アトリエM_こばやしいちこによるオリジナルブックレビュー。たくさん読んだ本の中かにおら、読者すすめの一冊をご紹介します。
温室デイズ / 瀬尾 まいこ
みちるの通っていた小学校は、ちょっと荒れた小学校だった。髪を染める子がいたり、遅刻する子がいたり、テストは平気でカンニング、まずい給食は食べずに、担任の先生にも歯向かう……一部が崩れると、互いに影響を与え合って、徐々にみんなが崩れていく。そんなわけで、低学年から高学年になるにしたがって、段々と崩れて行った学校だった。
しかし、優子という女の子は、だめなことはだめと言い、掃除をさぼる人がいれば注意した。こんな中で、正しいことを言い、正しいことをしようとする子がいれば目立つし、疎ましいと思われる。おまけに顔も可愛くて、家もお金持ちの優子は、やっぱり、案の定、身近に攻撃できるターゲットを探していたみんなのいじめられっ子になってしまったのだ。
親に空手を習わされ、さらにみんなが恐れる不良の男の子と幼馴染で仲が良かったみちるは人気者だった。小学生にとって、力の強さと言うのは絶対だ。
優子が、無視され、ばい菌扱いされ、持ち物を隠されたり、ひどいいじめにあっているのに、毅然としてした態度でいるのに対して、かわいそうだ、こんなこと良くない、と思ってはいた。でも、それを言って自分が次のターゲットになるのが怖かったみちるは、周りと一緒になって、いやむしろ率先していじめに加わっていた。そして、正直に言うと、まわりの友人にちやほやされ、調子に乗ったみちるは、彼女をいじめるのに快感を覚えていたのだ。
そんな中、優子が転校することになった。転校すると言っても、親の仕事の都合で遠くに、と言うのではなく、隣の小学校の校区に移るだけ。そのことが意味していることは、もちろんみちるや他のいじめっ子たちもわかっていた。優子は、転校していく日に母親と学校にあいさつに来て、いじめられていたことなど一言も言わず、「もうみんなと会えないと思うと寂しいです」とまで言って深く頭を下げた。そんな彼女に、いじめがばれるんじゃないか、彼女の母親に叱責されるんじゃないか、とびくびくしていたクラスメイトたちは泣いた。やってきたことは、子どもだから、泣いたから許されるってことでは決してない。しかしこの出来事は、みちるや他の子どもたちの心にとって、大きすぎる出来事だったのだ。
自分のことを嫌だ嫌だと思いながらも優子いじめに加担し、そのせいで彼女に転校を余儀なくさせてしまったみちるは、中学校で、そのいじめた女の子、優子と再会してしまう。そして、なぜか親友と言ってもいい関係になったみちると優子。中学校でも、可愛い優子はいじめにあってしまうが、同じ過ちは犯さない!とばかりに立ち上がったみちるが、こんどはいじめのターゲットに……
私が小学生高学年の頃だったろうか、とても仲の良い友人が出来た。そして、今考えると笑ってしまうのだが、お互いに、なぜだかわからないけれど、「あまりにも、二人が仲良しなのがみんなにバレると、いじめられる」と思った。だから、二人で、気を付けよう、注意しよう、と言い合った。
まず、交換ノートを作った。交換日記みたいなもの。日々の出来事や思ったことを書きあったり、絵をかいたりしたものを交換した。もちろん、渡すときは他の友人に見られないように。みんなでワイワイ話すのは構わないが、二人だけで仲の良さがわかるように話すのはやめよう、と決めた。でも、ノートを交換するのだけじゃあ足りない、心置きなくおしゃべりがしたい、と思った私たちは、学校に行く前、まだ朝食も食べていない早朝、待ち合せておしゃべりをするようになった。5:45に待ち合わせ、公園のブランコや、ベンチで心置きなくおしゃべりしたり、四葉のクローバーを探したり、持ち寄った漫画をベンチに座って並んで読んだりした。
その早朝1時間弱ほどのその逢瀬を、45X(ヨンゴーエックス)と呼んで、もちろんほかの友人たちにバレないようにしていた。
なぜ、そんなに二人で仲良かったことを隠してあんなに怯えていたのだろう・・・今となっては不思議で、いい思い出。あの時のあの子はどうしてるかなぁ。
45Xのこと、覚えているかな?