アトリエM_こばやしいちこによるオリジナルブックレビュー。たくさん読んだ本の中かにおら、読者すすめの一冊をご紹介します。
ルビンの壺が割れた / 宿野かほる
水谷一馬は、偶然、フェイスブックで知人らしき女性の名前を見つけた。
彼女は僕の知っているあの彼女だろうか?
それを確かめるために、水谷は結城未帆子のプロフィールページを丹念に調べる。そこに、自分の知っている女性だと特定できる情報が載っていないわかると、友人の名前に見覚えのある名前がないかと、1人1人の名前を確認し、過去のコメントを遡る……また、その友人のページに飛び、そっちのほうに投稿されている写真に何か決定的な写真がないかとじっくりと調べ……気持ちは、わからなくもないけれど、ちょっと……いやかなり怖い。
水谷が、こんなにも、結城未帆子が自分の知っている女性なのかを確かめたかったのには理由がある。彼女の名前が、ただの知人ではなく、30年近くも会っていない学生時代の恋人と同じだったからなのだ。
調査のかいがあって、どうやら彼女がかつての恋人だったことがわかった。ほんのり甘酸っぱい気持ちになりつつ、水谷はその女性、結城未帆子にメッセージを送る。今、元気でいるのだろうか。結婚はしているのか。どこに住んでいるのか……でも、返事は不要です、と相手の負担にならないように書いて送ってしまった。しかし、実際に返事がないとちょっと落ち込み、また不安になり、もしかして、亡くなって……? と、再度メッセージを送ってしまう水谷。そんなこんなで月日は流れ、2年ほどが経ち、待ちに待った彼女からのメッセージが来たのを皮切りに、2人のやり取りが始まるのだ。
この小説は、メッセージのやりとりだけで構成されている。最初ぎこちなく、他人行儀だった2人が、徐々に学生時代の話や、恋人同士だった時の思い出、あの頃の誤解の答え合わせなどをし出す。じゃれあうように、なじってみたり、ちょっといい雰囲気になっちゃったりもする(メッセージのやり取り上で)……しかし、徐々に明らかになる衝撃的な過去、本当の2人の関係、2人の気持ち。メッセージのやりとりだけで、こんなにも生々しいのが、すごい。ぐいぐい惹き込まれ、あっと言う間に読んでしまった。
さまざまなSNSが発達する現代ならでは、のこんな再会。私にも、SNSが無ければ会えなかったよね、と言いあいながら、ン十年ぶりかの食事会を開いた経験が何回かある。また、SNS上で、ちょっとしたアドバイスを求めて、会ったことはない「友だち」に助けられたことも。
私も、そんなにマメにではないけれど、愛犬の可愛い写真が取れた時や、美味しいものを食べた時など、たわいもないことを写真付きでSNSに投稿したりしている。そこの『お友だち』には、リアルの学生時代からの友人以外にも、SNS上でお互いに「いいね」をし合うだけの人たちもいる。会ったこともない、きっと遠くに住んでいる『お友だち』。
ある時、自分で作ったアクセサリーが壊れてしまって、自分で直すことが出来なそうだったので、家の近所の「アクセサリー修理します」とうたっている工房に修理に出してみたら、最初に壊れていたよりひどく壊されてしまって、「すみませんね」で済まされてしまったことがあった。悲しくて、悔しくて、でも言えなくてSNSで吐き出したら、いつも「いいね」をしてくれる『お友だち』が、
「なんか、ひどくないですか?! すみませんで終わりなんて!」
と、文字面でもなんとなく私のために怒ってくれていることがわかるコメントをくれた。それがうれしくてうれしくて、悲しさも悔しさも忘れてしまった。
使い方によっては、危険な物にも、便利な物にもなる。
気を付けて上手に使いたいものだよね。