ステージには神様がいるらしい。 だったら客席からも呼びかけてみたい。編集&ライターの栗原晶子が、観劇の入口と感激の出口をレビューします。
※レビュー内の役者名、敬称略
※ネタバレ含みます
たやのりょう一座がまたつかこうへい作品の上演に挑むと聞いた。
『熱海殺人事件』と『ストリッパー物語』の二作品を回替わりで上演。その試みに興味が湧いて、是非、稽古場取材をさせていただきたい、そう思っていた。
しかし、ちょうどお稽古期間の辺りで思いがけないことが起こったり、仕事が立て込んだりでどうしても時間のやりくりがきかず、断念して公演本番だけを観劇することにした。未見の『熱海殺人事件』を選んだ。
やっぱり稽古場取材をしたかったなぁと思った。なぜそう思ったのかはうまく言葉に出来ないが、プロセスからの本番を伝えることに何か加わりたい気持ちが芽生えたのかもしれない。
有名な作品なので、作品自体を語る方は、過去も現在もたくさんいるだろう。
だから私は出演者4人の特に声について書いてみたい。
木村伝兵衛部長刑事を演じたのは、劇団EXILEの小澤雄太さん。昨年上演された一座の『蒲田行進曲』にも出演されていた。端正なお顔立ちで、黒のタキシードを着こなす。いや、着こなすと書いたがちょっとダサく着こなしているように見えた。
木村伝兵衛という男のそれが滲み出ているようで、カッコイイ〜〜か??ん? みたいになる。言うこともすることもなんか辻褄が合っているようで、イヤイヤイヤ違うっしょとイチイチなるわけで。
声もそうだった。長台詞の箇所がカッコイイ。でも例えば熊田に指示を出したり、ハナ子に絡んだりすると途端にちょっとダサくなる。それが計算なのか、そういう本なのか、本人なのかはわからない。でもとんでも男の木村伝兵衛が伝説だったりするのは、そういうことなのかもしれない。
ハナ子を演じた小池里奈さんは、自由度を身につけた声だった。舞台役者の上手さとは違う、コケティッシュさとでも言うのだろうか。そしていざとなったら「自分、出来ますけど!」みたいな度胸感が声にも表れていた。キャラクターっぽく作り込めばむしろラクに演じられるのかもしれない。でもきっとそれは求められてもないし、許されてもいないのだろう。その難しさの中で度胸ある声を何度か披露していて面白かった。
犯人・大山金太郎を演じるのは座長の田谷野亮さん。つか作品への愛が深い。作品の中のどこにボルテージを振り切ればいいのかを心得ているのだろう。一座の公演においてはバランス調整も担っていそうだ。声色でも声量でもなく、声の力が面白い役者だと感じるので、もっとあえてアンバランスでもいいのかもしれない。そんなことを期待してしまう自分がいた。
富山県警から警視庁の木村の元へ来る熊田留吉を演じたのは松川尚瑠輝さん。テレビドラマではよく拝見するけれど、舞台は初めてに近いらしい。
いい声だ。そして声が聞こえる顔だった。うまく言えないが、顔も語っていた。それは長く映像を中心に俳優をしているからなのかはわからないけれど、やり過ぎ感があるわけではなく、こういうこと言う人、こういう声を出す人ってこういう顔するよなぁ、こういう顔だよぁみたいな妙に合点がいく感じだ。
もっと舞台でいろいろ観てみたい。そんな思いがした。
あ、これにも触れておこう。途中裸になるシーンがあるのだが、かなりの美ボディ!? を見せていた。なんかギャップを狙ってこれは面白いってことなのだろうか、はたまたやはり脱ぐからには……みたいなことなのだろうか。
熊田の体ではないだろうと思わず笑ってしまったのだが、客席は静かだったよね。
真相を聞きたい。
熊田には白くてちょっとぽちゃっとしていて欲しい気もしちゃったのだが、こういうこと書くのも下手をするとハラスメントっぽいでしょ。
いつものように、終演後は足早に紀伊國屋ホールを後にした。
紀伊國屋ホールでの観劇の時はなぜかそうなることが多い。
4人の声の印象を思いながら、そういえばチャイコフスキーが頭の中でぐるぐる回って残ることはなかったなと気づいた。
チャイコフスキーより、声に意識がいっていた、ということなのだろう。
2025年11月1日(土)~11月9日(日)
紀伊國屋ホール
作/つかこうへい
演出/こぐれ修(劇団☆新感線)
出演/小澤雄太(劇団EXILE)、松川尚瑠輝、小池里奈、田谷野亮
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