理由あって週イチ義母宅に通っていた。
これは、今や時空を自由に行き来する義母とその家族の、ちょっとしたホントの話だ。
表参道のスパイラルカフェは、一時は煙もくもく愛煙家のためのカフェになっていたらしい。
私にはとても思い出深いカフェだったのに、それを聞いてがっかりしたことがあった。
今はもちろん禁煙。
大好きな無花果を使った「いちじくとピオーネのタルト」がメニューにあったので、
ハーブティーとともに注文して美味しくいただいた。
そろそろ席を立とうと思ったところで、ショートメッセージが入った。
久しぶりに担当のケアマネージャーさんからだった。
「突然のメールすみません。ちょっと嬉しくてメールしてしまいました」
が書き出しだった。
内容はこうだ。
今日、ケアマネさんが義母が入所している施設へモニタリングに行かれたそうだ。
義母のいる施設には、ケアマネさんが担当されているほかの入所者もいるそうなので、
様子を確認しに定期的に行ってくださるのだ。
夏にコロナに罹患し、10日間の入院を経験した義母は、車椅子で過ごすことが増え、
歩くことが困難になり始めていたので、退院直後の義母の様子を見た時には、ケアマネさんがとても驚いていた。
91歳にとっての10日間の入院はそれほどシビアだということだ。
介護のプロであっても改めてそれを目の当たりにするとそう思うのだなぁとなんだか冷静にその反応を聞いた覚えがある。
メールのつづきにはケアマネさんが施設職員の方から聞いたことが書かれていた。
義母が夫と私の名前を口にし、その時、私が夫の妻だというような話をしたのだという。
又聞きもいいところなので、詳細はわからないが、
何かの時に、どこかのタイミングで、義母はクリアーにその事実を口にしたらしい。
ケアマネさんもそれを聞いて少し驚いたというか、嬉しかったらしい。
私のことは、いつも優しくしてくれる人との認識はあっても、それ以上の理解はしていないように最近は感じていたからだ。
私だってそうだ。
夫のことを「お父ちゃん」と呼んだりするから、「じゃあ私は何?」なんて聞いても
「へへへ、いい人」とか「優秀な女性です!」とか言って、ヌハハハハなんて二人で笑ったりもすることも多かったのだ。
義母はおそらく職業的に「知らない」「わからない」とは口が裂けても言わない人である。そのことに今、私は救われているなぁと感じることも多かった。
トイレの移乗も先月より上手くなっていると報告されたそうだ。
実際、義母にも会っていただいたようで、義母節は健在だったとあった。
メッセージを読んで思わず目頭が熱くなった。
そして、すぐさまケアマネさんに返信をした。
「ここ2回の面会に私は行けていなかったので、記憶に関しては仕方ないよなーと思っていたから、少し早いクリスマスプレゼントをいただいた気持ちです。
何より、それをご報告いただき、久しぶりに〇〇さんとメッセージのやりとりが出来たことが嬉しいです」と書いた。
私からの返信を読んでさらに、
「メールを読んで涙があふれています。
周りに気づかれないよう、トイレに逃げ込んでいます。
幸せな1日です。」
と絵文字たっぷりの返信が届いた。
ストールを首に巻かないと風が冷たい夕刻だけど、
胃袋はいちじくのタルトで満たされ、ココロはメールのメッセージであたたまった。
来月は、また検診で会える予定。
私のことがわかっても、わからなくても、馴れ馴れしく話しかけて、
ヌハハハハと顔を合わせて笑うことはほぼ決まっている。