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6月21日~25日、座・高円寺1で上演されるチーズtheater第7回本公演『ある風景』の稽古場レポートの後編。前編につづき、キャストの皆さんにお話を聞いた。
陽子の息子、肇を演じるのは、近年、精力的に舞台作品に出演を続ける小出恵介さん。
作品の中でのポジションについて次のように語ってくれた。
小出恵介(鈴木 肇)
いろいろな年齢層、いろいろなキャリアやフィールドの方が混ざったカンパニーの中で、僕が演じる肇は、周りに仕掛けたり、空気を作ったりという役ではなく、受け止める方の役回りという感じがしています。日々、自分なりに出来ることを探っています。
これまでは比較的、仕掛けるタイプの役を演じる機会も多かったです。役者にとっては仕掛ける役のほうがやりやすいのかもしれません。そういう意味では今回はチャレンジでもあります。
おそらくお客様は僕の感情を通して登場人物たちを観ると思うんです。僕がどうリアクションするかによって、周りはどういう人なのかという説明にもなると思うので、慎重に演じたいと思っています。
戸田さんには映像の演出を受けているような感覚を感じています。物を取る、息を吸う、間を外すなどのタイミングにこだわるのですが、その映像的な演出を舞台で成立させるという挑戦です。
こちらはかなり繊細にキャラクターを埋めていかないと、ガクンと抜けてしまいかねない。余計なものを削ぎ落す分、役者たちがかなり集中していかないと舞台がもたないんだという恐ろしさも感じています。
きっと今回も戸田さんらしい空気感と味わいのある作品になるのではないかと思っています。
探る、挑戦するというワードから、座長としての冷静な熱が伝わってくる。
つづいて、キャストの皆さんに、前編同様カンパニーの印象や演出について聞いた。
Q.このカンパニーはどんなカンパニーですか? 戸田演出の魅力について。
※( )内は役名
間瀬英正(近藤健一)
オーディションも含めて集まったメンバーは皆、いい意味で淡々としていて、自立した人たちの集まりだなという感覚です。主要な登場人物が出来事によって大きく変化するのが通常のストーリーだと思いますが、今回、戸田さんがやりたいのは、肇の周りにいる人たちのほうがわちゃわちゃしていて、主要な登場人物たちは実はどう思っているんだろうというところをお客さんに想像させるような形です。実は珍しい作品だなと思っています。
松戸俊二(玉田篤)
僕はチーズteaterへの参加は初めてですが、みやなおこさんと同世代なので、若い方々や映像でやってきた方、小劇場の方々など、自分が知らないメンバーとご一緒できることがとても新鮮です。
映画に近いような芝居として面白く見せたい、戸田さんはそこをめざしているんだなと思いながら取り組んでいます。
中野歩(奥田瑞穂)
自主的な座組だなと思っています。いろいろなアイディアが出るし、皆が誰かの言葉を待つのではなく、自分の思いを口にしたり、行動したり出来ているのでカンパニーとして健全だなと思います。
戸田さんは今回、いい意味で自分の書いた本を自分の本だと思っていなくて、「この本わかりにくいなぁ」なんて言ったりすることもありました(笑)。でも一緒に私たちと考えながら作るというとても柔軟な姿勢で作品作りが出来ています。
續木淳平(奥田進)
楽にいられるし、自由に発言できる楽しいカンパニーです。楽しいといえば、僕は演出の戸田さんと同じ関西出身で、今作でも唯一関西弁でしゃべれる役です。これまで演じてきたのがシェイクスピアなど古典劇がほとんど、現代劇はほぼ2度目なので声のボリュームなど、今はいろいろ探っています。
舞台経験が多いキャストも一様にこのカンパニーが目指すものを探りながら前に進んでいる。その姿に焦りはなく、面白がれていることは今作のキャストの層の厚さ故だろう。
最後に、この舞台の中心を担う、母・陽子役のみやなおこさんに上演を前にした今の気持ちを聞いた。
みやなおこ(鈴木陽子)
これは家族の話で、お母さんの話です。
私の母も89歳で関西に一人で住んでいるのですが、お稽古しているとすごく会いたくなっちゃうんですよね。もし母がこの間に一人で亡くなっていたらどうしようなんて考えたりして。稽古が始まって1週間くらいたったタイミングで、母から「さびしい」なんてメールが来たりしたので余計にそう思っちゃって……。
私が演じる陽子は、子供たちがコロナ禍や忙しさもあって帰ってこない間に一人で亡くなってしまいます。子供たちはすごく後悔したと思います。
この作品は母親の立場から見ても、キュッとするし、子供の立場から見てもキュッとするだろうなと思います。そして私の年代の方は、私と同じように感じる人が多いんじゃないかな。
戸田さんもこの作品は挑戦だとおっしゃっています。説明のような台詞は極力カットして、それぞれの役が心の中で思っていることは、役者が思い、演じて伝える、それを目指しているんですね。
稽古初日に戸田さんがおっしゃったのは、舞台でこそリアリティを表現したいということ。だから劇中には食べ物を作るシーンも食べるシーンもあります。やらなきゃいけないことはたくさんあるんですが、家族の普遍的な話を描く作品で、さまざまな挑戦のある作品をまもなくお届けできるのが楽しみです。
実はわずかな休憩時間の合間に、キャスト全員から一言ずつでも話が聞けるように取り計らってくださったのは、みやなおこさんだった。
その気遣いは、明るく世話焼きな母・陽子のキャラクターそのままのよう。
最後にはカラッと張りのある声で「記事、いっぱい書いてくださいね!」とメッセージしてくださった。
家族に会いたい、会いたかった、けれどその願いがすぐには叶わないという方は、
まずは高円寺でこの家族に会いに行けばいい。
(写真提供/劇団チーズteater)