ステージには神様がいるらしい。 だったら客席からも呼びかけてみたい。編集&ライターの栗原晶子が、観劇の入口と感激の出口をレビューします。
※レビュー内の役者名、敬称略
※ネタバレ含みます
ミュージカル『You Know Me~あなたとの旅~』。2024年の初演からわずか1年後の再演。今回は2チームで上演されると知って、再演って進化することが条件なんだなと感じた。今回もパンフレット編集で携わらせていただいたのだが、パンフレットも切り口を変えたり、デザインが変わったりしている。
初演の時もそうだったが、「これは私の物語なのではないか」そんな風に感じることが多い作品。私自身でなくても、私の知っている誰かの物語、そういうストレートさが感情を揺らし、涙腺を刺激する。
冗談のように言っていたのだが、本当に劇場の出口で今、観て来た人たちに「あなたの物語も聞かせて」と直撃取材したくなる。きっと皆さん、私の物語、私の知っている誰かの物語を語ってくださる気がするから。
Aチームを初日に観た。
樋口麻美さん演じる菜々子と、吉沢梨絵さん演じる百合絵。一見、百合絵のテンションに菜々子がすぐに引っ張られそうに見えて、実はそうでもない。置かれた立場や環境の違いはあっても、地力を感じるのは、実力派の二人が演じているからだし、この時代の空気感なのかなと思う。
だって自分たちの親世代を見ると、なんかやっぱりこの時代を生きてきた人たちって、逞しいよなって思うから。
M08とM15で歌われる名曲「♪You Know Me」には、それぞれ<菜々子><百合絵>とタイトルに名前がついていて、相手に向かって私があなたを知っている、あなたがいてくれて嬉しいという気持ちを伝える。
もうパブロフの犬状態でこの曲が流れると、涙腺が刺激されまくるのだが、それはつまり、自分を理解してくれる人がいることの安心、相手を理解できることへの誇らしさなのだろうと思う。
麻美さん、梨絵さんの二人が、すばらしき体幹(体的にも心的にも)で立ちながら、このYou Know Meな関係で歌うから、「あぁ、私にもそういう人がいるよ」とか「私にもそういう相手がいるといいな」と心から思えるんだ。そのためにはちゃんと自分が自分の足で立つってことも大事だと思わせてくれるのは、再演だからより感じられたのかもしれない。
千明を演じる谷口あかりさんは、ぐっと内面にフォーカスされていた。背伸び感じゃなくて、達観未満の冷静さが放っておけなくなる。その冷静さの反動でだめんずに引っ掛かるなよ……みたいな気持ちになったりね。きっと彼女は、大人と話すのが好きだったろうなとか、いろいろ想像したくなっちゃう。
史郎を演じる施 鐘泰さんは、あったかさをまとっていた。娘の千明にママのことを話す時、相手が小さい子どもだからというのではなく、自分の好きな人のことを知ってもらいたいという正直さとやさしさが詰まっていた。それはこの時代だったらとても画期的だったかもな、などとも思える。らいおんハート的な?
あと、めちゃくちゃピンクのマフラーが似合ってた。
眞司を演じる東山光明さんは、不器用さを味方にしていた。「自分、不器用なんで」という人が認められる時代は確かにあったし、仕事を言い訳に出来るくらいモーレツに働くのが当たり前だった時代に生きた男に見えた。いい加減にしろ! なんて強く言ってしまった後に、血圧も心拍数もすごくあがってしまっていたんじゃないかなと心配になったりして。
Bチームを数日後に観た。
土居裕子さん演じる菜々子と、飯野めぐみさん演じる百合絵。二人はプライドという杖を片手にしっかり持ちながら、相手にとってのヒーローみたいな存在になれる関係に見えた。
最初の出会いでもうそうなる予感があって、相手の声のトーンやため息を自分の中で反芻して歩みを進められる関係性。
チャーミングさも二人で追いかけっこするみたいで、心のニコニコが止まらない。泣きたいくらい相手を思い合っているけど、面と向かった時はグッと涙をこらえて笑顔になる。そういう絆ってとてつもなく強いんだよね。
裕子さんの歌声は、蒸気のようにワーッと上昇して、そこから客席にファーッと降りて包み込む。めぐさんの歌声は、花びらが開くようにパーッと広がって、客席にいる人たちも両手を広げてそれを浴びる。
心に沁み込むのはもちろん、皮膚からも吸収できたような気分になった。
千明を演じる敷村珠夕さんは、迷いを隠さない等身大だった。自分の中に芽生えるこのモヤモヤとした気持ちの正体にイライラしたり戸惑ったり。ただ母に甘えたいわけではないという複雑な気持ちがリアルだ。大人になって、母と距離を取ってしばらくしてからの千明が、なんだかホッとしたように見えて、こちらもホッとした。
史郎を演じる広田勇二さんは、愛情MAXだった。百合絵への絶大な信頼がそこにあって、どこに行っても「うちの奥さんはね……」とか言いながら、「いや、奥にはいないんだけどね」とか言ってそう。孫にだって奥さん自慢しちゃうような、でもそういう人が世界を救うんだよね、なんて思える。
眞司を演じる戸井勝海さんは、戸惑いと二人三脚だった。社会から求められる夫像と、家族の前で見せたい理想の夫像、実はだれも正解なんて持っていないから、戸惑うし間違えるし、止まれない。定年を迎えた後の眞司&菜々子夫婦の居方がリアルだったし微笑ましかった。
両チームで久美子を演じる小多桜子さんは、背が伸びていた。いや、それは本当の話ではなく、役の中で背丈が伸びていく感じが素敵だった。伸びるタイミングやスピードは、AチームとBチームでも微妙に違くて、どこの部分がそうと言明出来ないけれど、その順応性が子どもが親の姿を見て育つ感じと絶妙にリンクしていた。
初日に一緒に観た友人は、泣いたら止まらなくなりそうだったから、冷静に観たと言っていた。うん、たぶんそう。
Bチームの公演を一緒に観た友人は、「モヤモヤが晴れた」と涙を拭いながら言っていた。久しぶりの再会だったので、観劇前に小腹を満たしながら、いろいろあったし、いろいろあるよねとおしゃべりをしていた。その「いろいろ」は人の数だけあって、誰のほうが大変で、誰のほうが楽ってものじゃあない。そんなことがわかる年代になったんだと改めて思いながら、互いの話を聞いた。
観劇に誘われた時、直感的に「これは観たい!」と思ったそうだ。
それは私がもっとも嬉しいリアクションで、そして実際に観たら「モヤモヤが晴れた。これはみんな観るべき!」と言ったのだ。
夜道で「みんな観るべきだってーーー!!」「モヤモヤが晴れたってーーーー!!」
と大声で叫んだ……ら近所迷惑なので、心の中で叫んで、ニコニコしながら何度もガッツポーズをした。
ミュージカル『You Know Me~あなたとの旅~』
これは私の物語、私自身でなくても、私の知っている誰かの物語。
2025年11月7日(金)~11月17日(月)
シアター代官山
脚本・作詞/高橋亜子
作曲・音楽監督・歌唱指導/福井小百合
演出/荻田浩一
出演/樋口麻美、土居裕子、吉沢梨絵、飯野めぐみ、谷口あかり、敷村珠夕、小多桜子、
施 鐘泰、広田勇二、東山光明、戸井勝海
パンフレット/A5サイズ 全52ページ 1,500円
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