誰かと一緒に観劇すると、共感が何倍にも膨らんだり、違った目線がプラスされます。
作品をフィーチャーしながら、ゲストと共にさまざまな目線でエンタメを楽しくご紹介します。
今回ご紹介する舞台作品は、シアター代官山で上演中のミュージカル『You Know Me~あなたとの旅~』です。
観劇会第二弾でご一緒したのは、整理収納アドバイザーの大法まみさん、マリカジさんです。
※以下、作品のネタバレを大いに含みます。
1961年(昭和36年)、高校の同級生として出会った菜々子(樋口麻美)と百合絵(吉沢梨絵)。性格が正反対の2人は、そこから長い友情関係を築いていく。
女性としての生き方に直面し、ままならないことも多く抱える2人は旅を共にすることで絆を深め、互いをかけがえのない存在として大切にしながら妻となり、母となり、年齢を重ねていく。
昭和の価値観を妻に押し付ける菜々子の夫・眞司(東山光明)と母を応援したい娘の久美子(小多桜子)。
一方、百合絵の娘の千明(谷口あかり)は、母の愛情を求め寂しい思いを抱く日々。妻の生き方を応援する百合絵の夫・勝章と父にそっくりの息子・史郎(吉田純也)。
二人とその家族の人生の旅の行方は……。
普通って思えることこそが
すばらしい
マリカジ いつもいい所にいる史郎(百合絵の息子、千明の弟)が大好きでした! 私は家族の中で史郎のポジションになりがちなので。
大法 そうなんだ?
マリカジ シリアスな空間が耐えられないタイプなので、茶化しがちなんです(笑)。菜々子と百合絵だったら私はどちらかといえば百合絵タイプだと思います。
大法 だいたい(整理収納)アドバイザーは百合絵タイプだよ。
栗原 一方で「私が悪いの……」って言ってしまうタイプの人も多いよね。
マリカジ でもアドバイザーの役割としては、菜々子のような寄り添い方が必要とされますよね。傾聴して……。
大法 相手を受け入れてね……。
マリカジ でもこんなに長い間付き合える親友ってなかなか出会えなくないですか?
大法 私はいるわよ。本当に今日の二人の関係のような感じ。まあ私たちは百合絵寄りの二人で、バキバキ開拓していく感じ。
※ここで作品のきっかけとなった(高橋)亜子さんのお母様とそのご友人との葉書きに関するエピソードをプチ説明。(パンフレット)
大法 だから響く台詞が多かったんだ。
マリカジ そんなに奇抜なエピソードはないけれど、心に引っ掛かるところが多かったのは、リアルがベースにあるからこそなんですね。パンフレットのごあいさつ文の中に、等身大のミュージカル、描かれているのはありふれた日本人の姿と書いてありました。それがいかにすばらしいことか。私たちが「普通」ってつい思うものこそがすばらしいんですよね。
大法 当たり前とか、平和っていうことのすばらしさは、事件や災害が多い今を考えるにつけ実感するよね。
舞台上がシンプルだったから
ストーリーに集中できた
栗原 そういえば、始まる前に配役のページを見て「コロスとは?」と言ってましたよね。発音がヤバイ方になっていたので慌てて訂正したけれど(笑)、古代ギリシャ劇の合唱隊、歌や唱和で物語の状況を説明したりする役のことで、4人が黒い服を着ている時がコロスでした。
マリカジ 初めて知りました。勉強になりました。舞台装置がほとんどなくて、椅子とカーテンだけだったのも驚きでした。
大法 椅子はとっても上手く使われていたね。
マリカジ 衣裳も少しプラスするだけで、すごく工夫されてましたね。寒いところのシーンはあえて半袖に冬小物でしたけど、あれでもうすごく伝わりますもんね。あの時、会場が一瞬寒くなった気がしたんですけど、それも演出ですか?
大法 たしかに寒かった気がする。
栗原 さすがにそこまでのサブリミナル効果は使っていないと思うけど、そう感じたというのもまたすごい。
マリカジ シンプルだから逆にストーリーに集中できました。
大法 私が画期的だなと思ったのは、ミュージカルだけど大袈裟じゃなかったというところ。ミュージカルというとどうしても舞台設定もストーリーも起伏の激しい感じのものがイメージとして強くあるし、実際にそういう作品も観たことある。歴史ものも、ファンタジーもいいけど、今日の『You Know Me』は日常のミュージカルだということがすごいなと思った。日常がつながって出来ている人生。その中で伝えたいこと、聞かせたい台詞が音楽と結合することで、ストレートに伝わってきたのが素晴らしいと思う。
あれが演劇で普通の会話として聞いていたら「そんな恥ずかしいこと言うわけないじゃん」みたいなことになるかもしれないから。ミュージカルってこういう伝え方ができるエンタメなんだなと改めて感じました。
まさかの歌詞に驚いて
ずっとクルクル回ってる
マリカジ 歌詞の内容もすごく入ってきました。
栗原 特に耳に残った歌詞、ありますか?
大法 ♪女の人生クルクル回る……はやっぱり、そのまんまだーと思ったよね。♪私の順番 永遠に来ない というところも。
栗原 「女の人生」という曲ですが、あれこそ、普通の人がイメージするザ・ミュージカルではなかなか出てこない歌詞ですよね。二度目に出てくるときのタイトルは「女の人生<更年期>」ですからね!
マリカジ ホントだ!!
大法 愛だ恋だ じゃないリアリティがすごいね。
栗原 ミュージカルの中の台詞で「排卵日」が出てくるってなかなかないですよ。跡継ぎ問題があるわけじゃないサラリーマンなのに男子を望まれる……というのは、時代もあるし、住む地域とかによっては今もあるのかもしれませんよね。
大法 あるよー、全然あるよ。
マリカジ 今は昔より自由になっているような気がするけれど、誰かの期待に応えなきゃいけないみたいなものは常日頃感じますね。
整理収納のお客様や受講生さんでも「こんなに持っていていいんですかね?」と聞いてくる方は少なくないし。
大法 負い目に感じてしまう人とかね。
マリカジ 何かに対して申し訳ない気持ちでいる人というのは、現代も実は多いのかもしれません。なぜなんだろう?
大法 人に対して負い目を感じさせようとする人は必ず一定数いるよね。そこで客観的にというか、それはそれ、私は私と思えない人がたくさんいる。社会の仕組みのせいもあるけれどね。
栗原 他所の畑で起きている問題をわざわざ拾っちゃって、影響されちゃうってことですね。
マリカジ 他者への悪口を聞いて勝手に怖がってしまうみたいなこと、あります。
栗原 SNSなんてまさにそれだよね。すごく立腹しているけれど、そもそもあなたに言ってないよね……ということ、ありますもんね。
マリカジ・大法 そうそう!
たった一人でも
気づいてくれる人がいるということ
栗原 関係ない人の問題をわざわざ拾ってしまうのはあれだけど、私はこのミュージカルで何度聴いても泣いてしまうのが『You Know Me』。聴く度に、気づいてくれる人がいるってなんて尊いのだろうと思えるところなんだよね。それは四六時中一緒にいて、ずっと腕を組んでいるような間柄じゃなくてよくて、それこそ出会った頃に「無理して笑わなくていいんだよ」と百合絵が菜々子に言ったところ。気づかずスルーされてしまうことが多い場面で、たった一人気づいてくれる人がいるっていいなぁって。
自分が書く文章もたった一人でも「いい記事だ」って言ってくれる人がいたら、寿命が3年延びるような気がするもん(笑)。
マリカジ わかります。自分が理解されるわけがないという思いって根底にあるんですよね。それこそ私の場合は自分が描いている漫画で、「あのシーンはこういうことですよね」って気づいてコメントもらったりするのは嬉しいし、全部まるごと一人の人が気づいてくれることなんてありえなくて、部分部分をいろいろな人に気づいてもらえることも尊いことかなと思いますね。
阿修羅像は実物を
見なければ始まらない
栗原 そのほかに印象に残っているシーンや曲は?
マリカジ 阿修羅のダンスはボリュームと迫力がすごかったですね。
大法 面白かった~!!
栗原 阿修羅に関しては、のりさん(大法さん)にレクチャーいただきたいんですけど。「射すくめられる」というワードが歌詞に出てきたりするんです。
大法 阿修羅は竹宮恵子さんの漫画『百億の昼と千億の夜』で描かれたりもしているよね。あれは帝釈天と阿修羅の話で名作。
マリカジ 私は阿修羅といえばCLAMPの『聖伝-RG VEDA-』ですね。
栗原 数々の作品の中に出てくるということは、人々の心に何かを……なんでしょうね。
大法 あの像の前に行ったらみんな何か思うよ。私は友だちと旅をする先もだいたい寺社仏閣を観に行くの。
栗原 のりさんにレクチャーしてもらって奈良で観た時は、いろいろ感じるものがありました。私の場合、阿修羅像より広目天にロックオンでしたけど(笑)。
舞台での「阿修羅のまなざし」の場面は、カーテン越しの四人(四体)が素晴らしかったですよね。
大法 すごく良かった!演出がすばらしかった。栗ちゃんが私に「絶対に観に来て!」と誘ってくれた意味がわかったよ。実は最初の1分でわかったんだけどね。
マリカジ そんなに旅されてるんですか?
大法 今や旅先まで現地集合して現地で解散することもあるけどね。私の場合、友人が私よりマメにいろいろ調べてくれる人だから、あちこち行ってますよ。
マリカジ 現地集合、現地解散だったらいいなぁ。その旅憧れます(笑)。
大法 ずっと人と一緒がキツければ女同士だってシングル2室でもいいと思うよ。私たちは中学からの付き合いだから、だいたい同部屋だけど。
マリカジ 私はスケッチブックを持って一人旅、行きたいなぁ。
大法 一人旅もいいよね。ただ1点だけ、旅先で美味しいものを何種類も食べるってことが一人だと出来ないの。
栗原 美味しいもの食べて、味の感想言い合ったり、ハプニングを期待して誰かと一緒に出けたいタイプかも、私は。
大法 あ、三嶋大社に一緒に行った時に大笑いしたこと思い出しちゃった!
詳しくはコチラ
マリカジ 菜々子さんを演じた樋口麻美さんの声がすごく響いて好きでした。
大法 高い声の方なのかなと最初は思っていたけど、低い声もすばらしくて、さすがだなぁって。キャラも立っていて二人のコンビネーションもいいですよね。
マリカジ 嫌な感じの夫を演じた東山光明さんは、同級生役のところでも絶妙に嫌な感じ出しててすごいですよね。
まあ、最後はあの夫婦、ちょっとイイ感じになってましたけどぉ……。
栗原 時が流れて赦しのようなものも生まれていましたよね。
大法 菜々子さんが言い返すようになっていたのがまたいいよね。
栗原 長年連れ添って、割と厚かましく言えるようになっていたのは、最初に観た時の印象から熟している感じがしました。あれがリアルだった。
大法 あのシーンに救いがあったなぁ。
マリカジ そのほかは、旅の描写が細かくて面白かったです。本当に皆さん、芸が細かいですよね。千明を演じた谷口あかりさんは幼稚園児の声も上手でした。
栗原 細かいといえば、千明がかけていたメガネは年代によって形が違うものをかけているそうですよ(20日開催のアフタートークより)。
マリカジ えーっ、すごい! なんというこだわりよう。服装も時代が反映されていましたね。
栗原 エプロンではなく、前掛けでしたよね。布団たたきも出てきたし。
大法 ハーモニーも美しかった。お一人ずつが上手くないと6人であんなに難しい声の重なりは出来ないよね。
栗原 久美子を演じた小多桜子さん。
マリカジ お顔小さくて手足が長くて、歌声もきれい。
栗原 これからガンガン活躍されるはず! あと、実は私、百合絵役の吉沢梨絵さんが角松敏生さんプロデュースでアーティスト活動されていた頃、すごくよく聞いていたの。R&Bの曲調と声が好きで……。(ヤットイエタ!)
夫婦、家族は
育んでいくもの
栗原 私は菜々子が「白馬の王子様なんか現れない」と歌うところがリアルで好きなんだよね。ただ彼女はそう思っていて、言わない人だったよね。言わずに耐えるか、あきらめるのか、不満に思い続けるのか。理解してくれる人が近くに必ずいるとは限らないから、言うしかない。
大法 以心伝心頼みでいるのは嘘だと私も思う。
マリカジ とはいえ皆さん、若い頃はそれこそ運命の人がいると思っていませんでしたか?
大法 私は運命かはわからないけど、うちの旦那とは会った時に「この人と結婚する」って思ったよ。直感が働いたというか。
栗原 そういうの、よく聞くよね。ヒューヒュー。
マリカジ (松田)聖子も言ってましたもんね、ビビビッと来たって。
栗原 昭和だぁー。
マリカジ 私は若気の至りで運命の人がいる!って思ってましたけど、それは夢だってことは大人になってわかりました。でも、今日のミュージカルを見て、やっぱり育んでいくものなんだなと思いました。
大法 そうだよね。それは夫婦でも友だち同士でも。私は平田オリザさんの著書の『わかりあえないことから』(講談社)が好きなんだけど、わかりあえないことが前提でスタート、そう思っていたらどんな人とでも近くなれるんだよね。私はあなたのことなんて理解できないよというところからYou Know Meになっていくんだよね。
マリカジ このタイトルいいですよね。しっくりきました。
大法 歌の中では、相手がI Know Youっていうもんね。あの歌、とっても良かったね。
マリカジ あの曲の歌詞って、載ってるんですか?
栗原 パンフレットに2人のバージョンが載ってます! それにしてもYou Know Meが菜の花畑とラテンクラブ、全然違うのが天才すぎません?
菜々子は菜の花、百合絵は百合……じゃないんだから。
マリカジ タイミングもすごくよくて、そこで来るとは思っていないタイミングだったから。フラグが回収されたみたいな気持ちになりました。
栗原 しかも菜々子がラテンについて私も調べたのよとうんちくを披露するのもいいんだよね。人はさ、やっぱり人と関わることによって作用するんだよね。
大法 そうなんだけど、二人はキーとドアなんだよ。
マリカジ そこは対になっているんですね。
栗原 では最後に、『You Know Me~あなたとの旅~』を視て、今何か思うこと。目標や計画などがあれば教えてください。
マリカジ 一人旅への欲求が高まりました。スケッチ旅行がしたい!
大法 私はね、一緒にいつも旅をしている友だちに「あなたがいてくれてうれしい」って言う。普段はわざわざ言葉ではあまり言わないから。
栗原 最高~~!! ご一緒いただきありがとうございました!
2024年11月19日(火)~11月24日(日)
シアター代官山
脚本・作詞/高橋亜子
作曲・編曲・音楽監督/福井小百合
演出/横山清崇
出演/樋口麻美、吉沢梨絵、谷口あかり、小多桜子、吉田純也、東山光明
※公演パンフレットの編集を担当させていただきました。
公演パンフレット(税込1,500円)
A5サイズ カラー50P
歌詞掲載(一部)、インタビュー、キャスト紹介、稽古写真、クリエイタートークほか