アトリエM_こばやしいちこによるオリジナルブックレビュー。たくさん読んだ本の中かにおら、読者すすめの一冊をご紹介します。
押入れのちよ / 荻原浩
いつもぴったりと一緒の小さな姉妹。自慢の優しいお母さまの作るロシアのスープにはいったい何が入っているのか……そして、なぜこの姉妹はこんなにもいつも一緒で仲良しなのか……
死んでしまった後、僕は愛しい人と、大切な友人にメッセージを伝えるために、なんとか姿を、声を表そうと思うのだが、それは思いのほか難しいようで……
家賃が破格に安いのに、相場より広い。日当たり良好、駅からも徒歩9分。礼金なし、管理費なし。ちょいとボロいけれどいい物件。不気味なほど。そんなアパートに住むことになったサラリーマン。予想通り、いわく付き物件だった。
この本は、怖くて、気味が悪くて、ゾっとしちゃったり、幽霊が出て来たりする話もあるのだけれど、ちょっとホロリと切なくもなってしまう9つのお話からなる短編集。
幽霊とかは怖いけれど、不思議な話や、ジェントル・ゴースト・ストーリーと呼ばれるものは、昔から大好きだ。
この本のタイトルにもなっている「押入れのちよ」なんて、とても可愛らしくて好きだ。確かに幽霊のお話なのだけれど、そういったお話が苦手な方もしばらく怖いのを我慢して読んでみて頂きたい。コミカルで可愛らしく、人間のことを怖がってしまう「ちよ」のことを好きになってしまうことを保証する。
母の子供のころの話で、お気に入りの話がある。
今はもう無くなってしまったけれど、母が生まれ育って、私も育った小さな一軒家。この家を買ったのは祖父だが、買った時すでに築年数がだいぶ経っていた古い家だった。そのせいだけでなく、結構安く買えたそうだ。ある条件があったから……。
その家には、押入れに女の人が住んでいて、その人の行き先が決まるまで、押入れに住まわせてやっておいて欲しい、というもの。食事などお気になさらず。一緒に食卓を囲むでもなく、押入れから出てくることもなく、本当に押入れだけを貸してあげていたらしい。『押入れに女の人付きの一軒家』を買ったのだ。
「え~?そんなことってありうるの?お風呂とかトイレとかどうしてたの?」
と母を問い詰めても、
「お母さんもわからないわよ。だってまだ4、5歳くらいだったから……」
と眉尻を下げるばかり。
4、5歳の子供からしたらおばさん、に見えたその女の人。行く先が決まったのか、いつの間にか、いなくなったらしい。
なんだったんだろう? ホントのことを確かめたくても、祖父母はもう亡くなってしまっていて聞けず、母の妹は赤ちゃんだったから、まったくあずかり知らぬ話で……
母にしか見えない押入れのちよ、的な、不思議な霊的なアレだったのか、それとも、本当に下町の人情味あふれるお話として、いっとき住んでいた人間の女性だったのか?
どちらにしても、私はこの話が大好きで、時々、母に「ね、あの話だけどさ……」と振ってみる。
また新たな情報、記憶がよみがえることを期待して。