日常の中から、エンタメを整理収納目線、暮らしをエンタメ目線でつづります。栗原のエッセイ、つまりクリッセイ。
人生初の「奈良」をエンタラクティブにお届けする短期集中連載。興福寺 東金堂を出たらまさかの天気雨を浴びたのが前回。
お堂を出たらそこは天気雨がキラキラと輝く世界だった。
「きっといいことが起こるんじゃない?」とテンション高くなった私たちは敷地の奥、南円堂に向かって歩いた。
南大門跡という場があった。そこはまるでステージのような高さの石場だ。
中金堂を正面にみる場所に、庭園の飛び石みたいに平べったい石が点在している。
それは、南大門跡だ。そう、ここにあった門の土台(足)部分だった。
その門がどれだか大きいものだったが感じられる。
写真を撮ったつもりだったが、残っていない。
それは次に起きたことが理由だった。
ステージみたいな南大門跡に上がって、ぐるっと辺りを見回した次の瞬間、
今出て来た東金堂と五重塔に虹がかかっていたのだ。
あの天気雨がその虹を作っていた。
「えー、こんなことってある?」興奮をそのまま声に出し、そこからはしばらく
スマホのシャッターを連続して押しまくる時間。
ここまで来ると人はあまりいないので、嬉しくなって何枚も撮った。
少しすると無料休憩所から二人の若いお姉さんが出てきた。
そして、虹を見つけて、同じように興奮している。
「すごいですよねー」と自然に話しかけてみた。
会話が関西弁ではないようで、なにか聞き覚えがある方言だった。
互いに写真を撮り合って、大阪と千葉から来ていることを告げて、
彼女たちにもどこから来たか聞いてみる。
すると、その二人組は高知からだという。
そうか、聞き覚えがあったのは、前日観た舞台『SERI~ひとつのいのち』の主人公SERIの
お父さんが高知出身という設定で、土佐弁で話す場面があったからだ。
それもまたすごい偶然だと嬉しくなりながら、
歩いては振り返り、歩いては振り返り、虹を見る。
旅も終わりに近づいて、ありがたい気持ちになりつつ、興福寺で最後に立ち寄ったのが
国宝 北円堂だ。
北円堂では、運慶とその子らが作ったとされる弥勒如来や世親菩薩、無著(むじゃく)菩薩のほか、四天王像が祀られていた。
ちょうど訪れた日の前日から秋の特別公開にあたり、ラッキーなことに観ることができた。
ひっそりと静かで、ここの四天王、広目天もまたスタイルも表情も異なっている。
北円堂を見終えた頃には、もう虹はほぼ消えていた。
本当にあのタイミングだったのだ。
その満足感にめいいっぱい包まれながら、奈良旅は終わりを迎えた。
まさか奈良がこんなにしっくり来るとは、こんなにゆったり満喫できるとは。
名残惜しいとは思いつつ、「ふらりとまた来ようね」「これはまた奈良目当てで来たくなるね」と声にして、駅に向かった。
(たぶん、もう少しだけつづく)