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コツコツとチクチクと。紙刺繍クリエイターおおいしあこさんインタビュー

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気になるプロダクトやプロジェクトをエンタメ性や整理収納の考え方に寄り添いながら紹介し、読者の「キニナル」を刺激します。

今回は、紙刺繍クリエイターのおおいしあこさんにインタビュー。
キュートな刺繍が縫われたポチ袋にたちまち目を奪われてからは、SNSにアップされる度に「いいね」を押す日々。
あこさんには、以前、インテリア関連の取材でお宅を訪問させていただいて以来の再会でした。紙刺繍とは? から現在のクリエイター活動についてお話をうかがいました。

-- あこさんが刺繍を始めたのはいつ頃ですか?
以前から刺繍を習いたいと思っていて、北欧てしごと教室に通ったのが2019年のことです。教室では、オランダの刺繍学校で学ばれた先生に教えていただき、入門から上級コースまで一気に受講しました。
刺繍に興味はあったものの、実際に材料と道具を手にして刺繍をするのは中学校の家庭科の授業以来でした。

-- もともと裁縫がお得意だったのですか?
いいえ。裁縫は得意じゃないんです。ファスナーとか上手につけられないですし(笑)。
刺繍はふつう布にしますよね、刺繍枠で布を挟んで、チクチクとステッチしていきます。出来上がると嬉しくてとても満足するんですけど、枠から外してそのままにしておくと布の端がほつれてくるので、それを縫ってポーチにしたり、クッションカバーにしたりするなどの仕上げが必要になります。私は裁縫が得意じゃないから、せっかく刺繍をしたのにうまく作品に仕上げられないのが悲しいなと思ったんです。

-- それで紙刺繍を始められたのですね?
SNSで偶然、紙刺繍というのがあるというのを知って、トライしてみました。紙はほつれないし、端はハサミやカッターで切ればいい。縫った裏面が気になれば、紙を貼れば隠せるので私に合ってるなと思いました。
紙刺繍には、当然デメリットもあります。布と違って刺す位置が近すぎると貫通して糸が落ちてしまうんです。そのため使えるステッチは布より限られてしまいます。でも布とは異なるざっくり感があったり、素朴な感じに仕上がるので、それも味があっていいなと思い、試行錯誤しながら、自己流で作品を手がけています。

-- あこさんの作品といえば、ポチ袋ですよね。
初めは「無印良品」のノートの表紙に刺繍したり、コロナ禍で不織布のマスクがなかなか手に入らなかった頃に、布マスクに刺繍をしたり、不織布のマスク自体にもワンポイントで刺したりしながらおうち時間を楽しんでいました。
そしてどうせなら実用性があるものに出来たらいいなと思い、ポチ袋を思いつきました。ポチ袋ってお年玉のイメージがありますけど、小銭を返す時とか、ちょっとしたメッセージを入れるなどの用途で使えるかなと思って作り始めたんです。

-- 今やお年玉だけでく、お盆玉なんていうのもありますもんね。
おぼんだま? 知りませんでした。いいですね。夏の柄の刺繍は、お盆玉袋として使えそうです。
ポチ袋というスタイルが海外の方に興味を持ってもらえるのでは? なんて、びっくりなお声かけをいただいたりもしましたが、今はまだマイペースで作品を作ってSNSにアップしているところです。もともと一人で黙々と作るのが好きなタイプなので、紙刺繍は性に合ってるなと思います。

-- 現在は、紙刺繍を教えてもいらっしゃるんですよね。
はい。日記のような感覚でSNSにアップしていたところ、Instagram経由でお声かけいただき、miroom(ミルーム)というおうち習い事アプリで講師を担当しています。紙刺繍はさきほども言ったように、紙に針で刺していく途中で貫通してしまう恐れがあるので、細かいステッチをワークショップでお伝えするのは結構難しいんです。miroomでは、カードに草花などの柄を刺していただく比較的簡単な、初心者向けのレッスンをお伝えしています。動画で何度でも見直せるので気楽に試してみていただければと思っています。

-- 作品作りは1日のスケジュールの中でどの時間帯に手がけることが多いですか?
日中の太陽光じゃないと刺繍糸の色がうまく見えないので、やはり昼間に作業をすることがほとんどですね。台紙の色と糸との組み合わせなども気にしながら刺します。図柄を考える作業などは、夜にすることもありますよ。

--この刺繍独特のあたたかみが素敵ですが、あこさんが刺す上で大切にしていることは?
紙刺繍の場合は、ステッチの種類の限界もあってどうしても平面的な図柄が多くなってしまうのですが、少しでも立体的に出来ればいいなといろいろ試しています。刺繍ならではのぽこぽこ感、みたいなものを表現したいなと。

ミモザ(左端)のつぶつぶした刺繍はフレンチノットステッチ 。クリームソーダ(右奥)のような塗りつぶす刺繍は、紙刺繍ならではのコツが必要

図柄を決めていく時は、絵をうまく描くというより、丸や楕円をいかにきれいに描けるかみたいなところがポイントになります。例えば桜を刺す時に、5枚の花弁を目分量で刺していってしまうと歪んだりしちゃうので、定規を使って五角形の目印をしっかりと台紙につけておくんですね。
紙刺繍は面を埋めるのが苦手なので、サテンステッチといわれる刺し方はあまり得意ではありません。それを克服するためにニットのように編んでいく方法を使ってみたり、あれこれ考えながらトライしています。

手編みのセーターの雰囲気を紙の上で表現。ありがとうの気持ちを詰め込んだようなリボンを敷き詰めたポチ袋

-- とってもクリエイティブな作業ですね。
そんなそんな。リボンをたくさんつけたポチ袋なんかは、刺繍糸がどうしても中途半端な長さで余ってしまうのをもったいないなぁ、使えないかなぁ、と思って結んでつけてみたという感じです。こうすると立体的になるので、刺繍の一部にリボンをつけてアクセントにしたりもしています。
私、根が暗いのでこういうことしか出来ないんです。暗いと言ってもあまり信じてもらえないんですけど(笑)。そもそも目標を定めてガンガン突き進む……みたいなタイプではないんですが、思いついたら形にしてみたくなる性分のようです。「このステッチであの色で刺したらこうなるかな」のように頭で思いつくと、次の日にすぐやってみる。最近も、スマホケースに入れたら可愛いかなと思いついて、すぐに台紙をスマホケースのサイズに合わせて刺してみたりしました。

クリアーのスマホケースが紙刺繍でキュートに進化。リンゴマークをくり抜いて装飾したところもあこさんのおしゃれなこだわり


-- ポチ袋自体の質感もいいですよね。紙や刺繍糸など、道具の管理も気になります。

台紙は神田・神保町にある竹尾見本帖という紙の専門店で購入しています。紙は厚すぎても薄すぎても刺しづらいので、ベストな厚さの紙を使用しています。
刺繍糸は滑りのいい比較的光沢感のあるメーカーのものを使っています。刺繍する際、糸は6本束になっているものを1本ずつ引き抜き、主に2~3本どりで使うのですが、使い始めると絡まったりしやすいので糸巻きに巻き付けて保管します。その地味な作業も結構好きなんですよね。糸巻きは通販などで簡単に手に入るので、同じサイズで揃えて色分けし、糸巻きの端に色番号を記入して管理しています。きれいに並んでいると選びやすいし、見た目もいいですよね。

微妙な色の違いが揃うあこさんの刺繍糸収納。特に緑のラインナップがお気に入り

-- 最後に今後の目標などありましたらお聞かせください。
先ほども言ったように、あまり壮大な目標や野望はありません。コツコツ楽しみながら紙刺繍を続けていきたいですね。刺繍はさまざまなジャンル(種類)があるので、すでにされている方や、始めてみたいと思っている方もいると思いますが、紙刺繍も面白そうと感じていただき、始めるきっかけになれたらいいなと思っています。

あこさんの最新作。数種の細かいステッチを駆使した華やかな作品

(写真提供・おおいしあこ/写真・文・栗原晶子)

おおいし あこ(Ako Oishi)
メーカー勤務後、料理家として企業のウェブサイトや雑誌・リーフレットのレシピ開発、イベントでの調理や、自宅にて少人数制の料理教室開催など約10年間活動。2019年より、本格的に刺繍を学び、オリジナルの紙刺繍制作をスタート。現在、おうち習い事アプリmiroom(ミルーム)にて、あこ先生として「ゆったり時間に作り置き 紙刺繍のカード講座」を担当している。
Instagram →@
handcraftako