三階席から歌舞伎・愛 PR

幽霊あり、舞踊あり、悪い奴おり_八月納涼歌舞伎

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歌舞伎をほぼ毎月楽しんでいる50代男性。毎月観るために、座席はいつも三階席。
印象に残った場面や役者さんについて書いています。

本日は、「八月納涼歌舞伎」を観劇にやってきました。いつもの二部制でなくて、三部制となっています。八月は、幹部の役者さんは休みを取り、花形、若手の活躍、挑戦の月であるので普段にない楽しみがあります。

第一部は、「一、ゆうれい貸屋」からスタートです。山本周五郎が昭和25年に発表した小説が元になっています。八月ということもあり、幽霊が出てくるお話です。

歌舞伎座では、平成19年以来ですが、当時、坂東三津五郎さんが演じた桶職人の弥六を、今回は坂東巳之助さんが今回演じます。また、中村福助さんが演じた幽霊の元芸者の染次を中村児太郎さん、中村勘三郎さんが演じた幽霊の又蔵を中村勘九郎さん、中村七之助さんが演じた若い娘の幽霊お千代を中村鶴松さんが演じています。
親や先輩が演じた役を、子や後輩が演じるのも歌舞伎ならではという感じがして、楽しく感じました。家主の平作の役は前回も今回も坂東彌十郎さんが演じています。

母親が死んでから、腕がいいのに桶づくりの仕事を全くしなくなった弥六(坂東巳之助)の家に、幽霊の染次(中村児太郎)が現れます。直前に、女房に里に帰られてしまった弥六は、染次に迫られて一緒に暮らし始めます。家主平作は家賃を一回でも遅れたらでていくよういうと、染次は知り合いの幽霊を、貸し出して金を稼ごうとゆうれい貸屋を始めます。

恨む相手の枕元に幽霊を派遣して、恨めしやと言わせ脅かして、二両。今の二十万円位が手に入る計算。月に五百両は、今の五千万円になる勢いです。その後、弥六は商売がうまくいってても、人間の浅はかさを感じて弱気になります。
そんな時、幽霊の一人、又蔵(中村勘九郎)が恨み言を言いに行った先で、怖がられもせず、悪態をつかれた挙げ句に追い払われてしまったことから、何をするにも生きていればこそ価値があると弥六に告げて、ゆうれい貸屋を辞めてしまいます。弥六も、生きている内に価値あることをしなければと思うようになるのです。

初めは主役を張れる中村勘九郎さんがなぜ幽霊の一人なのかと思っていましたが、平成19年にお父上が演じてらっしゃるのもありますが、弥六の考えを変えるくらい、説得力のある台詞を幽霊の衣装を着ながら言える人は、実力者でないと務まらないと感じました。配役の妙とでも言うのかも。

最後は、弥六が改心し、女房が帰ってきてめでたしめでたしとなりました。ハッピーエンドは、私の大好物です。

続いて「二、鵜の殿様(うのとのさま)」です。元NHKアナの山川静夫さんが日本舞踊西川流のため考案した舞踊劇です。(山川静夫さんは歌舞伎に関する書籍を出されています)殿様と太郎冠者が鵜匠と鵜になり、縄で繋がってるかのように息を合わせて踊ります。今年の二月に博多座で演じた松本幸四郎さん、市川染五郎さん親子の息のあった舞踊でした。松羽目物の舞踊劇、これも私の大好物でした。

午後の公演、第二部は「一、梅雨小袖昔八丈 髪結新三」(つゆこそでむかしはちじょう)です。主役の中村勘九郎さんのお父上、中村勘三郎さんが得意としていた演目です。私が初めて観たのは平成26年歌舞伎座で、松本白鸚さんが新三を演じました。途中で登場する丁稚長松役で松本金太郎、現 市川染五郎さんも出演されていました。

このお話は、「人の弱みにつけ込む悪い奴のお話」だと思います。主役の髪結新三はもちろんですが、家主 長兵衛も新三に負けない位悪い奴です。

序幕では、新三(中村勘九郎)が材木問屋の白木屋の娘で、持参金付きの婿をもらう見合話が出ているお熊(中村鶴松)と恋仲の手代の忠七(中村七之助)の駆け落ちに協力するとそそのかします。しかし、いざというところで新三は態度を豹変、悪い奴なんです。
特に忠七から話を聞いて駆け落ちをそそのかす場面では、実際の髪結の手技を行っています。役を演じながら当時の髪結の技術をしっかり再現する勘九郎さん、さすがです。

続いて家主の長兵衛(坂東彌十郎)です。前の事情を知り、お熊を迎えにきた乗物町の親分 弥太五郎源七(松本幸四郎)と見合を取り持った車力 善八(片岡亀蔵)と新三を巻き込んで、金儲けしようという企みです。
現代と違い、家主は町役人の役割もあったので、その権利をうまく使おうという抜け目なさ。この作品の中には初鰹が小道具として使われ、長兵衛と新三のテンポのいいやりとりが見ものです。序幕の悪い奴の新三との違いが出ていて面白い場面です。

大詰めは、二幕の初めで面子を潰された弥太五郎源七と新三の立ち廻りが続き、見得をたくさんします。立ち廻りで終わる演目では、途中で芝居を止めて、二人舞台上で並んで終わります。
初めてこの演目を観た時は、一日の一番最後の演目だったので、松本白鸚さんが「まず今日は、これぎり」といったような気がします。(記憶違いはご容赦願います。)
今回は、次に所作事(舞踊)の演目があったので、「次は所作事ご覧くだされ」と中村勘九郎さんが口上を述べて終わりました。
いつもとは違う終わり方もまた、「八月納涼歌舞伎」らしくていいなと感じました。

第三部は、今月の一番の人気の演目、京極夏彦さん書き下ろしの「狐花 葉不見冥府路行(きつねばな はもみずにあのよのみちゆき)」です。
曼珠沙華の花が重要なモチーフとなっています。ミステリーファンの方も大勢来場されていたようです。動きで魅せるというよりは台詞で進める事が多いように思えました。舞台でなく映画にしたのだったらいいのかも? と思いました。自分にはちょっと忙しい感じがしてしまいました。
古典から新作まで何でも吸収して取り込んでしまうのが歌舞伎のいいところではあるので、新たな歌舞伎の可能性を感じるとともに、歌舞伎ファン以外の方に、歌舞伎を、歌舞伎座という劇場を知ってもらえたのは良かったと思いました。
来月もまた楽しく観劇します。

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文・片岡巳左衛門

47歳ではじめて歌舞伎を観て、役者の生の声と華やかな衣装、舞踊の足拍子の音に魅せられる。
以来、たくさんの演目に触れたいとほぼ毎月、三階席からの歌舞伎鑑賞を続けている。
特に心躍るのは、仁左衛門丈の悪役と田中傳左衛門さんの鼓の音色。