アトリエM_こばやしいちこによるオリジナルブックレビュー。たくさん読んだ本の中から、読者におすすめの一冊をご紹介します。
愛しても届かない / 唯川 恵
大学生の七々子が合コンで一目惚れのような形で駿に出会った時、彼には既に恋人がいた。そういう状況、そんなに珍しい話でもない。
その合コンに来た男性の中で、飛びぬけてイケメンというわけでもないのに、なぜだか駿ばかり目で追ってしまう。実は七々子には、れっきとした恋人がいる。イケメンで優しく、七々子のことだけを大切にしてくれる。なのに、自分でもなぜこんなに駿に惹かれるかわからない。そして、七々子がどうしても惹かれてしまった駿にだって、しっかりと恋人がいたのだ。要は、恋人がいる人たちが合コンに参加した、というあまり感心できない状況で、七々子は恋に落ちてしまったというわけだ。まあ、これもそんなに珍しいことでもない。
それを知っても七々子は、相手にも自分にも恋人がいるし、「なあんだ。じゃああきらめよ」
とはならなかった。どうしたか?まず、駿の恋人、美咲のアルバイト先に潜り込み、彼女と友達になることにしたのだ。
なかなかに、怖い女だ。
愛しい彼の恋人は、とてもいい子だった。仲良くもなってしまった。こんな不純な動機の上に成り立っている友情だから、とてもいびつ。いい子だからこそ、辛い。でも、駿に近づくためだから、彼氏(駿)の相談をしてくる美咲に、関係が壊れるようなアドバイスをしたり、陥れるようなことを七々子はいろいろやってしまうのだ。そんな自分に嫌気がさしたりもしつつ、でもどうしようもなく、彼に愛されたいのだ。
周りを巻き込み、いろいろな人を傷つけても、彼を手に入れたいのだ。
七々子と彼はどうなるのか?美咲との友情は?読みながらヒリヒリしてしまうけれど、止まらなかった。
「好きになってはいけない人」というのは、個人的にはいないと思う。けれど、「好きにならないほうがいいんじゃないかな?という人」は、いる。
久しぶりに、ほんとに久しぶりに友人に恋愛相談を受けた。その相手というのが、私が思うに、「好きにならないほうがいいんじゃないかな?という人」だった。
「まだ、そういうんじゃないから…… 」 と言う友人。
「じゃあさ、まだ好きじゃないんなら、止められるんなら、やめた方がいいんじゃないかなぁ」 と私。
「……」
どうやら、もう、好きになっているらしい。
そういう状態の人間に、何を言ってもたぶんダメだろう。本人だってダメだってわかってるんだから。でも、余計なことかもしれないけれど、いろいろ言った。
黙り込んでしまった彼女の肩に、桜の花びらがふわふわと落ちてきた。それに気づいた彼女は、そっとそれをハンカチに挟んだ。
「押し花かなんかにするの?花びらじゃなくて、丸ごとのお花もけっこう落ちてるじゃん。そっちの方がいいんじゃない?」
と私が言ったら、
「だって、せっかく私の肩に来てくれたから……」
恋は彼女をとても可愛くしてしまった。
願わくば、彼女がなるべく傷つきませんように。