映画の中にはさまざまな人生や日常がある。さまざまな人生や日常の中には、整理収納の考え方が息づいている。
劇場公開される映画を、時折、整理収納目線を交えて紹介するシネマレビュー。(ネタバレを含みます)
映画「アイアンクロー」を観た。プロレスが大好きなわけではない。
しかし、幼い頃よくテレビで見ていたので、プロレスを好きな人の気持ちは少しわかる。
映画「アイアンクロー」は、実在したアメリカテキサス州出身のフォン・エリック家の実話をもとに描かれた作品である。
アイアンクローというのは、片手で相手の顔、額あたりを両脇からムギーッと挟む、フリッツ・フォン・エリックの必殺技のこと。
よくは知らなかったけれど、アイアンクローという技の名は聞き覚えがあって、
幼い頃、兄がふざけてやりあっていたような気もする。
私の父は体が大きく、手もかなりごっつい人なので、父の仕草をみてまるでアイアンクローだと言ったのかもしれない。
この物語の主人公は、そのフリッツ・フォン・エリックではなく、彼の家族だ。
エリック家には、ケビン、デビッド、ケリー、マイクという四兄弟がいた。
ケビンは二男で、長男は幼い頃に亡くなっている。
フリッツが活躍したのは1960~70年代、その後、4人の息子たちは皆、父親と同じレスラーの道を歩む。
プロモーターとなった父親はプロレス界で貪欲だった。息子たちを鍛え上げ、人気と実力を獲得するために、容赦なく兄弟たちを競わせ、メディアを引っ張り出し、タイトル奪取にこだわった。
息子たちは父親の言葉に逆らうことはほとんどなかった。
映画では、リングでのレスリングシーン、トレーニングシーンがたくさん出てくる。
でもそれを見て、「ロッキー」を観た時のような興奮はない。
それは父親のあまりにもスパルタなやり方に、時代が合わないと拒絶反応するからだろうか。いや、そうでもない。だって息子たちは当たり前に父の言う事を聞き、その期待に応えようとしている。ただやらされているのではなく、自らその道を選択しているように見えるのだ。
いや、待てよ、それはもう完全なコントロール下に置かれているせいなのか?
そんなことを自問している間に、物語は進み、フリッツ家に起きるあまりにも続く悲劇とそれに対峙する彼らから目が離せなくなった。
それは実際に起こった出来事で、フリッツ家は「呪われた一家」と呼ばれ、プロレス界のケネディ家などと言われているらしい。
調べればすぐに出てくるので、一つだけ敢えて書こう。
三男のデビッドは、25歳の若さで亡くなってしまう。全日本プロレスで来日中の出来事だったという。
近年、メジャーリーガー大谷翔平選手の活躍が、漫画より漫画、こんなストーリー漫画で描いたら「ありえない」とダメ出しされるのではないかと言われることがある。
最近の残念な事件も含めて、それはより一層ドラマチックになっているが、
エリック家に起きた事実も「嘘でしょ……」と思うことの連続だった。
せつないとか、ツライという言葉もなんだか上滑りしてしまうほどだ。
ケビンを演じたのはザック・エフロン。『ヘアスプレー』や『ハイスクール・ミュージカル ザ・ムービー』などのキュートなアメリカ青年のイメージがあったが、今作ではとにかく鍛え上げられたレスラーのムッキムキの体が話題にもなっている。
しかし、見どころはそれではなかった。ケビンが家族を思う気持ちとそれを証明するような言動に心を掴まれた。
弟たちも、ケビンの妻も息子も、それぞれに家族を思う気持ちに満ちていた。
プロレスに興味がない人は選ばない作品かもしれない。
でも、家族とは……を思う人には観て欲しい。
何より、プロレス好きな人と観に行くのが一番のおすすめだ。
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