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ときどき旅に出るカフェ / 近藤史恵

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アトリエM_こばやしいちこによるオリジナルブックレビュー。たくさん読んだ本の中から、読者におすすめの一冊をご紹介します。

ときどき旅に出るカフェ / 近藤史恵

37歳、独身、1人住まいの瑛子。3年ほど前に中古のマンションを買い、高級ではないけれど、お気に入りのモノをそろえて、自分なりに快適に暮らしている。取り立てて大きな不満はないけれど、時々これでいいのかな……と不安になることはあるが、概ね問題なく暮らしている。

そんなある日、休日、家の近所を散歩しているときに、小さなカフェを見つけた。白い一軒家で、カフェ・ルーズという木の看板が出ている。感じのよさそうな店。そこでちょっと休憩することにして入ってみたら、店主は昔の同僚 円(まどか)だった。

同僚時代に、ちょっとなんやかんやあったけれど、それでも通いたくなるほど、通ってしまうほどそのお店はとても居心地の良い空間だった。美味しいスイーツ、ちょっとした食事、夜はお酒も出す。どれももちろん美味しいが、このカフェ・ルーズのメニューの大きな特徴は、円が旅先で出会った食べ物を再現したり、取り寄せたりしているのだ。毎月1日から8日を休みにして、旅に出たりする。海外のこともあるが、国内のこともある。また、どこにも旅に出ないで、新商品の開発に費やすこともある。そんなわくわくするカフェに通ううちに、瑛子と円は、同僚時代では築けなかった関係を築きながら、心を通わせていくようになるのだ。

行くたびに新しい出会いや発見をさせてくれるこのカフェの店主は、ちょくちょく出かける旅の経験のおかげか、ちょっとした探偵のよう。お茶や、食事の間、世間話まじりにした相談に、的確にアドバイスしたり、解決してしまったりするのだ。そして、明かされるカフェ・ルーズの秘密。円の抱えているもの……

私は、カフェがとても好きだ。1人でちょっと本を読むのに適した静かなカフェも、友人とのちょっとしたおしゃべりなら大目に見てくれるカフェも、疲れた時に甘いもので癒してくれるカフェも。

なんて素敵な……こんなカフェ、やってみたい。いや、通いたい。近所にあればいいのに。

私にも、イキツケのお店はいくつかある。近くに言ったら絶対に寄ってしまうカフェ、毎日のように通ったランチの食堂。店主と顔なじみになっている居酒屋。そういうお店は、美味しいのは絶対条件だけれど、店主との距離感もかなり大切だ。以前、しょっちゅう通っていたランチのお店に、ちょっとご無沙汰したのち、顔を出した時のこと。店主に、

「あら、お久しぶりね」
と言われて、
「あ、ごめんね。ちょっと忙しくて、ゆっくりランチ出来なくて……」
なんて、必要のないウソをついたことがある。「ごめんね」をいう必要もないし、言い訳する必要もないし、店主も、そんなつもりもなかったと思うのだけれども、なんだか、ご無沙汰したことを責められたような気がしてしまったのだ。

いつ行っても、同じような距離感・笑顔でいてくれる、カフェ・ルーズは、だからいいんだろうな。

また、飲食店が大変なこのご時世、あの店に私が行かないと、潰れてしまう!と、勇んで行ったイキツケの居酒屋が、自分が行かなくてもなんの支障もなく、繁盛してしまっている。いや、繁盛していいのだ、良かった良かった。そりゃそうだ、まあ、私一人ではそんな大きな助けにはならない。うん、ホント良かった……

でも……それはそれで、ちょっと寂しいような……お客ゴコロは、複雑なのである。

文・こばやしいちこ
小さな頃から本が好き
映画が好き
美味しいものが好き
おせっかいに人に勧めたがり
愛犬・さくら(黒のトイプードル)を溺愛しながら、
毎日なにかしら本を読んでいます。

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