歌舞伎をほぼ毎月楽しんでいる50代男性。毎月観るために、座席はいつも三階席。
初心者ならではの目線で、印象に残った場面や役者さんについて書いてみます。
三年振りの團菊祭。第二部は市川海老蔵さんの「暫」に続いて、
二、河竹黙阿弥作 「土蜘(つちぐも)」を観劇しました。
私の好きな松羽目ものです。大きな松が描かれた板の前で唄や三味線の方が並び演奏する音に合わせて、物語が進んでいきます。
尾上菊之助さんが演じるのが、比叡山の学僧 智籌(ちちゅう)実は土蜘の精です。
源頼光(みなもとのらいこう)を尾上菊五郎さん、太刀持の音若を尾上丑之助さんが演じます。
親子三代共演ですね。
頼光が熱を出して臥せっているところに、僧侶 智籌が病の平癒を祈念するとやってきます。
その実は土蜘の精ですから、僧侶の格好をして出てくる段階でどこか怪しげで不気味なわけです。
暗い花道をそぉーっと出てくるのですが、声も低めで不気味さが増します。
これがいい声なんです。
菊之助さんというと、色男のパリッとした役が多かったように思いますし、そうした役の時は声もパリッと高めな印象でした。
でも土蜘の精が化けている僧侶の声は思った以上に低音でいい響きでした。
尾上菊之助さんといえば、2021年放送の連続テレビ小説「カムカムエブリバディ」のモモケンの役が記憶に新しい方も多いのではないでしょうか。
あの時代劇スターの役がこの低音の響きに少なからず好影響を及ぼしているのでは?などと、だいぶ軟派なことを思ってしまったほどでした。
頼光に病平癒祈念を信頼させるために、これまでの難行苦行を語るのは唄であり、
僧侶はそれにあわせて舞います。
これが特に格好良くて、キャーという感じ。
ことは順調に進み、頼光はいよいよ祈祷を依頼するのですが、そのタイミングで太刀持の音若が僧侶の陰を見て「ご油断あるな」と進言します。
丑之助さんの見せ場です。
ちなみに今月5日のテレビ朝日系「徹子の部屋」に菊之助さんと丑之助さんが親子で出演した際、黒柳徹子さんの前でこの場面のセリフを丑之助さんが言ったのですが、
その時の声がとても良かったんです。
歌舞伎座では、座席と舞台との距離の事情もあるかもしれませんが、その時ほどの感動はなかったような(辛口御免です)
前半の山場、正体を見破られた、土蜘の精である僧侶は糸をパーッと縦にまっすぐ出します。
煙に巻いて逃げるようなシーンをイメージしていただくといいかもしれません。
斬りつけた際の血の跡をたよりに、土蜘の精を探す頼光の家臣たち。
次に土蜘の精が舞台に登場した時には、隈取も衣装も見事な化け物っぷりでした。
立ち回りがあって千筋の糸を繰り出す土蜘の精ですが、
最後はついに退治され、幕となります。
衣装も派手で、演出も華やかで、これもまた歌舞伎らしさを堪能できる作品と言えるでしょう。
團菊祭の名の通り、成田屋、音羽屋が揃った第二部は、とにかく見た目も華やかで
飽きることのない演目でした。
私は歌舞伎における化け物がなぜか好きなので、今回はどちらかといえば菊之助さんの演目をたくさん語りたくなってしまいました。
そういえば、先述の連続テレビ小説のモモケンこと桃山剣之介。彼が出演した伝説の映画は「妖術七変化」であったはず。
これはまったくの偶然なのでしょうか。
舞台写真付きの詳しい歌舞伎レポートは、エンタメターミナルの記事「歌舞伎座「團菊祭五月大歌舞伎」が開幕!公演レポート、舞台写真掲載」をご覧ください。