気になるプロダクトやプロジェクトをエンタメ性や整理収納の考え方に寄り添いながら紹介し、読者の「キニナル」を刺激します。
今回は、アートクラフト盆栽を手がける丸山としこさんにインタビュー。
整理収納アドバイザーの先輩で同年代のとしこさんが、「実はこんなものを作っています!」とSNSで紹介しているのを目にした。これはキニナル! 実物が見たい、どんな工程で作られているの? ということで、作品を展示販売されている横浜へお邪魔してアートクラフト盆栽をはじめたきっかけや魅力についてお話をうかがいました。
-- アートクラフト盆栽って何? のところから教えてください。
造形盆栽というのが正式名称なんですが、造形盆栽は針金、粘土、紙で作るアートクラフトです。全国造形盆栽美術家協会という団体があり、私は青木利子先生にご教示いただいています。造形盆栽は50年前から今につづく、とても伝統のある技術で、50年前にはかなり流行った習い事だったそうです。
最盛期は協会員が1000人位いたと聞いています。先生方もご高齢になり、時代と共に手がける方が少なくなっているというのが現状です。
-- としこさんと、アートクラフト盆栽との出会いを教えてください。
コロナ禍で自宅で過ごす時間が増えたタイミングで、家族の仕事をお手伝いしていた時に日本文化の一つとして出会いました。当初は習う予定は全くなかったのですが、後継者不足のお話などを先生からうかがううちに、習ってみようかなということになりました。
期せずしてあの頃は時間があったので、習っては家でコツコツ作ることが出来たんです。
-- 最初に作った作品は何でしたか?
一番初めに作ったのはアカマンマでした。このアートクラフト盆栽は、茎の部分が針金、葉は布で、花や実の部分が粘土になっています。元々は私たちが子どもの頃一世を風靡したパンフラワーの技術が使われているんです。パンフラワーは葉の部分も粘土が使われるそうなのですが、アートクラフト盆栽は、より自然に見えるように、葉の部分には布が使われています。
-- 盆栽の根の部分、苔は何で作られているんですか?
苔はドライの苔を使っています。実は盆栽で一番重要なのは幹で、作るのが難しいのも幹なんです。
針金にティッシュやウレタンを巻いて膨らませて、何本かの枝を束ねるように幹を形成します。実際の盆栽同様、一の枝、二の枝という感じで枝ぶりを形作っていくんです。
-- としこさんはこれまでに盆栽と触れあう機会はあったのですか?
手がけたことは全くありませんが、祖父の家にはたくさんの盆栽がありましたね。
アートの盆栽というのは実は世の中にいろいろあるんですが、私が教えていただいている造形盆栽は幹のリアルさへのこだわりがすごいんです。
というのも、ここで教えてくださる先生方は、50年間、生の盆栽も習っていらしたという徹底ぶり。生の盆栽を教えている方にとって、造形盆栽は言ってみればニセモノなわけで、作った造形盆栽を師匠に見せたら、嫌味を言われながら本物の盆栽バサミでパチパチ枝を落として指導されていたそうです。
でも熱心に習う姿勢に対しては一目置かれていたのかもしれませんね。真剣に習い、真剣に盆栽を教わっていたので、今、この全国造形盆栽美術家協会の皆さんが作る作品は幹がリアルで美しいんです。
-- 本当に細かく、精巧につくられていますよね。つい近づいてじーっと見たくなります。神奈川県横浜市の中区役所別館のナカナカフェ内に大小さまざまな作品がたくさん展示販売されていますね。
ツユクサやツクシ、さきほどお話したアカマンマなど、小さな草花もありますよね。一見盆栽に関係ない種類のように思うかもしれませんが、盆栽の正式な飾り方というのがあって、
床の間の真ん中に掛け軸、左右に盆栽があって、サイドに石や小物と呼ばれるこうした小さな草花を飾るのだそうです。
こうしたことも作りながら先生に教えていただいています。
-- ヤナギやレンギョウ、ナンテンの実など、とにかく粘土で作られている部分が緻密ですね。当たり前ですけど、これ、全部手作りなわけですよね?
はい。気の遠くなるような数を作ります。でも没頭しやすい性格というか、特におうち時間が長かった時には、気づいたら作り始めて5時間経過していたなんてこともありました。
-- このキンモクセイは見ていると香ってきそうです。
ありがとうございます。キンモクセイやミカンなんかは実家のお庭にあったという方も多いので、喜んでいただけることが多いですね。なかなかお庭のある家に住めない方もいますから、そういう人が少し懐かしく感じながら季節を感じられるものを飾っていただけたら嬉しいなと思います。
作品が生まれるのは楽しいんですが、何かと道具も増えて大変です。
-- でも道具の整理ならおまかせ! ですよね(笑)。このアートクラフト盆栽はどういう方が購入されるんですか?
実は海外で人気で、購入者は外国の男性が多いようです。盆栽は日本では高齢の方が楽しむイメージですが、海外では特に若い男性に人気があります。圧倒的に「マツ」を選ぶ方が多く、海外では大きい作品を好まれる方が多いですね。
アートクラフト盆栽で使われている鉢は、本物の盆栽鉢なんですよ。だから、鉢だけでも実は結構値が張りますし、盆栽鉢を焼いている窯元さんも減っているので、材料費の高騰も気になるところではあります。
-- 技術はもちろん、手仕事にかかる時間と労力は相当ですね。作品作りを始めてから何か注目するようになったことやものはありますか?
やはり木はよく見るようになりましたね。お庭を見るのはもともと好きだったので、島根県の足立美術館にも行きましたし、大宮の盆栽美術館にも足を運びました。
-- では最後にアートクラフト盆栽を初めて知った方や興味を持たれた方へメッセージをお願いします。
日本の手工芸は後継者がおらず、消滅寸前のものが沢山あります。アートクラフト盆栽(造形盆栽)もその一つで、素晴らしいテクニックや技法を興味のある方には是非学んでいただきたいと思います。 アートクラフト盆栽を作る仲間が増えることを切に願っています。
(写真提供・丸山としこ/写真・文・栗原晶子)
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