歌舞伎をほぼ毎月楽しんでいる60代男性。毎月観るために、座席はいつも三階席。
印象に残った場面や役者さんについて書いています。
先月は、チケット予約していた4月17日が休演となり、休載となってしまいました。
今月は、八代目尾上菊五郎さん、六代目尾上菊之助さんの襲名披露を兼ねた團菊祭です。
昼の部から振り返ります。
「一、寿式三番叟(ことぶきしきさんばそう)」
襲名披露興行の幕開けを飾る舞踊の演目です。前半は、厳かな雰囲気で、中村又五郎さん演じる翁と、中村雀右衛門さん演じる千歳、中村米吉さん演じる附千歳により厳かな雰囲気が漂うなかでの舞になります。後半は三番叟5名の登場により、テンポアップし、尾上松也 中村歌昇、中村萬太郎、尾上右近、中村種之助の若手5名により五穀豊穣を祈りながら踊ります。
5名がそれぞれ異なる、鮮やかな色の衣装を身に着け、音楽に合わせて踊る様は、躍動感があり、それでいて振りをそろえるところはしっかり揃っていて、華やかさも存分にあり、時代背景や音楽は異なりますが、SMAPや嵐が、歌舞伎の世界に舞い降りてきたかのように感じました。(古い?)
もちろん田中傳左衛門さんの小鼓の音色のいつもどおり、それだけで来てよかったと思わせる素晴らしい音色でした。
「二、勧進帳」
團十郎の弁慶、菊五郎の富樫の組み合わせで観劇するのは、平成26年5月の歌舞伎座以来。
以前観た時よりも、菊五郎さんの表情や声の響き、貫禄というか器が大きくなっているように素人ながら感じました。このお話の有名な場面は、何も書いていない巻物を勧進帳であるかのように読み上げる場面や、弁慶と富樫の山伏問答、義経一行ではないかと疑われ、弁慶が義経を杖で打ち据える場面などが有名です。
ですが、私が一番の見どころと感じたのは、山伏が義経一行だと気づいたが、弁慶の必死さ(山伏問答で見事に回答しきったところや、心を鬼にして義経を思い切り打ち据えたところ)に心打たれ、「弁慶の義経を思う心に感動した。その心意気に免じて、情けをかけて関所を通してやろう」ということを、時間にして数秒間ですが、表情の変化だけで感じさせられたところです。
この場面で、いままで見た中で、最高だと感じたのは、二世中村吉右衛門さんでした。八代目尾上菊五郎さんの岳父です。それに負けない名演でした。
「三、三人𠮷三巴白浪(さんにんきちさともえのしらなみ)」大川端庚申塚の場
河竹黙阿弥の白波狂言の傑作のひとつです。今回は、和尚吉三、お坊吉三、お嬢吉三の三人が出会う場面です。演じるのは、中村錦之助さん、坂東彦三郎さん、中村時蔵さんです。
七代目尾上菊五郎さんと中村萬寿さんが、長く音羽屋の座組で、立役、女方のトップを組むことが多かったですが、八代目尾上菊五郎さんと組むのは、当代の中村時蔵さんではと勝手に思っています。坂東彦三郎さんは、音羽屋の脇を固める渋い役者さんです。
中村錦之助さんは、中村萬寿さんの弟さんです。つまり音羽屋にゆかりのある三人です。
普段、姫とか世話女房とか、いい人の役がおおい時蔵さんが、町娘を装った盗人で人殺しの悪い役をやるのがとても珍しいです。夜鷹のおとせから金を奪って川に放り込むなど、ひとでなしをしっかり演じてらっしゃいます。有名なお嬢吉三のツラネ(長々と述べるセリフ)が、低めの発声で、ふてぶてしい感じが出ていて、こういう役もたまにはいいなぁと感じました。彦三郎さん演じる和尚吉三も、金を横取りしようとする悪い感じが、堂に入ってました。お嬢吉三との立ち回りのシーンで、仲裁に入るお坊吉三役の中村錦之助さんは、兄貴分の風格がありました。三者三様、役にはまっていて楽しかったです。
「四、京鹿子娘道成寺(きょうかのこむすめどうじょうじ)」三人花子にて相勤め申し候
女方舞踊の傑作である本作は、いろいろな役者さんが演じておられますが、DVDにもなった坂東玉三郎さんと八代目尾上菊五郎さんの二人道成寺は、過去に5回の公演で演じられています。私も、平成25年5月の歌舞伎座で拝見いたしました。踊りだけでも美しいのですが、このお話は、「修行僧の安珍に心惹かれた清姫が心変わりした安珍を恨み、嫉妬のあまり蛇体となり、安珍を道成寺の鐘ごと焼き尽くしてしまい、再興された撞鐘の鐘供養の場に清姫の怨霊が、白拍子となって現れる。」というお話です。白拍子が、時折みせる鐘にたいする執着心や安珍への恨みを表情で表すことも必要です。
今回は、坂東玉三郎さん、八代目尾上菊五郎さん、尾上菊之助さんの三人で踊ります。
最初に、すっぽんから花道上に菊五郎さんは、菊之助さんが親子が登場します。踊りの名手の菊五郎さんに負けまいと、菊之助さん頑張っています。11歳ですから、筋力もまだ大人になっていないのですが、菊五郎さんに負けまいと必死に踊る姿に、感動しているお客さんも多いのか、拍手が大きいです。
白拍子の舞いから町娘、毬を突く娘、花娘などいろいろな踊りが続きます。その中で、花娘の舞いは、振り出し笠を手に菊之助さんが一人で踊ります。あったかい雰囲気が歌舞伎座を支配します。皆が、自分の息子が踊っていると思っているといわんばかりです。
三人での舞いが続き、最後の鐘入り(鐘が舞台上に降りてきて、鐘の上に、白拍子が乗る有名な場面)では、三人とも鐘の上に上り、最後の見栄をします。
菊之助さんが女方をするのは、意外でしたが、祖父は、七代目尾上菊五郎さんと二世中村吉右衛門さん、父は八代目尾上菊五郎さん、叔母は名優 寺島しのぶさん、父方の祖母は、一世を風靡した富司純子さんと、血統はすごいですので、いろんな役をこなせる役者さんになっていただきたいと思いました。
最初から最後まで見どころ満載、興奮しっぱなしの、昼の部でした。
