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萬屋祭りで新・時蔵の疑着の相炸裂!_六月大歌舞伎

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歌舞伎をほぼ毎月楽しんでいる50代男性。毎月観るために、座席はいつも三階席。
印象に残った場面や役者さんについて書いています。

今月の「六月大歌舞伎」は初代中村萬寿さん、六代目中村時蔵さんの襲名披露、五代目中村梅枝さん、初代中村陽喜さん、初代中村夏幹さんの初舞台と萬屋にとって記念になる舞台です。

最初の演目は昼の部「一、上州土産百両首(じょうしゅうみやげひゃくりょうくび)」。
六代目菊五郎さんと初代吉右衛門さんのために書き下ろされた作品だそうです。

幼馴染の正太郎(中村獅童)と牙次郎(尾上菊之助)。菊之助さんの化粧は眉毛を太くしたり、話し方が少しユニークだったりと、普段の菊之助さんの貴公子然とした様子と違って楽しかったです。
正太郎と牙次郎は、15年振りに会ったにもかかわらず互いに相手の財布を掏ってしまいます。正太郎は、掏摸の与一(中村錦之助)の家に世話になっています。その家には三次(中村隼人)も世話になっていました。

掏摸をし合った後、牙次郎が正太郎を訪ねて来ます。グズでドジな牙次郎から、掏摸から足を洗おうと言われ、与一からも勧められたこともあり、待乳山聖天の森で、互いに地道に働き十年後に会うことを誓い別れます。
このまま終わるわけがありません。正太郎はもともと腕の良い板前。十年間、館林の料亭で真面目に働き、主の娘と結婚し後を継ぐ話も出ています。そこへ登場するのが悪事を働き江戸を追われた与一と三次。与一は正太郎が堅気に戻ることを応援しますが、三次は正太郎が堅気に戻ることを快く思わず、過去をバラさない代わりに金を要求します。その結果、正太郎は三次を殺めてしまい逃亡します。

正太郎は牙次郎との約束を守るため江戸を目指します。しかし百両の懸賞金がかけられています。
牙次郎は御用聞 隼の勘次(中村歌六)の世話になっていて、百両の懸賞金がかかってる凶状持ちを捕まえたいと勘次に頼んで十手と縄を預かります。もちろん手柄を立てたうえで正太郎と会うためです。
十年振りに二人が会ったところに勘次一派が登場し、正太郎が捕まります。正太郎は牙次郎に捕まえさせてくれと勘次に頼み込み、牙次郎は、正太郎の罪が軽くなるように自首したことにしてくれと勘次に頼み込みます。
二人が互いに思いやる様子に感じるところがあったのか、勘次は正太郎の縄をほどかせ、終わります。

全般を通して、他人を思いやる登場人物が多い、人情話としての面白さがありました。
正太郎と牙次郎は互いの約束を守り、最後も相手の利益になるようにしようと行動します。二人以外の人情も際立ちました。
前半では、与一の人情。掏摸の親分であるにも関わらず、正太郎と牙次郎の会話を聞いて、堅気になるよう快く正太郎を送り出し、館林でも正太郎に優しく接します。
後半では、勘次の人情。自分が正太郎をお縄にすれば百両の懸賞金を手にできるのに、正太郎と牙次郎の言い分を聞いて、正太郎の縄をほどかせ、自首するように取りはからってやります。いい人ばっかりです。
実際にはこんなことはあり得ません。悪いものは悪い、罪は罪です。でも歌舞伎のようなエンターテインメントぐらいこうしたことが許されて欲しい。
心がほっこりする良いお話でした。

続いて「三、妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)」三笠山御殿の場です。六代目中村時蔵 襲名披露狂言として上演された今作は先代の時蔵さんも演じた演目です。

権力者の蘇我入鹿と敵対する藤原鎌足の息子の藤原淡海(中村萬壽)が身分を隠して逃げています。実は蘇我入鹿の妹、橘姫(中村七之助)と恋仲になっているのに、三輪の里の杉酒屋の娘、お三輪(中村時蔵)と夫婦になる約束をしています。恐るべし二股。私には理解できない設定です。
淡海が橘姫を追っていくのを見て嫉妬にかられて淡海を追っていくお三輪。その後橘姫の館に迷い込み、会わせてほしいと懇願するも淡海が橘姫の恋人と知っている大勢の官女たちからあれやこれやといじめられます。いじめる官女たちはは錚々たるメンバーがつとめ、とても面白かったです。
やがて奥から橘姫と淡海の婚礼を祝う声が聞こえてくると、嫉妬に燃えるお三輪は奥へ入ろうとします。嫉妬に燃える表情を疑着の相というそうで、その疑着の相になったお三輪は漁師鱶七(尾上松録)に刺されてしまいます。最後は、お三輪の命が淡海の役に立つと説明され納得して息絶えます。
登場した時は、恋に燃える、淡海のことを思い焦がれる可愛い感じの娘を演じ、最後には嫉妬のためまるで化け物のように凄まじい形相になり、声も低く情念深い感じで話すお三輪。衣装や化粧が大きく変化しないで一人の女の感情、話し方の変化を、中村梅枝改め六代目中村時蔵さんは見事に演じていらっしゃいました。

ちなみにその梅枝の名を継ぐ、息子の小川大晴さんは、夜の部で「二、山姥(やまんば)」で坂田金時を演じ、獅童さんのご子息、陽喜さんと夏幹さんと共に初舞台を努めていました。
歌舞伎の世界は親戚縁者が同じ舞台に立つことは多いですが、六月はまさに萬屋祭り。
これからの活躍がますます楽しみです。

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文・片岡巳左衛門

47歳ではじめて歌舞伎を観て、役者の生の声と華やかな衣装、舞踊の足拍子の音に魅せられる。
以来、たくさんの演目に触れたいとほぼ毎月、三階席からの歌舞伎鑑賞を続けている。
特に心躍るのは、仁左衛門丈の悪役と田中傳左衛門さんの鼓の音色。