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鳳凰祭四月大歌舞伎_イジリ、親子、名コンビ、四月はリスペクトの嵐

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歌舞伎をほぼ毎月楽しんでいる50代男性。毎月観るために、座席はいつも三階席。
印象に残った場面や役者さんについて書いています。

鳳凰祭四月大歌舞伎は昼の部、夜の部の二部構成で上演されました。

まずは昼の部。「新・陰陽師 滝夜又姫」です。
夢枕獏さん原作の「陰陽師」を市川猿之助さんが脚本・演出する作品です。

澤瀉屋の楽しい雰囲気、尾上右近さんの奮闘ぶり、染五郎さんの女に一目惚れする場面、いつもの寿猿さんイジリ等楽しくなるしかないという感じでした。序幕陰陽師につきものの怨霊になるのが平将門。若い頃、京の都で別れた将門と俵藤太秀郷が後に対決することになります。平将門を、坂東巳之助さん、俵藤太を中村福之助さんが演じます。将門は、新皇を名乗り民のために関東を独自に支配し、朝廷から討伐されることになりますが、関白藤原忠平(市川猿弥)から命を受け、退治の先頭にたたされるのが、俵藤太秀郷です。
藤太は、市川猿之助さん演じる盧屋道満から功力(くりき)を持った鏑矢を授けられ、恋人の桔梗(中村児太郎)の前と共に関東に向かいます。
功力とは、修行によって得た不思議な力のこと。それで急所を射抜けば強い将門を倒せるほどの力をもった鏑矢です。
新皇となった平将門の登場シーンでは、巳之助さんが青を使った悪役の隈取で、人ならざる力を持った様子で登場します。いかにもおどろおどろしい感じが出ていました。
その様子は、まだ成敗されてないにもかかわらずこの段階で、すでに怨霊と化しているのかと思わせられるほど。
そこに登場してくる、尾上右近さん演じる興与王が、その後のキーマンとなります。
バラエティーで見る若干天然系のキャラでなく、しっかりした悪役で、声も低くて感じが出てました。序幕の最後は、将門と俵藤太が対決し、将門が右腕と首を切り落とされます。
右腕も首も歌舞伎独特な方法で、空中を飛び回ります。首は目を見開き口惜しいのか大きく口を開けています。かなりオドロオドロしい人形です。
この演出は文章ではなかなか伝わりづらいですが、とにかく空中を飛び回ります。さて、首はどこへ消えたのでしょう。二幕の初めの方には、澤瀉屋によくあるユーモラスなシーンがありました。
安倍晴明役の中村隼人さんが花道に登場すると、「猿之助兄さんに役を任された」と実名が出てきたり、名物の市川寿猿さんイジリもありました。
清明が呼び出すと舞台には琴吹の内侍が二人登場します。一人は本物、一人は偽物です。
本物の琴吹の内侍を演じるのは市川寿猿さんですが、二人を問いただすときに、
清明が「何歳になった?」寿猿さんが「5月20日で93歳です」でドッカ~ンと笑いが起きました。御年93歳の寿猿さん、もう舞台に登場してくれるだけで宝です。澤瀉屋の皆さんが本当にリスペクトしているからこそのお約束としてイジリがあるのを観客である私たちもわかっているからこその楽しい場面でした。
後半、将門の首と右腕を興世王、滝夜叉姫、俵藤太、安倍晴明、源博雅で奪いあうシーンは、だんまりという古典的な演出で、じゃかごも見れました。※だんまり…暗やみの中で,登場人物が無言でさぐりあいをするさまを様式化したもの。
※じゃかご…列になって前の人の腰に手を当て、引き留める形で一列に並ぶ様子。だんまりのシーンで登場する

大詰めは、大薩摩の演奏から始まり、音楽とともに状況説明を歌で行い、役者さんはその状況を舞で表現します。
安倍晴明が依頼された三上山の大百足退治の場面は、歌舞伎ならではの表現方法が使われます。百足を表現するのに8名の役者さんがワンチームとなります。舞台を端から端まで使って、大百足の強さ恐ろしさを表現しています。

立ち回りの途中で行う見栄、右近さん決まってました。
大百足を退治したあと、三上山の山姥から授けられる黄金丸という剣は、歌舞伎のキーとなる小道具としてよく出てくるものです。最後に鬼として復活した将門退治の場面で再登場します。
最後の最後、岩屋の場では、蘆屋道満と興世王が将門を鬼として復活させ安倍晴明と対峙します。将門はこの世のものではないので空中を飛んだりもします。このとき舞台上を横に縦に移動するいわゆる宙乗りです。
最後は例の黄金丸で退治されセリから退場となります。猿之助さん演じる蘆屋道満は将門を殺して鬼として復活させ世の中を支配することを考えていた悪い陰陽師で、出番は俵藤太秀郷に将門退治の功力を持った鏑矢を授けるところと、退治したが首と右腕を探したが見つからず1年経って都に帰ってきて関白から叱責される場面と大詰めの将門復活の場面と、最後にいきなり衣装を変えて宙乗りを行うところでした。
尾上右近さんと中村福之助さんが出る時間が多く、若手にチャンスを与えているようです。

夜の部の注目は、お馴染みの「連獅子」でした。
歌舞伎界の中では、いぶし銀という表現が似合いそうな尾上松緑さん左近さん親子による連獅子です。やはり血の繋がった方同士の演じる連獅子は何かワクワクするものがあります。舞踊の藤間流家元 藤間勘右衛門も名乗る松緑さん親子の連獅子は、かなりヤバかったです。
まず前半部分、踊りが綺麗です。背中が真っ直ぐで美しいし、回転がきれいだし、決めの姿勢では指先までしっかり神経が通っていて決まっています。
左近さんも小さい頃から鍛えられてるのか(まだ小さいですが)頭を細かく振るとか、獅子頭を細かく早く振る振りが本当にしっかりしていました。
筋力不足なのか片足を上げて両手と片膝つけてまわるのは少し遅かったですが、それは追々ということでしょう。後半の毛ぶりは最高です。回数もかなり多かったですが、親子でピッタリ揃っていて客席も大盛り上がりでした。
最後の最後、毛ぶりがスピードアップするところもピッタリでビックリしました。
思わず「すご〜い」と声が出てしまいました。とっても素晴らしい連獅子でしたそして、「連獅子」の前に上演されたのが、「夜話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)」です。
今作はも片岡仁左衛門さんと坂東玉三郎さんの共演! お二人が登場したときの拍手の大きさ長さに感動いたしました。
今作に出演予定だった市川左團次さんが先日お亡くなりになったこともあり、今観ておかないと二度と見られないと考えた方もいたかもしれません。仁左衛門さんが演じるのは伊豆屋与三郎。江戸で遊びまくっていた伊豆屋の養子です。
玉三郎さんが演じるのが赤目源左衛門の妾のお富。二人は木更津の浜辺で互いに心惹かれます。
一般的に、与三郎とお富が出会う<見染の場>と、「……いやさお富……」のセリフで有名な<源子店の場>で演じられることが多い演目ですが、今回は、与三郎がなぜ傷だらけになったかを説明する<赤間源左衛門別荘の場>も上演されました。
惹かれ合った与三郎とお富の中を知った赤目源左衛門が、自分の女を寝取られたことを恨みに思い、与三郎を捕らえ体を斬りきざみ簀巻きにして海に投げ込むよう命じたのでした。こ、怖いですねー。
一方、源左衛門の元から逃げたお富は崖の上から身を投げていました。

三年後、お富は江戸の質商、和泉屋多左衛門に助けられ世話になっていました。多左衛門は左團次さんに代わり、河原崎権十郎さんが演じられました。
あの与三郎は実は生きていて、疵(きず)の与三郎と呼ばれる無頼漢になっていました。
見染では伊豆屋の放蕩息子、いかにも育ちが良さそうな話し方で、後半はゆすりを行う悪党の仁左衛門さんの演じわけも、いつも通り最高です。
再会を果たした与三郎とお富。仁左衛門さんの「いやさお富、久しぶりだなぁ」セリフはここで登場しますが、この有名なセリフの意味は、二幕の<赤間源左衛門別荘の場>があったことで、深く理解することが出来ました。

はじめはお気楽に生きているように見えたお富に対して悪態をついていた与三郎ですが、泉屋多左衛門の計らいで二人は再びの仲になることができます。
最後の最後、もうお前を離さないと言って終わるのも良かったです。仁左衛門さんと玉三郎さん、やっぱりすばらしい名コンビです。

長くなりましたが、昼夜ともに見どころたっぷり、大満足の鳳凰祭四月大歌舞伎でした。

CHECK!

舞台写真付きの詳しい歌舞伎レポートは、エンタメターミナルの記事「歌舞伎座新開場十周年記念「鳳凰祭四月大歌舞伎」が開幕!公演レポート、舞台写真掲載」をご覧ください。

文・片岡巳左衛門
47歳ではじめて歌舞伎を観て、役者の生の声と華やかな衣装、舞踊の足拍子の音に魅せられる。
以来、たくさんの演目に触れたいとほぼ毎月、三階席からの歌舞伎鑑賞を続けている。
特に心躍るのは、猿之助丈の化け物や仁左衛門丈の悪役。