでもかと早替わりを見せてくれた猿之助さんですが、実はただ早替えで多くの役をやればそれでいいのかなんて、ネガティブな感情を持ってしまうこともありました。

そこへ行くとこの「義経千本桜」は好きです。
物語の後半、狐忠信が中村雀右衛門さん演じる静御前に、本物の佐藤忠信ではないと気づかれ、正体を明かすシーンが印象に残りました。
狐忠信の正体は、桓武天皇の時代に雨乞いの儀式に使用するために作られた初音の鼓に生き皮を用いられた夫婦狐の子。
親の代わりに、初音の鼓を義経から渡された静御前を守りながら、鼓を親と思って慕い、付き従っていたことを打ち明け、義経たちを騙していたことを詫びながら、自らの心情を察してほしいというシーンは、泣きました。とても泣きました。

「義経千本桜」は、ダイナミックな動きにばかり、注目が行きがちですが、芝居がメインだと改めて感じました。
もちろん、廊下から飛び降り、床下から白い狐の姿で出てくる有名な場面や、
初音の鼓の音に魅かれるように顔を細かく動かし、耳が鼓に引き寄せられるシーンとか、
欄干の上をしゃがみながら足を細かく動かす「欄干渡り」、
また初音の鼓を与えられ目の前において転がしてじゃれつく様子など、
いかにも狐という動きは、歌舞伎界広しと言えど、やはり当代の猿之助さんが絶品です。
他の演目も含め、源九郎狐を演じる方は数多くいますが、人間が演じているというところから逸脱できないように思えます。
猿之助さんは人間が演じている感じがなく、つまり狐なんです。

とはいえ、狐の動きの場面以上に、狐忠信の心情を吐露する芝居の場面が印象的だったことには自分でも驚いています。
もしかしたらいつもの三階席でなく、一階席だったことが影響しているのでしょうか。
ただし、一階席は花道がよく見える一方、最後の宙乗りの場面では、最初の方しか猿之助さんの姿が拝見できません。あまり贅沢を言ってはいけませんが、席による見え方の違いも面白いものです。

「義経千本桜」は、今まで何回か観た演目ですが、毎回新しい発見や感動があります。
コロナが治まり、巡業も再開されたら、若手の方が演じる狐忠信もぜひ観てみたいと思います。

CHECK!

舞台写真付きの詳しい歌舞伎レポートは、エンタメターミナルの記事「歌舞伎座『壽 初春大歌舞伎』が開幕!公演レポート、舞台写真掲載 」をご覧ください。

文・片岡巳左衛門
47歳ではじめて歌舞伎を観て、役者の生の声と華やかな衣装、舞踊の足拍子の音に魅せられる。
以来、たくさんの演目に触れたいとほぼ毎月、三階席からの歌舞伎鑑賞を続けている。
特に心躍るのは、猿之助丈の化け物や仁左衛門丈の悪役。