三階席から歌舞伎・愛 PR

吉例顔見世大歌舞伎_三谷かぶきで大笑い!

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歌舞伎をほぼ毎月楽しんでいる60代男性。毎月観るために、座席はいつも三階席。
印象に残った場面や役者さんについて書いています。

今月の歌舞伎は、夜の部のみ行きました。今年は松竹創業130周年でさまざまな演目が上演されてきましたが、今月の夜の部は、伝統と革新の両方を兼ね備えた演目でした。

一、當年祝春駒(あたるとしいわうはるこま)

正月などに演じられる曽我物の1つで、踊りがメインの作品です。
内容は、曽我兄弟が敵の工藤祐経を討とうとやってきます。
工藤祐経は踊り手として館を訪れた芸人の本当の目的に気付いています。
祐経は将軍から巻狩の奉行の役目を任されてるので、今は討たれるわけにはいかない。巻狩が終われば討たれてやるからと巻狩の通行手形を兄弟に渡してこの場は一旦別れるというお話です。
お芝居中心ではないので時間は短かったですが、曽我対面同様、工藤祐経を演じた中村歌六さんは大物感たっぷりでよく似合っていました。
兄の十郎を中村橋之助さん、弟の五郎を中村萬太郎さんが演じましたが、十郎は和事、五郎は荒事の雰囲気がよく出ていました。
踊りの分量が多かったですが、題材は歌舞伎でよく扱われる曽我物なので、わかりやすくつかみはOKという感じです。
春駒は馬、そういえば来年の干支は午ですね。

二、三谷かぶき 歌舞伎絶対続魂(ショウ・マスト・ゴー・オン) 幕を閉めるな

「本日のメインイベント〜」という昔のプロレスのフレーズが似合いそうな夜の部のトリを飾る演目は、あの三谷幸喜さん作・演出の「ショー・マスト・ゴー・オン」の歌舞伎版です。あの、と書きましたが私は未見です。
「ショー・マスト・ゴー・オン」は、さまざまなトラブルを乗り越えて、舞台を最後まで続けようとする舞台監督はじめ役者スタッフたちのお話です。

三谷幸喜さん主宰の劇団 東京サンシャインボーイズの初演では、劇中劇は「マクベス」、テレビドラマ版では「忠臣蔵」で設定されたそうで、さて歌舞伎版では……。
2022年に上演されたシス・カンパニー版の舞台では、舞台監督を女性に変えた設定だったそう。しかもコロナ禍の最中で、役者が体調不良で出演できなくなる度に三谷幸喜さん自身が代役を務め、最終的には舞台監督役の鈴木京香さんの代わりまでやるというものすごいエピソードがある作品とのこと。まさに「ショー・マスト・ゴー・オン」、何があっても舞台を続ける、幕は下ろさないというお話そのものの状況だったのだとか。

そんな伝説を残している人気作の歌舞伎版の面白さを書き出してみましょう。
①まず松本幸四郎さん、片岡愛之助さん、中村獅童さん、中村鴈治郎さんという座頭を務める役者の方々ががっぷり四つに組んで舞台に立っていること
②三谷幸喜さんとなじみのある阿南健治さんや浅野和之さんが参加されていること
③坂東彌十郎さんが静御前の衣装で舞台に立っていること
④劇中劇は「義経千本桜」が設定されていること

松本幸四郎さんは狂言作者 花桐冬五郎役。舞台監督役を狂言作者に置き換えています。さまざまなトラブルをどう作品の体裁を保ちながら成立させるために奮闘します。奮闘というか右往左往させられる様が面白かったです。
片岡愛之助さん座元 藤川半蔵役。自分の名前を大きく掲げた演目が実は大阪で見た人形浄瑠璃「義経千本桜」を無断で上演していたものだったところへ、本物の作者が観に来ることになり大慌て。こずるい感じの愛之助さん、うまいです。
中村獅童さんは、看板役者 山本小平次役。二日酔いでやって来て、態度は無茶苦茶。場をひっかきまわす感じが獅童さんワールドでした。
映画「国宝」でも大活躍の中村鴈治郎さんは頭取 嵐三保右衛門役。良かれと思って代案を出すもののそれが裏目に出たりして、てんやわんやを加速させます。鴈治郎さんとても楽しそうでした。

東京サンシャインボーイズのメンバー、阿南健治さんは大道具方 儀右衛門役。仕事にプライドを持ってる裏方がちょいちょい出て来ると笑わせようとしてないのに可笑しい。
可笑しいといえば、2022年版の舞台にも出演されていた浅野和之さんは骨つぎ玄福役。
実はスーパー歌舞伎『ワンピース』など、歌舞伎座にも何度も立たれています。今回もかなり笑わせていただきました。

三谷作品は、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の親父殿役で人気を博した坂東彌十郎さんは役者 竹島いせ菊役。いせ菊が演じるのはなんと「義経千本桜」のヒロイン、静御前。もう女形で登場するだけで面白い。

もっといろいろ仕掛けがありますが、設定自体が面白いのです。とにかく多くの人物が登場しますが、皆が舞台を無事やり切ることに向かって、多少無茶苦茶でも何とかしよう一生懸命に活動する様子が、とっても面白く楽しかったです。
細かい説明をするよりも、チャンスがあれば今からでもいいので観に行ってもらいたいと思います。値の張る席しか空いてなかったとしても損はないです。(売り切れかもしれませんが)
そうそう、今作はライブ配信が予定されているそうです。月内はアーカイブ配信でも観られるルようですからぜひぜひご鑑賞をおすすめします。

そもそもの「ショー・マスト・ゴー・オン」を知っている方は、この役者がこの役をやるのか……みたいな感じで観てもらってもいいのかなと思います。もちろん、歌舞伎を知らなくても、三谷幸喜さんの作品だからというきっかけで歌舞伎座という劇場に来るだけでも十分記念になりますし、配信でも歌舞伎に触れるきっかけにしてくださるのもいいですね。
とっても楽しい一幕でした。

三谷かぶき『歌舞伎絶対続魂(ショウ・マスト・ゴー・オン) 幕を閉めるな』ライブ配信
日時/11月22日(土)17:50 開演(予定)
【特典映像配信期間】11月22日(土) 17:50~11月30日(日) 23:59まで

文・片岡巳左衛門

47歳ではじめて歌舞伎を観て、役者の生の声と華やかな衣装、舞踊の足拍子の音に魅せられる。
以来、たくさんの演目に触れたいとほぼ毎月、三階席からの歌舞伎鑑賞を続けている。
特に心躍るのは、仁左衛門丈の悪役と田中傳左衛門さんの鼓の音色。