アトリエM_こばやしいちこによるオリジナルブックレビュー。たくさん読んだ本の中かにおら、読者すすめの一冊をご紹介します。
親孝行できるかな? / たかぎ なおこ
イラストレーターになるために24歳で三重県から上京した筆者も、東京生活17年。たくさん心配をかけ、そしてそれ以上に応援してくれた両親も、今ではすっかりシルバー世代。立派にイラストレーターになることが出来た筆者が、そんな両親にいろんな形で親孝行をする、コミックエッセイ。
筆者が上京したての頃は、ご飯を食べるのも家賃を払うのもギリギリだった。そんな彼女が楽しみにしていたのは、まとめて休みが取れるたびにちょくちょく遊びに来てくれる父親だった。いつもよりちょっといいご飯が食べられたり、住んではいるが、まだろくに出来ていない東京観光をしたり……筆者の狭いアパートに滞在し、数日を過ごしたのち、ちょこっとお小遣いを置いて帰っていく父。「東京なんて危険なところに、1人で……」と心配でたまらなかったろうに、応援してくれていた。
今でもときおりふらりと東京に遊びにくる父。ここ最近は、
「仕事を片付けて、父の好きそうなところにいろいろ案内する時間をひねり出さねば!」という心配をするくらい、忙しくなった。父が喜びそうなお店を調べて探して案内したり、もうすっかり孝行娘……
しかし、喜ぶだろうと思って、見つけておいた父が好きそうなカレー屋さんに意気揚々と案内しても、そんなに喜ばなかったり、夜、寝しなに銭湯に行った帰りに、夜ご飯を食べたのにもかかわらず、嬉し気にラーメンを屋に入りたがる。え?こういうのがいいんだ?と思っちゃうところで喜んだり、なかなか娘の思うようにはいかない……
海外旅行に行ったことがない父と、若い頃に1度だけ行ったことのある母親。一念発起してそんな二人を韓国旅行に連れて行くことにした筆者。もちろん段取りもするし、申し込みもする。下調べにも余念がない。
「ガイドブックくらい読んでおいてよ!」とガミガミ言うも、
「なおこがいるから大丈夫だろ~」とすっかりまかせっきりで読みもしない両親にちょっとイラつきつつも、二人が喜びそうな場所をちゃんと考える。だってこれは親孝行の旅だから。思っていたポイントで喜んでくれると本当にうれしい。
ほぼ同世代としては、わかるわかる、と、しみじみ。
昨年、私も母親と2人で伊勢神宮に旅行に行った。
母は、「伊勢神宮、行ったことない、行きたい」ということを表明し、あとは、オ・ネ・ガ・イ・ね、のスタンス。もちろんです。私がやります。宿と電車の時間で綿密なスケジュールを組んだ。
当日、伊勢市駅に到着。昼前なのでまず、ここは、伊勢うどんでランチでしょう。駅からの距離も離れていない店を探しておいて得意げに提案した私に母が、
「お母さん、伊勢うどんって、あんまり好きじゃない……」
言い放った。何年か前に、東京で、ナンチャッテ伊勢うどん風うどんを食べて、美味しくなかったらしいのだ。慌てた私。でも、そんなこともあろうかと、もう1つの候補は探しておいたので、大丈夫。さすが私。クチコミもなかなかの日本料理・創作料理のお店へ。手てこね寿司も美味しく、実は私が食べたかった伊勢うどんも、プラスいくらかでハーフサイズがつけられる。カンペキ。
母も、だいぶ気に入った様子。そして私の伊勢うどんを少し食べて、
「あら、ここのは、美味しいわ」と。
伊勢神宮を参る前の禊の神社である二見興玉神社へ行ったり、赤福の穴場を調べて、並ぶことなく堪能。内宮・外宮両方とも効率よく回れた。「足が疲れた」と言うんじゃないかな?と思っていたので、目の端に捉えていた駅前のリフレクソロジーのお店。帰りの電車の前に少し空いた時間に、ほぐしてもらい、お土産を買う時間も多すぎず少なすぎず一泊二日。無駄なく楽しめた。
「ね、今回の旅行、カンペキじゃない? とくに程よいところに足のマッサージを入れるところ、我ながら感心してるんだけど」
と、母に言ってみた。
「そうね。助かるわ」
まあまあ、いや、けっこう嬉しそうだっだ。
帰りに伊勢うどんをお土産で買って帰った母に、ほぅらね、としめしめの娘だった。