理由あって週イチ義母宅に通っている。
これは、主にその週イチに起こる、今や時空を自由に行き来する義母とその家族の、
ちょっとしたホントの話だ。
「お母さんにとって幸せとは何ですか?」
いきなりすぎて面食らった。
「お母さんって、誰?」
そう聞くと、私を指さして「あなた」と言う。
なぜそんなことをいきなり聞いてきたかといえば、
新聞も面白くなさそうでやることがない義母の前に1冊の雑誌を置いたことがその理由だった。
『PHPベストセレクション 50代からいい人生を生きる人、後悔する人』
そういうタイトルのPHP増刊号。
義母宅に行くと、毎回、これどこに置いてあったの? というものが出てくる。
今回はこれだった。
奥付を見ると2016年7月16日発行とある。
同年11月にPHP研究所が創設70年を迎えるにあたり作った特別増刊号の第3弾で、
それまで『PHP』誌に掲載された人生の達人のインタビューやエッセイを編集とある。
義母はその雑誌をひたすらにめくっていた。
読んでいるという感じではなく、ひたすらめくっていた。
几帳面にめくるたびにしっかり広げて、折り目をつけるような動きをしていた様子が
台所からチラ見したタイミングで確認出来ていた。
「あぁ、雑誌も読まないか……、まあ、そうだよね」
と心の中で思った。
そうしてしばらくしたタイミングで冒頭の質問となる。
「あなたにとって幸せとは何ですか?」
面食らいながらも私が思う答えを伝えた。
「人と会話して、コミュニケーションをとって、そうだよねとか、そうかなぁ? と言い合える時間が私にとって幸せです。だから今、お義母さんとしているようなことも幸せよ」
少しいい子ちゃん過ぎると思われるかもしれないが、実に素直にそう思っていた。
ライターという職業柄、人の話を聞くことが好きだし、一方的じゃなくてそこに会話が生まれることにもとても喜びを感じるのが事実だ。
前日、友人たちと食事をしながら「自分の強みは何?って聞かれたらなんて答える?」みたいな話もしていたから、割とすんなり出た。
なぜ義母からそんな質問が出たのか、本当に驚いた。
というのも、結婚してからずっと義母は私に質問することはあまりというか、ほとんどなかった。
聞くのは私が専門で、元教師の義母は話すのが専門だったから。
でも、共感力はとても高く、例えば私がこんなことが上手くいかなかったと何かエピソードトークをすると、フォローするようなコメントもくれることは少なくなかった。
ここ最近はあまり会話らしい会話にならず、正直寂しいというか、つまらないと感じていた私にとって、この質問と質問の答えに対して「それはいいことだね」と相槌を返してくれたことはやけにうれしい出来事だった。
さて、では、なぜそんな質問を義母が突然してきたかというと……。
前出のPHP特別保存版の巻頭に掲載されていた故・瀬戸内寂聴さんのインタビューページで、
3つめの中見出しに掲載されていたのが
「あなたにとっての幸せとは何かを考える」
だったのだ。
新聞もそうだが、義母はもう最近は細かい文字はよっぽどでないと読めなくて、大きな見出しだけを目にしている。
「あなたにとっての幸せとは何かを考える」
がこんな風に目に入ったのだろう。
普通に会話が成立するこういう時間もある。
そう考えると少しせつなくなるのは、いよいよ独居は厳しくなってきた義母の暮らしが、
義母にとっての幸せとは何だろう? それを本気で考えている上でのことでもあるから、
なんとなく感じ取ったのかもしれない。
同じ質問を義母にもしてみたが、その答えは混乱して曖昧だった。
でも、普段はすることがなかった質問を投げかけてくれたこと、
そのために立ち上がり、私のそばへ来て話しかけてくれたことが今日の一番だ。