気になるプロダクトやプロジェクトをエンタメ性や整理収納の考え方に寄り添いながら紹介し、読者の「キニナル」を刺激します。
5月2日から5月31日まで、中野のギャラリー冬青で開催中の「田中亜紀写真展
Long Way to Sunshine 1989-2025」をレポート。
田中亜紀さんとお会いしたのは、2024年のことだった。
集合場所で名刺交換をし、待機している時に私はこんなことを聞いた。
「ライフワーク的にはどんなものを撮られているんですか?」
今、考えると失礼というか、恥ずかしい。実は一瞬「?」のような表情をされた気がしていたのを鮮明に憶えている。
それはそうだ、ライフワーク的……なんていう表現は、アーティストに向けて言うものではない。ライターと名乗ると「普段はどんなものを(に)書かれているんですか?」と聞かれることは少なくないのだけれど、それと同じテンションで聞いてしまった。
田中さんは、「太陽ですね」みたいな感じで、言葉少な目に答えてくれた。それに対する私のリアクション、たぶんダサかった。
そのことをグワンと思い出したのは、「田中亜紀写真展 Long Way to Sunshine 1989-2025」を見たからだ。
住宅街の中にひっそりとあるギャラリー冬青。ドアを開けると入口で靴を脱ぎ、スリッパに履き替えて展示スペースにあがる。
展示作品はタイトルの通り、1989年から2025年までに撮影された写真。
まず手前には、89年から91年、田中さんがBrooks Institute of photography時代に撮影され、アメリカでプリントされた作品。ヴィンテージ・プリントというそうだ。
踊る一人、踊る二人など、ステージを思わせるアートな作品4点が展示されている。
音楽が聞こえそう、はずむ息が伝わってきそう、
そんな風に見えるかと思いきや、私には音楽もはずむ息も聞こえなかった。
それは動きがあるのに静止しているような美しさだったから。
一瞬その世界に足を踏み入れ、目の前で息を止めて見つめているような感覚になった。
それが無音感の正体だった。
「プリントの質が良く、保存状態も素晴らしい」と語るのは、ギャラリー冬青のギャラリスト野口さん。30年以上前の作品だなんて、言われなければ気づけない。
正面に展示されていたのは、額装ではなく、ヨコ7×タテ4コマの白縁の作品たち。
インデックスシートをイメージした展示だという。
1段目はコスモス。
2段目は海、しぶき
3段目は鉱物
4段目は人物と鉱物の合わせ
どれも太陽を感じるけれど、その見え方はいったい幾通りあるのだろうと思う。
この日の私は3段目の鉱物がとにかく気になった。美しく、何度見なおしても
4段の中でまず目がいくのは3段目の鉱物だった。
コロナの頃に、鉱物を集めたのだそう。
なぜ私は鉱物の写真に惹かれたのだろう。
グリーンに光る鉱物の写真に特に引き寄せられたのは自分が好きな色だからだけだろうか。
インデックスシートをイメージした展示全体を見るべく、体を引いて全体を見る。
左から右へ、右から左へ。この段、次の段……。
そうしてやはり3段目の鉱物の写真に惹かれた。
インデックスシートといえば、ギャラリー中央のテーブルに置かれた箱の中には、
田中さんが撮影後に必ずプリントしていたという大量のインデックスシートが収納されている。
それは田中さんの好きとこだわり、スタイルが詰まったシートだ。
1~2時間、同じ場所から動かず撮影し続けることがあるそうだ。
シートを見ていると、好き、こだわり、スタイルじゃ足りない、もっといろいろな単語、田中さんの信条が浮かんで見えてくる気がした。
ギャラリーを後にし、駅まで歩く道でまた昨年の初対面の時のことを思い出した。
田中さんのライフワークが何であるかを知った上で、せっかくだから質問するとしたら
何を聞きたいかなぁ、なんて思う。
質問です。「太陽ってどんなやつですか?」